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2007年度大阪府生協連「社会福祉問題研修会」を開催『ワーキングプアの増大と今後の社会保障制度を考える』

タイ王国の外務省副次官一行が、2月4日(金)大阪府生協連を訪問し、大阪いずみ市民生協の商品検査センターを見学しました。
Ⅰ.貧困を考えることの意味  Ⅱ 現代の貧困の特徴  Ⅲ 現代の貧困化の構造  
Ⅳ 突き当たった「最低生活の岩盤」 Ⅴ ナショナル・ミニマムの体系  
Ⅵ ナショナル・ミニマムの機軸としても「最低生計費」
講師: 佛教大学 社会学部 教授 金澤 誠一 氏
■日時:2007年7月9日(月)  ■場所:大阪府社会福祉会館3階第3会議室
『現代の貧困と「最低生活の岩盤」』

Ⅵ ナショナル・ミニマムの機軸としても「最低生計費」


最後でありますが、こうしたナショナル・ミニマムというのは、かなり幅広いさまざまな領域を含んでいるということはお分かり頂けたと思うのです。それを求める運動もかなり幅広いものであると考えられるわけでありますが、それは、1つに収斂して行くように見られるわけです。ナショナル・ミニマムの最も重要な要としての最低限度の所得保障ではないかと思っているわけです。保護基準が引き下げられて、更に本格的な見直しを図ろうとしている時、保護基準を目安とした運動の要求づくりは、遅かれ早かれ、できなくなる。したがって、労働組合による「下からの」「最低生計費」の算定が必要となってくるであろうと考えられるわけであります。

1.京都総評による「最低生計費試算」
京都総評による「最低生計費試算」には私も深く関わっているのですが、その目的は、第1に最低賃金の要求のために「若年単身世帯」の最低生計費として、第2に生活保護制度の老齢加算廃止に対する「生存権裁判」のために高齢者単身の最低生計費として試算しています。京都の「生存権裁判」においては、「賃金と社会保障」という雑誌に発表した私の論文を証拠として裁判所に提出しています。
「最低生計費」を試算していく場合、何かあげるべきものを想定して、現実とかけ離れた額を出す可能性もあるわけですけれども、そういうやり方は取ってないということで、むしろ、今日の労働者や高齢者世帯の生活様式、慣習、社会活動を知るために、「持ち物財調査」「生活実態調査」「価格調査」を実施しておりまして、それによって知り得た資料を基礎として、必要財貨・サービスを一つ一つ積み上げて計算する「マーケット・バスケット方式」によって算定しているということであります。その結果、「若年単身世帯モデル」の最低生計費は、月額198,000円余りとなるわけであります。その内訳は消費支出が約150,000円、非消費支出の税金・保険料などが約33,000円、貯蓄・準備金が15,000円となっています。貯金・準備金というのを出しているのですが、考えれば、最低生計費とは平均額なんです。しかし、たとえば身長は平均の身長、体重も平均の体重を前提として考えている。実際には、体重の重い人も軽い人も、身長の高い人も低い人もいるわけです。ですから、幅のあるものとして考えていかなければならないわけです。また、交際費とかも健康状態や社会に置かれている状況によって多少変わってくるのではないかというふうに考えるのです。健康状態がすぐれなくて病院に行くにしてもタクシーを頼まないといけない状況になってくるわけで、個人の抱えている状況とか身体的特徴とかは、個人的な差をもたらしているわけです。そこで、所得の一割を準備金と考える。そうして計算して行きますと、約198,000円ということになるわけです。したがって、保護基準と比較しますと、大都会の保護基準は118,700円で、先ほど述べた理由から1,4倍にしますと2割ぐらいしか高くないわけです。
この試算に先駆けて予備調査をおこなったのですが、独身の若い人たちがどういう生活をしているか、アパートまで訪ねていって調べてみると、15万円足らずの収入のある人で、めったに無い1万円位のアパートに住んでいるのです。1万円位の家賃でないと生活出来ないわけです。フリーターや非正規の収入15万円位なら、親元から離れて自立出来ない状況ではないかと思われます。いわゆるパラサイトシングルが実際には増えているのです。
この間、福祉保育の関係の調査に行ったのですが、親と一緒に生活しているというのは、やっぱり多いですね。自立出来るだけ賃金を貰っていない、自立したいけど自立出来ない。そういう人ばかりでは無いですけれど、多いという状況です。
高齢者の場合もほとんど同じで、185,000円位で、保護基準と比較しますと、大都会の保護基準は110,700円ですので、1,4倍した額の120%となるわけです。
こういう最低生計費を試算するということは、それは京都総評の調査研究を通して、同時に、労働者が自分たちの生活を見直して、自分たちは最低生活が保障されているかを検証していくということになるわけです。それは最低賃金闘争の要となるものだと思います。
OECD基準の「貧困ライン」(国民全世帯の所得の中央値の2分の1)を示すと、わが国の国民全世帯の中央値は476万円であり、その額の2分の1の「貧困ライン」は238万円となる。この額は、算定された「若年単身世帯モデル」の最低生計費とほぼ同額となる。また、この額は時給にすると1,240円となるわけで、これぐらいは必要だと思っているわけであります。

2.「最低生計費」を機軸としたナショナル・ミニマムの実現
低所得層・ワーキングプアは、現代の資本主義の矛盾をまともに受けている階層であり、しかも、労働能力を保有し、今は未組織のまま孤立しているとはいえ、まだ独自の組織と運動を展開しうる限界にある階層である。このような低所得層が、運動において何の役割も果たしえない場合には、運動の足かせとなり、運動全体を後ろに引っ張る「おもり」となるであろうということです。したがって、この階層の組織化こそが大変重要であるということです。
低所得層が増えれば増えるほど、国民・労働者は相互の足の引っ張り合いが始まることを考慮すれば、低所得者の生活の底上げが必要だということです。最低生活を保障してお互いに足を引っ張り合わないようにすれば、その岩盤の上にそれぞれの職域における基幹労働者・サラリーマンの賃金が労働組合の力量によって獲得され、そびえたつことができるのです。
そのためには、低所得層の組織化とその連帯による「最低生計費」に基づく最低賃金の大幅な引き上げが大変重要なことだと考えているわけであります。
いい時間になりましたので、終わります。
Ⅰ.貧困を考えることの意味  Ⅱ 現代の貧困の特徴  Ⅲ 現代の貧困化の構造  
Ⅳ 突き当たった「最低生活の岩盤」 Ⅴ ナショナル・ミニマムの体系  
Ⅵ ナショナル・ミニマムの機軸としても「最低生計費」
講師: 佛教大学 社会学部 教授 金澤 誠一 氏
■日時:2007年7月9日(月)  ■場所:大阪府社会福祉会館3階第3会議室
『現代の貧困と「最低生活の岩盤」』

Ⅵ ナショナル・ミニマムの機軸としても「最低生計費」


最後でありますが、こうしたナショナル・ミニマムというのは、かなり幅広いさまざまな領域を含んでいるということはお分かり頂けたと思うのです。それを求める運動もかなり幅広いものであると考えられるわけでありますが、それは、1つに収斂して行くように見られるわけです。ナショナル・ミニマムの最も重要な要としての最低限度の所得保障ではないかと思っているわけです。保護基準が引き下げられて、更に本格的な見直しを図ろうとしている時、保護基準を目安とした運動の要求づくりは、遅かれ早かれ、できなくなる。したがって、労働組合による「下からの」「最低生計費」の算定が必要となってくるであろうと考えられるわけであります。

1.京都総評による「最低生計費試算」
京都総評による「最低生計費試算」には私も深く関わっているのですが、その目的は、第1に最低賃金の要求のために「若年単身世帯」の最低生計費として、第2に生活保護制度の老齢加算廃止に対する「生存権裁判」のために高齢者単身の最低生計費として試算しています。京都の「生存権裁判」においては、「賃金と社会保障」という雑誌に発表した私の論文を証拠として裁判所に提出しています。
「最低生計費」を試算していく場合、何かあげるべきものを想定して、現実とかけ離れた額を出す可能性もあるわけですけれども、そういうやり方は取ってないということで、むしろ、今日の労働者や高齢者世帯の生活様式、慣習、社会活動を知るために、「持ち物財調査」「生活実態調査」「価格調査」を実施しておりまして、それによって知り得た資料を基礎として、必要財貨・サービスを一つ一つ積み上げて計算する「マーケット・バスケット方式」によって算定しているということであります。その結果、「若年単身世帯モデル」の最低生計費は、月額198,000円余りとなるわけであります。その内訳は消費支出が約150,000円、非消費支出の税金・保険料などが約33,000円、貯蓄・準備金が15,000円となっています。貯金・準備金というのを出しているのですが、考えれば、最低生計費とは平均額なんです。しかし、たとえば身長は平均の身長、体重も平均の体重を前提として考えている。実際には、体重の重い人も軽い人も、身長の高い人も低い人もいるわけです。ですから、幅のあるものとして考えていかなければならないわけです。また、交際費とかも健康状態や社会に置かれている状況によって多少変わってくるのではないかというふうに考えるのです。健康状態がすぐれなくて病院に行くにしてもタクシーを頼まないといけない状況になってくるわけで、個人の抱えている状況とか身体的特徴とかは、個人的な差をもたらしているわけです。そこで、所得の一割を準備金と考える。そうして計算して行きますと、約198,000円ということになるわけです。したがって、保護基準と比較しますと、大都会の保護基準は118,700円で、先ほど述べた理由から1,4倍にしますと2割ぐらいしか高くないわけです。
この試算に先駆けて予備調査をおこなったのですが、独身の若い人たちがどういう生活をしているか、アパートまで訪ねていって調べてみると、15万円足らずの収入のある人で、めったに無い1万円位のアパートに住んでいるのです。1万円位の家賃でないと生活出来ないわけです。フリーターや非正規の収入15万円位なら、親元から離れて自立出来ない状況ではないかと思われます。いわゆるパラサイトシングルが実際には増えているのです。
この間、福祉保育の関係の調査に行ったのですが、親と一緒に生活しているというのは、やっぱり多いですね。自立出来るだけ賃金を貰っていない、自立したいけど自立出来ない。そういう人ばかりでは無いですけれど、多いという状況です。
高齢者の場合もほとんど同じで、185,000円位で、保護基準と比較しますと、大都会の保護基準は110,700円ですので、1,4倍した額の120%となるわけです。
こういう最低生計費を試算するということは、それは京都総評の調査研究を通して、同時に、労働者が自分たちの生活を見直して、自分たちは最低生活が保障されているかを検証していくということになるわけです。それは最低賃金闘争の要となるものだと思います。
OECD基準の「貧困ライン」(国民全世帯の所得の中央値の2分の1)を示すと、わが国の国民全世帯の中央値は476万円であり、その額の2分の1の「貧困ライン」は238万円となる。この額は、算定された「若年単身世帯モデル」の最低生計費とほぼ同額となる。また、この額は時給にすると1,240円となるわけで、これぐらいは必要だと思っているわけであります。

2.「最低生計費」を機軸としたナショナル・ミニマムの実現
低所得層・ワーキングプアは、現代の資本主義の矛盾をまともに受けている階層であり、しかも、労働能力を保有し、今は未組織のまま孤立しているとはいえ、まだ独自の組織と運動を展開しうる限界にある階層である。このような低所得層が、運動において何の役割も果たしえない場合には、運動の足かせとなり、運動全体を後ろに引っ張る「おもり」となるであろうということです。したがって、この階層の組織化こそが大変重要であるということです。
低所得層が増えれば増えるほど、国民・労働者は相互の足の引っ張り合いが始まることを考慮すれば、低所得者の生活の底上げが必要だということです。最低生活を保障してお互いに足を引っ張り合わないようにすれば、その岩盤の上にそれぞれの職域における基幹労働者・サラリーマンの賃金が労働組合の力量によって獲得され、そびえたつことができるのです。
そのためには、低所得層の組織化とその連帯による「最低生計費」に基づく最低賃金の大幅な引き上げが大変重要なことだと考えているわけであります。
いい時間になりましたので、終わります。