Ⅰ.貧困を考えることの意味 Ⅱ 現代の貧困の特徴 Ⅲ 現代の貧困化の構造
Ⅳ 突き当たった「最低生活の岩盤」 Ⅴ ナショナル・ミニマムの体系
Ⅵ ナショナル・ミニマムの機軸としても「最低生計費」
講師: 佛教大学 社会学部 教授 金澤 誠一 氏
■日時:2007年7月9日(月) ■場所:大阪府社会福祉会館3階第3会議室
『現代の貧困と「最低生活の岩盤」』
Ⅲ 現代の貧困化の構造
1.低所得層の構造的創出その1(資本の蓄積と非正規雇用化・名目的自営業層)
では、現在の貧困化の構造について考えてみたいと思います。一つは低所得層を根本的に生み出していく構造がある。
たとえば、日経連が1995年に「新時代の『日本的経営』」というのを打ち出した。これが構造改革を推進していく舞台となっていくと私は思うわけです。これにおいて、雇用形態の3グループ化というのを提唱しております。雇用形態の3グループ化というのは、まず「長期蓄積能力活用型グループ」、「高度専門能力活用型グループ」、もう1つは「雇用柔軟型グループ」。長期蓄積能力活用型グループ、ここまでが正規職員であって、高度専門能力活用型グループは専門知識を持った派遣で補っています。その時だけ必要な知識を持った人を雇えばいいという有期雇用であります。では、後の雇用柔軟型グループ、これは一般職としてすべて臨時雇用であります。このように「雇用の流動化」を進め、政策を展開するわけです。
1995年までは、終身雇用制度ということで、大企業では正社員の首を切るということは、まずなかったわけです。しかし、この終身雇用が崩壊していくのが、1995年の構造改革として日経連「新時代の『日本的経営』」の考え方によるものです。リストラによって正規職員を非正規職員に置き換えていく、決して終身雇用を保証するということはしないというかなり明確な転換期だったということです。実際に急速に非正規化が進んでいくということになります。労働力調査によると、1995年には非正規雇用が1001万だったのですけれども、それが今年にはいると1700万人を超えています。これは、労働者・サラリーマンの3分の1に当たる数字であります。ですから膨大な非正規雇用を作り出して行ったということです。計画的に作り出して行ったということが大変重要な点であります。
さらに、中小業者においても、先ほどお話したように「名目的自営業層」化が進展して行ったということです。自営業層が2極化しているという、確かに伸びているという層も存在しますが、大多数が200万未満、及び300万未満が業種によっては7割を超えるという調査結果が出ているわけです。売上減少業者が2002年に8割を超えていたのですが、今日だいぶ景気が上向いているとは言いながらも、まだ今日においても売上減少業者が6割近いという状況だということであります。自営業というのは、商店街のいろんな卸小売とかサービス業、飲食店とか、建築関係の親方さんとか、あるいは町工場というような人たちを対象としているのですけれども、そういう人々の売上が1年前と比べるとまだ6割近い状況であるということです。また、売上が伸びている業者でも、下請け単価が切り下げられ、原材料費が引き上げられてもコストに入れられない、売上が多少伸びても利益がない。自営業者なので儲けまでいかない、生活費がないということなのです。営業所得が上がらないという構造が作られているのではないかと思われるわけです。
2.低所得層の構造的創出その2(社会保障制度の不備)
もう一つの低所得層の構造的創出は、やはり社会保障制度の不備にあるのではないかと思われるわけであります。1つは失業手当制度の欠陥ということで、失業保険の給付期間が短いということでありまして、わが国では最高でも11ヶ月、ドイツなんかは18ヶ月で、1年半失業給付が受けられるということです。フランス・ドイツは伝統的に失業保険給付期間が長いということです。失業給付期間が長いということは、それだけ自分にあった仕事を探せるということであり、しかもその失業期間に場合によっては職業訓練を受けたり大学で再教育を受けることが出来るということでもあります。失業保険が切れると、その後に失業扶助制度もないということも、構造的に非正規雇用層を作り出していると言えるわけであります。
もう1つは、低年金の為に就労しなくてはならない高齢者も存在しているということになります。
さらには、低所得層の範囲の問題があります。低所得層というのは、保護基準の1.0倍から1.4倍の範囲内であると考えています。1.4倍にするか1.7倍にするかはという問題もありますが、それはその時代の政府の政策によって変わって来ると思います。つまり生活保護受給世帯には税金や保険料が免除されている。働いている場合には勤労控除がある。この点を考慮すれば、一般世帯の場合、1.4倍位保護基準に上乗せしないと、生活保護水準と同一水準にはならないということです。ですから、最低賃金額は、保護基準の1.4倍以上でなければ、実質的に保護基準以下となる。保護基準と同じ額だけもらっても税金や保健料を払ったら、保護基準以下になるということです。ですから、課税最低限、保険料の減免、就学援助、高校授業料免除、低家賃公営住宅、生活福祉賃金貸付などの「低所得層」対策が十分でなければ、低所得層は実質的に保護基準以下となる可能性がかなり高いということです。社会保障制度の不備によって、低所得層が作られていると言っても過言ではないと思っております。逆に、生活保護受給世帯からみれば、保護基準を少しばかり上回った所得を得て「保護」から離れたとしても。税金や保険料の負担のために、保護基準以下になるとすれば、「保護」からなかなか離れられない、ある程度の収入が見込めない限り、保護から逃れなれない「貧困の罠」が存在するということにもなるわけです。
3.社会保障・社会福祉や「生活基盤」(教育・住宅など)の諸制度のあり方の変化
さらに第3の要因といたしましては、社会保障・社会福祉や生活基盤という教育・住宅などの諸制度のあり方の変化であります。税金や保険料の「応能負担原則」つまり、負担能力に応じて負担していくという原則から、利益に基づいて負担するという「応益負担原則」という考え方に大きく変換していくということに至るわけです。また、それは所得の再分配機能の低下、低所得層の負担を増大させるという結果になっているということであります。一時は、所得税が最高税率75%という時代があったわけですけれども、現在は37%までに低下してきています。課税最低限の方は控除を減少させていますね。老年者控除の廃止とか公的年金の控除額の引き下げもかなり大きいのですが、さらには配偶者控除や扶養控除、勤労控除なども、政府はこういった制度の全面的な見直しを図ろうとしてきているわけです。貧困は存在しないから、控除がなくても税金が払えるんだという考え方に転換しているわけですね。ですから、これからもそういう方向に向かっていくということは十分に言えることであります。それと同時に社会保障負担が増大してきています。国民健康保険では保険料の徴収方式を「本文方式」から「旧但し書き方式」に変更している自治体が増えています。これは、所得から基礎控除33万円を引いた額に直接料率が掛けられたため、負担が増大したということです。これは京都なんかでは早かったのですが、200万円位の収入でも20万円位、約1割以上の保険料を負担しなければならないということです。
他方では、社会的給付が減少しています。厚生年金の支給開始年齢の引き上げ、それに加え年金額の引き下げ、健康保険の保険給給付の削減、あるいは高齢者保険の保険給付の削減が断行されています。
こうした事は結局、自助努力・自己防衛の強制ということになるわけです。社会的給付が削減され、健康保険や介護保険などの窓口負担が増大されれば、それに代わって、生命保険・個人年金やガン保険などの民間保険に依存せざるを得ない。あるいは、貯蓄に依存せざるを得ないということになってくるわけであります。
しかし逆に言えば、そうした依存せざるを得ないという傾向があると同時に、依存出来ない層が存在しているということであります。貯蓄ゼロ世帯というのが、これは日銀の調査でありますが、1972年当時では3.2%であったのが、今日では23.8%まで増大して来ているということです。公助が後退し、自分でやろうと思っても自助努力が出来ないという、そういうふうな矛盾が現れてきているのではないかと思われます。
4.「1」と「2」が低所得を生みだし、「3」と相乗的に作用して「貧困化」をもたらしている
このように、一方で資本の蓄積とともに非正規雇用化が進み、低所得層を生み出す構造が存在するとともに、他方では社会保障制度の不備によって、低所得層が滞留し固定化されていくことになります。
また、社会保障・社会福祉あるいは生活基盤の確保の仕方、制度のあり方が「応益負担原則」=自己責任原則に大きく変わったことで、税金や社会保険料、教育費、住宅ローン返済などの社会的固定的負担が増大していくということになるわけです。それは、低所得層だけでなく国民一般階層を巻き込んで、生活の崩壊の構造を作り出すことになります。
国民一般階層では税金や保険料、教育費や住宅費といった、家計の中に占める固定的な負担の割合が増えて今日では45%を超えるわけです。高度経済成長期時には26%から27%でした。それが2倍近くに増加してきているわけです。それだけ家計が「硬直化」して生活構造が「もろく」なってきているのです。ですから、何か生活上の事故があった場合に、固定的ですからすぐに対応できないですよね。住宅ローンを払わなくてはいけないし、教育費はどうするというような問題に突きあったっていくわけです。家計が崩壊し低所得層に転落する可能性が高くなっているのです。また、所得が減少し、社会的固定的負担が増大していると言うことは、自由に使える「実質的可処分所得」が減っていることを意味します。その減った分を食費とか被服費、あるいは教養娯楽費、交際費、こづかいなどの節約・削減で補っているのである。国民一般階層でも生活水準の低下がみられ、戦後形成された生活様式が崩壊しつつあるのです。それは、社会標準的生活を満たし得なくなったという意味で「相対的貧困化」が進んでいると思われるのです。人間の自由な発達と自立した生活がこれによって損なわれているということであります。
他方、低所得層では、現代の「絶対的貧困化」の様相を呈しています。税金や保険料の負担、住宅や教育費の負担といった「固定的負担」に絶えきれず、その結果、先に述べたようなさまざまな社会制度から遠ざけられ排除される状態になりやすいということです。そうした人たちは、また、未組織で孤立・分散した状態にあるというこでもあります。
Ⅰ.貧困を考えることの意味 Ⅱ 現代の貧困の特徴 Ⅲ 現代の貧困化の構造
Ⅳ 突き当たった「最低生活の岩盤」 Ⅴ ナショナル・ミニマムの体系
Ⅵ ナショナル・ミニマムの機軸としても「最低生計費」
講師: 佛教大学 社会学部 教授 金澤 誠一 氏
■日時:2007年7月9日(月) ■場所:大阪府社会福祉会館3階第3会議室
『現代の貧困と「最低生活の岩盤」』
Ⅲ 現代の貧困化の構造
1.低所得層の構造的創出その1(資本の蓄積と非正規雇用化・名目的自営業層)
では、現在の貧困化の構造について考えてみたいと思います。一つは低所得層を根本的に生み出していく構造がある。
たとえば、日経連が1995年に「新時代の『日本的経営』」というのを打ち出した。これが構造改革を推進していく舞台となっていくと私は思うわけです。これにおいて、雇用形態の3グループ化というのを提唱しております。雇用形態の3グループ化というのは、まず「長期蓄積能力活用型グループ」、「高度専門能力活用型グループ」、もう1つは「雇用柔軟型グループ」。長期蓄積能力活用型グループ、ここまでが正規職員であって、高度専門能力活用型グループは専門知識を持った派遣で補っています。その時だけ必要な知識を持った人を雇えばいいという有期雇用であります。では、後の雇用柔軟型グループ、これは一般職としてすべて臨時雇用であります。このように「雇用の流動化」を進め、政策を展開するわけです。
1995年までは、終身雇用制度ということで、大企業では正社員の首を切るということは、まずなかったわけです。しかし、この終身雇用が崩壊していくのが、1995年の構造改革として日経連「新時代の『日本的経営』」の考え方によるものです。リストラによって正規職員を非正規職員に置き換えていく、決して終身雇用を保証するということはしないというかなり明確な転換期だったということです。実際に急速に非正規化が進んでいくということになります。労働力調査によると、1995年には非正規雇用が1001万だったのですけれども、それが今年にはいると1700万人を超えています。これは、労働者・サラリーマンの3分の1に当たる数字であります。ですから膨大な非正規雇用を作り出して行ったということです。計画的に作り出して行ったということが大変重要な点であります。
さらに、中小業者においても、先ほどお話したように「名目的自営業層」化が進展して行ったということです。自営業層が2極化しているという、確かに伸びているという層も存在しますが、大多数が200万未満、及び300万未満が業種によっては7割を超えるという調査結果が出ているわけです。売上減少業者が2002年に8割を超えていたのですが、今日だいぶ景気が上向いているとは言いながらも、まだ今日においても売上減少業者が6割近いという状況だということであります。自営業というのは、商店街のいろんな卸小売とかサービス業、飲食店とか、建築関係の親方さんとか、あるいは町工場というような人たちを対象としているのですけれども、そういう人々の売上が1年前と比べるとまだ6割近い状況であるということです。また、売上が伸びている業者でも、下請け単価が切り下げられ、原材料費が引き上げられてもコストに入れられない、売上が多少伸びても利益がない。自営業者なので儲けまでいかない、生活費がないということなのです。営業所得が上がらないという構造が作られているのではないかと思われるわけです。
2.低所得層の構造的創出その2(社会保障制度の不備)
もう一つの低所得層の構造的創出は、やはり社会保障制度の不備にあるのではないかと思われるわけであります。1つは失業手当制度の欠陥ということで、失業保険の給付期間が短いということでありまして、わが国では最高でも11ヶ月、ドイツなんかは18ヶ月で、1年半失業給付が受けられるということです。フランス・ドイツは伝統的に失業保険給付期間が長いということです。失業給付期間が長いということは、それだけ自分にあった仕事を探せるということであり、しかもその失業期間に場合によっては職業訓練を受けたり大学で再教育を受けることが出来るということでもあります。失業保険が切れると、その後に失業扶助制度もないということも、構造的に非正規雇用層を作り出していると言えるわけであります。
もう1つは、低年金の為に就労しなくてはならない高齢者も存在しているということになります。
さらには、低所得層の範囲の問題があります。低所得層というのは、保護基準の1.0倍から1.4倍の範囲内であると考えています。1.4倍にするか1.7倍にするかはという問題もありますが、それはその時代の政府の政策によって変わって来ると思います。つまり生活保護受給世帯には税金や保険料が免除されている。働いている場合には勤労控除がある。この点を考慮すれば、一般世帯の場合、1.4倍位保護基準に上乗せしないと、生活保護水準と同一水準にはならないということです。ですから、最低賃金額は、保護基準の1.4倍以上でなければ、実質的に保護基準以下となる。保護基準と同じ額だけもらっても税金や保健料を払ったら、保護基準以下になるということです。ですから、課税最低限、保険料の減免、就学援助、高校授業料免除、低家賃公営住宅、生活福祉賃金貸付などの「低所得層」対策が十分でなければ、低所得層は実質的に保護基準以下となる可能性がかなり高いということです。社会保障制度の不備によって、低所得層が作られていると言っても過言ではないと思っております。逆に、生活保護受給世帯からみれば、保護基準を少しばかり上回った所得を得て「保護」から離れたとしても。税金や保険料の負担のために、保護基準以下になるとすれば、「保護」からなかなか離れられない、ある程度の収入が見込めない限り、保護から逃れなれない「貧困の罠」が存在するということにもなるわけです。
3.社会保障・社会福祉や「生活基盤」(教育・住宅など)の諸制度のあり方の変化
さらに第3の要因といたしましては、社会保障・社会福祉や生活基盤という教育・住宅などの諸制度のあり方の変化であります。税金や保険料の「応能負担原則」つまり、負担能力に応じて負担していくという原則から、利益に基づいて負担するという「応益負担原則」という考え方に大きく変換していくということに至るわけです。また、それは所得の再分配機能の低下、低所得層の負担を増大させるという結果になっているということであります。一時は、所得税が最高税率75%という時代があったわけですけれども、現在は37%までに低下してきています。課税最低限の方は控除を減少させていますね。老年者控除の廃止とか公的年金の控除額の引き下げもかなり大きいのですが、さらには配偶者控除や扶養控除、勤労控除なども、政府はこういった制度の全面的な見直しを図ろうとしてきているわけです。貧困は存在しないから、控除がなくても税金が払えるんだという考え方に転換しているわけですね。ですから、これからもそういう方向に向かっていくということは十分に言えることであります。それと同時に社会保障負担が増大してきています。国民健康保険では保険料の徴収方式を「本文方式」から「旧但し書き方式」に変更している自治体が増えています。これは、所得から基礎控除33万円を引いた額に直接料率が掛けられたため、負担が増大したということです。これは京都なんかでは早かったのですが、200万円位の収入でも20万円位、約1割以上の保険料を負担しなければならないということです。
他方では、社会的給付が減少しています。厚生年金の支給開始年齢の引き上げ、それに加え年金額の引き下げ、健康保険の保険給給付の削減、あるいは高齢者保険の保険給付の削減が断行されています。
こうした事は結局、自助努力・自己防衛の強制ということになるわけです。社会的給付が削減され、健康保険や介護保険などの窓口負担が増大されれば、それに代わって、生命保険・個人年金やガン保険などの民間保険に依存せざるを得ない。あるいは、貯蓄に依存せざるを得ないということになってくるわけであります。
しかし逆に言えば、そうした依存せざるを得ないという傾向があると同時に、依存出来ない層が存在しているということであります。貯蓄ゼロ世帯というのが、これは日銀の調査でありますが、1972年当時では3.2%であったのが、今日では23.8%まで増大して来ているということです。公助が後退し、自分でやろうと思っても自助努力が出来ないという、そういうふうな矛盾が現れてきているのではないかと思われます。
4.「1」と「2」が低所得を生みだし、「3」と相乗的に作用して「貧困化」をもたらしている
このように、一方で資本の蓄積とともに非正規雇用化が進み、低所得層を生み出す構造が存在するとともに、他方では社会保障制度の不備によって、低所得層が滞留し固定化されていくことになります。
また、社会保障・社会福祉あるいは生活基盤の確保の仕方、制度のあり方が「応益負担原則」=自己責任原則に大きく変わったことで、税金や社会保険料、教育費、住宅ローン返済などの社会的固定的負担が増大していくということになるわけです。それは、低所得層だけでなく国民一般階層を巻き込んで、生活の崩壊の構造を作り出すことになります。
国民一般階層では税金や保険料、教育費や住宅費といった、家計の中に占める固定的な負担の割合が増えて今日では45%を超えるわけです。高度経済成長期時には26%から27%でした。それが2倍近くに増加してきているわけです。それだけ家計が「硬直化」して生活構造が「もろく」なってきているのです。ですから、何か生活上の事故があった場合に、固定的ですからすぐに対応できないですよね。住宅ローンを払わなくてはいけないし、教育費はどうするというような問題に突きあったっていくわけです。家計が崩壊し低所得層に転落する可能性が高くなっているのです。また、所得が減少し、社会的固定的負担が増大していると言うことは、自由に使える「実質的可処分所得」が減っていることを意味します。その減った分を食費とか被服費、あるいは教養娯楽費、交際費、こづかいなどの節約・削減で補っているのである。国民一般階層でも生活水準の低下がみられ、戦後形成された生活様式が崩壊しつつあるのです。それは、社会標準的生活を満たし得なくなったという意味で「相対的貧困化」が進んでいると思われるのです。人間の自由な発達と自立した生活がこれによって損なわれているということであります。
他方、低所得層では、現代の「絶対的貧困化」の様相を呈しています。税金や保険料の負担、住宅や教育費の負担といった「固定的負担」に絶えきれず、その結果、先に述べたようなさまざまな社会制度から遠ざけられ排除される状態になりやすいということです。そうした人たちは、また、未組織で孤立・分散した状態にあるというこでもあります。