1. はじめに 2. 条例の制定にあたっての基本的な考え方 3. 大阪府が今後取組むべき施策の主な視点
4.
その他の必要な施策について 5. むすびに
3. 大阪府が今後取組むべき施策の主な視点
大阪府から示された条例に規定すべき項目の中から、特に重要なものとして、
(1) 健康への危害(健康への悪影響)の未然防止、拡大防止
(2) リスクコミュニケーションの推進
(3) 食の安全・安心に係る情報収集と提供
(4) 事業者の自主的な取組みへの支援
(5) 大阪らしい取組み
などに論点をしぼり議論を行った。
(1) 健康への危害の未然防止、拡大防止について
食品安全基本法においても、国民の健康の保護がもっとも大切であることが明記され、そのためには、健康への悪影響の未然防止を基本理念として、国も地方公共団体も施策を構築すべきであるとされている。これを踏まえ、食品衛生法において大幅な改正が行われ、予防的観点からの施策が盛込まれたところである。例えば、いわゆる健康食品や輸入食品については、国において、早期に、あるいは包括的に措置を取れるよう新たな規定が盛り込まれた。
さらに、平成18年5月からの農薬等のポジティブリスト制度の施行により、広範な農薬について残留基準が明確化され、食品衛生法による規制が拡大したところである。
食品の安全性を確保するためには、食品衛生法に基づく監視指導などの恒常的な取組みを基本としつつ、生産段階での安全確保のために必要な手立てや予測できない未知の危害に対する対応など、現行の法令の狭間・限界についても検討しておく必要がある。
1. 生産現場における安全確保について
条例の基本的な考え方からすれば、生産現場から消費まで、条例において安全確保のための規定が網羅されることが望ましいことから、委員から、食品衛生法の規制を受けない生産段階における農林水産物について、「農薬取締法等に違反して農薬等が使用された生産物について、知事が出荷・販売を禁止することができる」「事故の際に、生産現場に遡って生産物を特定して出荷停止、回収できるようにする」ことなどを内容とする条文を設けるべきであるという提案があった。
これに対して、大阪府からは、食の安全・安心推進条例(仮称)と並行して、都市農業・農空間に関する大阪府独自制度について、別途条例化も視野に農林水産審議会で審議しており、府内産農産物について、収益確保や担い手育成の観点から「安全・安心」をブランド化の一環として位置づける方向で検討している旨の説明があった。その中で、農薬取締法の遵守のための指導、違反した場合の措置勧告を行うこと、また併せて農家への取組み支援などを総合的に検討されているところである。
委員からは、「『安全・安心』という考え方を農業振興のための制度に入れるより、食の安全・安心の条例に入れる方が府民に分かりやすい」、「生産者だけに安全・安心を任せるのでなく、支援する仕組みが必要」、「生産段階で、農薬取締法に違反して農薬等が使用されたかどうかについては、大阪府やJAの農業指導現場での確認や出荷前のJAでの生産履歴記帳チェック、本人からの申し出など、農業生産指導現場と密接に関わっており、農業振興のための制度の中に規定すべき」という意見があった。また、「食の安全・安心の条例を制定することを契機に、縦割り行政に陥らず、関連する分野で歩調をあわせて取組みが進み、消費者の健康の保護、食の安全・安心という理念が他の分野でも活かされることが重要であり、どの条例で規定するかにこだわる必要はない」との意見もあった。
なお、大阪府では多くの農林水産物を府外産に依存していることから、従来、府内に流通している農林水産物で、食品衛生法上の違反ではないが、農薬取締法など関連法令に抵触する事案があった場合、生産地への通報など再発防止のための取組みを行っており、今後とも引続き実施していくこととしているとの説明があった。
委員会としては、府内産農林水産物の生産現場での安全・安心の確保のためには、関係部局の緊密な連携のもと、小規模な事業者が多い府内農林水産業の現状も踏まえ、府内産農林水産物の安全性確保の実効性が保てる適切な対応をすべきであると考える。
2. 未知の危害についての大阪府における立入調査、措置勧告等について
委員から、様々な食品が輸入されたり、開発されたりする時代にあって、予期し得ない食品の危害があることなどから、国の安全性評価が出ていない段階でも、「知事は食の安全の確保、危害発生の未然防止のため、事業者に報告を求めることができ、立入調査をし、必要な措置をとるよう勧告・命令できる」権限を規定すべきであるという趣旨の提案がなされた。
一方、大阪府から、食品について健康への悪影響が発生するおそれがあるとき、あるいは、危害が発生したときには、知事には食品衛生法第28条に規定する立入調査等の権限があり、その調査結果に応じて、一定の行政措置を行うなど、現行法体系での対応が可能である旨説明があった。また、改正食品衛生法第7条の第2項及び第3項において、いわゆる健康食品などについて、危害の未然防止・拡大防止のため、一定の条件の下に、厚生労働大臣に、販売禁止命令の権限が定められているが、都道府県知事の権限の定めがない。こうした問題について知事の権限を新たに条例で定める必要性があるかどうかについては、大臣権限と重複することによる問題点などが指摘された。仮に事例を認知したときには、厚生労働省と協議しながら、情報提供など早期の対応で解決するのが適切であるとの考えが示された。
また、委員からも、科学的な分析、調査には一定のプロセスと時間が必要であり、大阪府に権限を設定して独自に対応することについては、必ずしも迅速かつ的確な対応につながるものではないこと、さらに、大阪府の現在の調査研究体制では、安全性評価機能まで想定されていないことから、条例で新たな立入調査権を規定することの実効性に疑問があるとの指摘があった。
これらの論点については、法制上の問題と自治体が安全性評価まで行うかどうかについての論議があり、食品衛生法で対応できない場合を想定した立入調査、勧告・命令の権限の規定について委員会としての意見の一致には至らなかった。
3. 危害の拡大防止について
食品による健康被害が起こった場合、早期の情報提供が何よりも望まれる。委員からは、特に、大阪市内で製造された低脂肪乳食中毒事件を教訓として、情報提供のタイミングについて、行政は早期に情報提供すべきであるとの提案があった。
大阪府からも、予防的観点から、平成15年の食品衛生法の改正の趣旨なども踏まえ、できるだけ早い時期での情報提供を行うことが必要であるという認識が示されたところである。
その際には、危害の発生と食品等にどの程度の関連を求めるべきかが問題となるが、従前は高度な因果関係、原因物質の特定などを前提としていたが、今後は一定の蓋然性が認められる段階での公表を積極的に行っていきたいと大阪府から示された。しかし、蓋然性の判断については、客観的に判断できる基準が必要である。一方、一般論では基準を定めがたい面もあり、マニュアルなどを作るとともに、個別のケースに応じて、風評被害などにも留意しながら、専門家の助言を求めるなどの仕組みが必要である。公表にいたる過程では当該事業者に釈明の機会を与えることも考慮する必要があるという指摘があった。
なお、ここでの公表は、府民に対する注意喚起のための「情報提供」であって、事業者に対する「制裁」にならないような配慮も必要である。
委員会としては、こういった問題点に留意しつつ、健康被害の拡大防止のため、一定の蓋然性が認められる場合に、府民に積極的に情報提供すべきであると考える。
4. 自主回収報告制度について
行政が探知する以前に、事業者自らが食品等の不備を把握し、自主的に回収することがあるが、現状では、法律による規定がないため、保健所に報告するかどうかは事業者の判断に委ねられている。食品衛生法に違反する、又はその疑いがある場合、保健所に報告があれば、大阪府では、その情報を公表することで、被害の未然防止・拡大防止と事業者の回収の円滑化を図っている。また、他の行政機関からの自主回収情報についても併せて提供されている。
食品は、他の製品に比べ購入者を把握しにくいことや流通・消費期間が短いことなどから回収率が悪い、また、社告にも費用がかかるという声もあり、行政、事業者、消費者が一体となって、よりよいルールづくりができることが望ましい。そうした情報の開示については行政の積極的な取組みが不可欠であり、大阪府のホームページをみれば、すぐにわかるよう、提供の仕方にも工夫が求められる。社告を見ても、その内容がわかりにくいことも多く、条例で仕組みをつくることで、わかりやすい情報提供と再発防止への効果を期待したい。なお、海外では健康被害があるかないかによって、メディアや消費者に告知して回収を行うか、告知はせず店頭からの撤去のみを行うかを判断しているとの報告もあった。
委員会としては、今後、これまで事業者に委ねていた報告を条例において制度化し、回収情報を迅速かつ的確に府民に伝えることにより、食の安全に対する信頼を高めるべきであると考える。事業者にとっての自主回収報告は、法令違反、又はそのおそれのあることを自ら申告するものであるが、その目的が、被害の拡大防止を第一義にしていることについて、府民の理解を得られ、申告しやすい仕組みにすべきである。
また、自主回収報告を制度化する場合のガイドラインなどを別途規定するとともに、現在、政府レベルで検討されている、食品のリコール制度などについても情報収集し、条例に反映することが望ましい。
(2) リスクコミュニケーションについて
リスクコミュニケーションは、食品安全行政に導入されたリスク分析手法の重要な要素であり、とくに、都道府県段階においては、従前実施してきたリスク管理業務(食品衛生法にもとづく監視指導業務等)に加え、新たに食の安全・安心推進の施策上の課題となっている。日本の食品安全行政に、この考え方が導入されてまだ歴史が浅いため、本検討委員会でも平川委員に改めてリスクコミュニケーションについて問題提起を依頼し、以下のとおり課題を整理したところである。
リスクコミュニケーションは、リスク評価を行う専門家、リスク管理を行う行政のほか、消費者、事業者等の関係者の間でリスクに関する情報や意見を交換する双方向的なコミュニケーションと位置づけられるとともに、有効な施策が作られるための民主的な政策決定過程でもある。
そのため、科学的な情報だけでなく、施策の内容や決定理由、個人的な意見や感情などもリスクコミュニケーションでやりとりされる情報に含まれるが、必ずしも合意形成が目的ではなく、問題点の発掘や関係者の信頼関係を高めていくことが重要である。
さらに、行政(都道府県、保健所)の役割として、下記の5つが示された。
(ア) 国の科学的リスク評価と技術的、社会経済的、法的課題を踏まえた政策の決定、実施、監督
(イ) 事業者のリスク管理措置への誘因付与(管理措置にプラスになる規制)
(ウ) 政策決定と実施に必要な情報を消費者・事業者から収集
(エ) リスク情報に関して組織内で効果的な伝達・蓄積・分析の実施
(オ) 消費者・事業者等が施策に参加・関与できる機会の提供
また、大阪府の課題として下記のとおり具体的な提案が示された。
1. 提供する情報の再構築(何を伝えたらいいのか)
(ア) リスク管理の実績(監視・指導・検査の結果、苦情処理情報等)の発信
(イ) 何をすればよいかの行動に結びつく情報の発信(生活や事業現場で役立つ情報への再編集)
(ウ) メリット・デメリット等のバランス思考、総合判断できる情報の発信(費用、利益、対抗リスク等)
(エ) 不確実な情報の扱い方の検討
2. 情報の伝え方の再構築(どのように伝えるか)
(ア) 関心の高い層へのアプローチと「語り部」の育成
(イ) 小声での疑問や感想などの「つぶやき」への対応
(ウ) 場の工夫(生活現場に近いスーパー、ショッピングセンター等の活用)
(エ) 参加型の伝達手法の開発(情報の受け手側の視点を反映するホームページ作成)
(オ) 計画的対応と成果の評価
委員からは、リスクコミュニケーションにおいて、現状では、表明した意見がどのように扱われたかの説明や活かされなかった場合の理由の説明が不十分であるとの指摘があった。また、リスコミュニケーションの場への参加意欲を高めるためにも、意見が活かされたという実績も明らかにしていく必要がある。参加しても十分意見が言えない者の「つぶやき」についても拾い上げる工夫が求められる。
情報の内容に関しては、リスクコミュニケーションの手段の開発が必要であること、食品安全委員会などから示される全国標準的な情報を、府民の生活を踏まえて、府民が使いやすい形に再構成すること、リスクに対する具体的な行動や対処法まで含めたわかりやすい情報が必要なことなど、様々な指摘や提案があった。また、農薬に関して、むやみに有害視するのでなく、府民の正しい理解が進むような科学的な資料も必要であるとの意見も出された。
さらに、商店街やスーパーマーケットなど府民が参加しやすい場の活用などについても言及された。また、商店などでの客と店員との対面の販売でのやり取りは、情報交換の役割があり、これがリスクコミュニケーションの一端を担うとともに、商店街の活性化にもつながることを期待したいという意見もあった。
委員会としては、今後、次項の情報収集と提供についての取組みともあいまって、効果的なリスクコミュニケーションが行えるよう、府民会議の運営方法や、身近な場の設定、手段の開発など、様々な提案を活用し、取組みを充実していくべきである。また、リスクコミュニケーションの成果についても評価を行い、改善していくべきであると考える。
(3) 情報収集と提供について
現場情報を把握するための手法としての消費者の苦情・相談とその処理、健康被害の未然防止、拡大防止、関係者の信頼関係の醸成など、あらゆる面において情報は大きな役割を果たしているにもかかわらず、食の安全にかかわる情報が、わかりやすく提供されているとは言いがたい。また、消費者が一般的に情報を入手するのはマスメディアであるが、必ずしも、正確な情報提供がなされているわけではない。センセーショナルな取上げ方や偏ったあるいは不十分な情報がかえって事故につながったり、また過度に不安・不信をあおるような情報もあふれている。消費者は、信頼できる窓口から提供される安心できる情報を求めている。
情報は、その集積、管理の仕方により、そこから新たに見えてくるものがある。行政は、収集した情報を、予防や危機管理、新たな施策構築に活かせるよう、情報収集、管理、提供にもっと工夫が求められる。委員からは、特に食の安全・安心に係る情報の一元的な管理の仕組み(例えば、食の安全情報センター)を設け、情報を分析し、問題の発掘や事故の未然防止に活用すること、また、一箇所で苦情や相談の処理ができる仕組みの必要性について、強い要請があった。一方、情報の専門性と個々の職員の職務範囲を考慮すると、ひとつの窓口でさばくことの難しさや迅速性において、一元化で対応することは、必ずしも現実的ではないという指摘も出た。
また、府民からの申し出や施策への提案などについて規定し、行政の適切な対応が確保されることが望ましいという意見が出された。
消費者の苦情等は、事業者へも伝えられるはずであるから、事業者からも情報をもっと行政が集めることによって、今後、事故の拡大防止などにつなげるべきであるとの指摘もあった。
苦情などへの対応に係る大阪府の考え方として、苦情発生現場に近い所で迅速・的確に行うことがもっとも効率的・効果的であり、その意味で保健所は府民の相談窓口として定着しているという説明があったが、委員からは、保健所の体制や能力について、よりいっそう充実・強化する必要があるのではないかといった指摘もあった。
委員会としては、以下のように考える。
情報の一元化に関しては、大阪府において、食の安全推進課が、保健所からの監視指導や食品検査並びに事故情報を集約するとともに、「食の安全・安心推進委員会(庁内組織)」事務局として、部局横断的な集約も行っている。しかし、情報の分析、再構築、発信の目的と方法等が、府民にわかりやすいものになっているか、リスクコミュニケーションの視点から役立つものになっているかなど、今日的な課題に応えるため、必要に応じて府民参加の下で、改善すべき点を精査すべきである。
また、リスクコミュニケーションを推進する立場から、「府民の申し出」や「施策の提案」についても規定するかどうかを検討する必要がある。
食品安全委員会の行うリスク評価をはじめ、食品の安全性に関する情報が増大している。海外における情報にも、府民の生活に直接関わるものもある。大阪府としても、積極的に広く情報を収集し、府民にわかりやすい形で提供をしていくことにも取組むべきである。
(4) 事業者の取組み促進について(顕彰制度、認証制度等)
食の安全の確保は、第一義的には事業者(生産者含む。以下同じ)がその責任において確保すべきものであることから、規制するだけでなく事業者の積極的な取組みを促す方策も重要である。
馬場委員からは、「事業者の危害防止の取組み」として、設備面での衛生管理・事故防止策について、加工食品工場での異物混入防止対策や品質保証機器、品質検査等を経て出荷される工程、消費者から苦情の相談や申し出があった場合の対応等の紹介があった。
西村委員からは、「社団法人 大阪外食産業協会での安全・安心の取組み」として、「食博覧会・大阪」の開催や人材育成を目的とした研修と資格認定制度で食品衛生を必須のカリキュラムとする取組み、小学校高学年を対象とした調理の体験学習、生産者の顔の見える食材を使用した新商品を提案する「食材フェア」などの事業の紹介があった。また、食に関するルールは当然守った上で、それ以上を目指すことを支援するような顕彰制度の検討の提案があった。
また、大阪府から、事業者の取組みの促進施策として、自主行動基準の登録、Eマーク食品の認証、農産物におけるGAPの取組みについての事例報告があった。自主行動基準では、平成15年から「食の安全の取組宣言事業」を行ってきており、消費者志向の自主行動基準を設けている事業者が多くあり、今後、平成17年7月に改正された消費者保護条例における自主行動基準の登録、公示の仕組みを活用し、自主的な取組みに対する支援、認証を行うことも検討されるべきである。
これらの事例を参考に、事業者の取組み促進方策について議論した。
安全確保の取組みにおける、企業規模の違いによる問題発生状況については、大企業より中小企業に問題が多いのではないかという指摘がある反面、設備面での問題より、倫理面の問題の方が大きく、必ずしも企業規模に左右されないという意見も出された。安全は、法令などに決められた規格基準や規範、あるいはHACCP(ハサップ)手法を採用した管理などのプロセスを確実に実施すれば、確保できるものであり、むしろ、確実に実施しているかどうか、第3者がチェックできることが課題であるとの指摘があった。委員からは、事業者の取組みが見えてこないので、もっとわかりやすく伝えるべきではないか、そのためにも、各企業は外部チェックの仕組みを取入れることが必要であると提案された。別の委員からは、外部チェックについては経費の問題があるという意見があった。また、行政は、事業者の取組み状況を監視指導や食品検査などを通じて把握していると考えられるが、そうした情報をもっと提供していくべきではないかという指摘もあった。
消費者団体では、地域に密着した小売店などで、表示や量目などが良好な店舗に感謝状などを出している例もあるが、今後、大企業も含めて、顕彰していくとなると基準づくりや、誰が顕彰するのかなど整理する必要がある。また、こうした制度を作る際には、行政が前面にでるのではなく、ノウハウを持った業界団体などが中心になって取り組んでいく方がよいという意見が多かった。さらに、業界内では、取組みを評価されていても、それが消費者には伝わらないことが多かったので、消費者に伝える工夫が求められる。行政は、その顕彰制度等の権威を高めたり、広報活動の面で支援していく仕組みにすることが望ましい。
顕彰制度や認証制度は、それ自体が目的になって、形骸化してしまうおそれが大きいので、運営に十分注意が必要である。適切な該当事例がない場合は、見送ることも必要である。仕組み作りの中に、事業者のノウハウや自主性を活かすとともに、消費者や第3者のチェック機能の取入れ、行政の支援などをうまく組合せた制度にし、併せて形骸化しない努力をすべきである。
(5) 大阪らしい取組みの推進について
大阪らしい取組みを検討するにあたり、笹井委員から「市場と商いそして食文化からみた大阪らしさ」について、大阪商工会議所中小企業振興部新田部長から「大阪食彩ブランド事業」について、提言・報告があった。
笹井委員からは、問屋を要にした大阪の食材の流通の歴史の中で、卸売業者が果たしてきた役割と、安全・安心の観点から、「市場」がこれから果たしていくべき役割などについて問題提起された。中小の生産者や小売店が、消費者に「得心」して買ってもらう仕組みを作っていくことが重要であるとの指摘があった。「生産者の顔が見える」ことだけではなく、「生産者からも消費者の顔がみえる――作ったものを誰が食べてくれるのか――ことがもっと大切である」。こうした観点からは、府内の自給率が低くても、大阪産農産物の消費を支えるため、大阪産農産物を一定比率で取扱う店舗を表示することなどの提案も出された。
また、大阪は全国の外食産業の料理長を数多く輩出していることから、食の安全・安心についても、大阪で育成された人材のブランド力を高める工夫などが考えられないかという指摘もされた。特に、大阪は、ふぐの消費量が全国一と言われていることから、ふぐの取扱登録者のブランド力を向上させることも重要である。
新田部長からは、「食」は、大阪の都市魅力を構成する重要な要素であり、大阪のブランド戦略の一つとしての役割が期待されているという観点から大阪商工会議所の「大阪賑わい創出プラン」での取組みが紹介された。「庶民化と高級化が共存する」大阪の食文化の歴史を踏まえ、大阪の食の多様性の魅力を発信していくことが求められると同時に、情報発信の基盤整備のひとつとして、良い情報を発信していくための「食育」や「安全・安心の取組み」が重要であると指摘された。
委員からは、大阪は食について、熱心な議論ができる土地柄であり、たとえば、官主導でない「食育」も進んでいるので、民間の力をうまく活用するのが行政の役割であるということを明確にする方がよいという指摘があった。
食に関する情報交換の場として、事業者や消費者などが気軽に集まる「井戸端会議」的な場づくりを条例の中に位置づけるべきという意見や、そういった観点から、府民会議の再編も検討すべきという発言もあった。
食育に関しては、学校における取組みに差が大きいこと、給食における過剰な安全志向があるという指摘もあった。
なお、何が「大阪らしさ」なのかについては、条例で決められるものではなく、民間に委ねるべきことであるため、大阪府は、民間の活動を支援するという考え方を条例に規定することが望ましい。
委員会としては、(4)、(5)については、民間主導型の食の安全・安心への取組みを推進するための認証制度など新たな制度について、事業者、消費者、行政によって更に検討する必要があると考える。
1. はじめに 2. 条例の制定にあたっての基本的な考え方 3. 大阪府が今後取組むべき施策の主な視点
4.
その他の必要な施策について 5. むすびに
3. 大阪府が今後取組むべき施策の主な視点
大阪府から示された条例に規定すべき項目の中から、特に重要なものとして、
(1) 健康への危害(健康への悪影響)の未然防止、拡大防止
(2) リスクコミュニケーションの推進
(3) 食の安全・安心に係る情報収集と提供
(4) 事業者の自主的な取組みへの支援
(5) 大阪らしい取組み
などに論点をしぼり議論を行った。
(1) 健康への危害の未然防止、拡大防止について
食品安全基本法においても、国民の健康の保護がもっとも大切であることが明記され、そのためには、健康への悪影響の未然防止を基本理念として、国も地方公共団体も施策を構築すべきであるとされている。これを踏まえ、食品衛生法において大幅な改正が行われ、予防的観点からの施策が盛込まれたところである。例えば、いわゆる健康食品や輸入食品については、国において、早期に、あるいは包括的に措置を取れるよう新たな規定が盛り込まれた。
さらに、平成18年5月からの農薬等のポジティブリスト制度の施行により、広範な農薬について残留基準が明確化され、食品衛生法による規制が拡大したところである。
食品の安全性を確保するためには、食品衛生法に基づく監視指導などの恒常的な取組みを基本としつつ、生産段階での安全確保のために必要な手立てや予測できない未知の危害に対する対応など、現行の法令の狭間・限界についても検討しておく必要がある。
1. 生産現場における安全確保について
条例の基本的な考え方からすれば、生産現場から消費まで、条例において安全確保のための規定が網羅されることが望ましいことから、委員から、食品衛生法の規制を受けない生産段階における農林水産物について、「農薬取締法等に違反して農薬等が使用された生産物について、知事が出荷・販売を禁止することができる」「事故の際に、生産現場に遡って生産物を特定して出荷停止、回収できるようにする」ことなどを内容とする条文を設けるべきであるという提案があった。
これに対して、大阪府からは、食の安全・安心推進条例(仮称)と並行して、都市農業・農空間に関する大阪府独自制度について、別途条例化も視野に農林水産審議会で審議しており、府内産農産物について、収益確保や担い手育成の観点から「安全・安心」をブランド化の一環として位置づける方向で検討している旨の説明があった。その中で、農薬取締法の遵守のための指導、違反した場合の措置勧告を行うこと、また併せて農家への取組み支援などを総合的に検討されているところである。
委員からは、「『安全・安心』という考え方を農業振興のための制度に入れるより、食の安全・安心の条例に入れる方が府民に分かりやすい」、「生産者だけに安全・安心を任せるのでなく、支援する仕組みが必要」、「生産段階で、農薬取締法に違反して農薬等が使用されたかどうかについては、大阪府やJAの農業指導現場での確認や出荷前のJAでの生産履歴記帳チェック、本人からの申し出など、農業生産指導現場と密接に関わっており、農業振興のための制度の中に規定すべき」という意見があった。また、「食の安全・安心の条例を制定することを契機に、縦割り行政に陥らず、関連する分野で歩調をあわせて取組みが進み、消費者の健康の保護、食の安全・安心という理念が他の分野でも活かされることが重要であり、どの条例で規定するかにこだわる必要はない」との意見もあった。
なお、大阪府では多くの農林水産物を府外産に依存していることから、従来、府内に流通している農林水産物で、食品衛生法上の違反ではないが、農薬取締法など関連法令に抵触する事案があった場合、生産地への通報など再発防止のための取組みを行っており、今後とも引続き実施していくこととしているとの説明があった。
委員会としては、府内産農林水産物の生産現場での安全・安心の確保のためには、関係部局の緊密な連携のもと、小規模な事業者が多い府内農林水産業の現状も踏まえ、府内産農林水産物の安全性確保の実効性が保てる適切な対応をすべきであると考える。
2. 未知の危害についての大阪府における立入調査、措置勧告等について
委員から、様々な食品が輸入されたり、開発されたりする時代にあって、予期し得ない食品の危害があることなどから、国の安全性評価が出ていない段階でも、「知事は食の安全の確保、危害発生の未然防止のため、事業者に報告を求めることができ、立入調査をし、必要な措置をとるよう勧告・命令できる」権限を規定すべきであるという趣旨の提案がなされた。
一方、大阪府から、食品について健康への悪影響が発生するおそれがあるとき、あるいは、危害が発生したときには、知事には食品衛生法第28条に規定する立入調査等の権限があり、その調査結果に応じて、一定の行政措置を行うなど、現行法体系での対応が可能である旨説明があった。また、改正食品衛生法第7条の第2項及び第3項において、いわゆる健康食品などについて、危害の未然防止・拡大防止のため、一定の条件の下に、厚生労働大臣に、販売禁止命令の権限が定められているが、都道府県知事の権限の定めがない。こうした問題について知事の権限を新たに条例で定める必要性があるかどうかについては、大臣権限と重複することによる問題点などが指摘された。仮に事例を認知したときには、厚生労働省と協議しながら、情報提供など早期の対応で解決するのが適切であるとの考えが示された。
また、委員からも、科学的な分析、調査には一定のプロセスと時間が必要であり、大阪府に権限を設定して独自に対応することについては、必ずしも迅速かつ的確な対応につながるものではないこと、さらに、大阪府の現在の調査研究体制では、安全性評価機能まで想定されていないことから、条例で新たな立入調査権を規定することの実効性に疑問があるとの指摘があった。
これらの論点については、法制上の問題と自治体が安全性評価まで行うかどうかについての論議があり、食品衛生法で対応できない場合を想定した立入調査、勧告・命令の権限の規定について委員会としての意見の一致には至らなかった。
3. 危害の拡大防止について
食品による健康被害が起こった場合、早期の情報提供が何よりも望まれる。委員からは、特に、大阪市内で製造された低脂肪乳食中毒事件を教訓として、情報提供のタイミングについて、行政は早期に情報提供すべきであるとの提案があった。
大阪府からも、予防的観点から、平成15年の食品衛生法の改正の趣旨なども踏まえ、できるだけ早い時期での情報提供を行うことが必要であるという認識が示されたところである。
その際には、危害の発生と食品等にどの程度の関連を求めるべきかが問題となるが、従前は高度な因果関係、原因物質の特定などを前提としていたが、今後は一定の蓋然性が認められる段階での公表を積極的に行っていきたいと大阪府から示された。しかし、蓋然性の判断については、客観的に判断できる基準が必要である。一方、一般論では基準を定めがたい面もあり、マニュアルなどを作るとともに、個別のケースに応じて、風評被害などにも留意しながら、専門家の助言を求めるなどの仕組みが必要である。公表にいたる過程では当該事業者に釈明の機会を与えることも考慮する必要があるという指摘があった。
なお、ここでの公表は、府民に対する注意喚起のための「情報提供」であって、事業者に対する「制裁」にならないような配慮も必要である。
委員会としては、こういった問題点に留意しつつ、健康被害の拡大防止のため、一定の蓋然性が認められる場合に、府民に積極的に情報提供すべきであると考える。
4. 自主回収報告制度について
行政が探知する以前に、事業者自らが食品等の不備を把握し、自主的に回収することがあるが、現状では、法律による規定がないため、保健所に報告するかどうかは事業者の判断に委ねられている。食品衛生法に違反する、又はその疑いがある場合、保健所に報告があれば、大阪府では、その情報を公表することで、被害の未然防止・拡大防止と事業者の回収の円滑化を図っている。また、他の行政機関からの自主回収情報についても併せて提供されている。
食品は、他の製品に比べ購入者を把握しにくいことや流通・消費期間が短いことなどから回収率が悪い、また、社告にも費用がかかるという声もあり、行政、事業者、消費者が一体となって、よりよいルールづくりができることが望ましい。そうした情報の開示については行政の積極的な取組みが不可欠であり、大阪府のホームページをみれば、すぐにわかるよう、提供の仕方にも工夫が求められる。社告を見ても、その内容がわかりにくいことも多く、条例で仕組みをつくることで、わかりやすい情報提供と再発防止への効果を期待したい。なお、海外では健康被害があるかないかによって、メディアや消費者に告知して回収を行うか、告知はせず店頭からの撤去のみを行うかを判断しているとの報告もあった。
委員会としては、今後、これまで事業者に委ねていた報告を条例において制度化し、回収情報を迅速かつ的確に府民に伝えることにより、食の安全に対する信頼を高めるべきであると考える。事業者にとっての自主回収報告は、法令違反、又はそのおそれのあることを自ら申告するものであるが、その目的が、被害の拡大防止を第一義にしていることについて、府民の理解を得られ、申告しやすい仕組みにすべきである。
また、自主回収報告を制度化する場合のガイドラインなどを別途規定するとともに、現在、政府レベルで検討されている、食品のリコール制度などについても情報収集し、条例に反映することが望ましい。
(2) リスクコミュニケーションについて
リスクコミュニケーションは、食品安全行政に導入されたリスク分析手法の重要な要素であり、とくに、都道府県段階においては、従前実施してきたリスク管理業務(食品衛生法にもとづく監視指導業務等)に加え、新たに食の安全・安心推進の施策上の課題となっている。日本の食品安全行政に、この考え方が導入されてまだ歴史が浅いため、本検討委員会でも平川委員に改めてリスクコミュニケーションについて問題提起を依頼し、以下のとおり課題を整理したところである。
リスクコミュニケーションは、リスク評価を行う専門家、リスク管理を行う行政のほか、消費者、事業者等の関係者の間でリスクに関する情報や意見を交換する双方向的なコミュニケーションと位置づけられるとともに、有効な施策が作られるための民主的な政策決定過程でもある。
そのため、科学的な情報だけでなく、施策の内容や決定理由、個人的な意見や感情などもリスクコミュニケーションでやりとりされる情報に含まれるが、必ずしも合意形成が目的ではなく、問題点の発掘や関係者の信頼関係を高めていくことが重要である。
さらに、行政(都道府県、保健所)の役割として、下記の5つが示された。
(ア) 国の科学的リスク評価と技術的、社会経済的、法的課題を踏まえた政策の決定、実施、監督
(イ) 事業者のリスク管理措置への誘因付与(管理措置にプラスになる規制)
(ウ) 政策決定と実施に必要な情報を消費者・事業者から収集
(エ) リスク情報に関して組織内で効果的な伝達・蓄積・分析の実施
(オ) 消費者・事業者等が施策に参加・関与できる機会の提供
また、大阪府の課題として下記のとおり具体的な提案が示された。
1. 提供する情報の再構築(何を伝えたらいいのか)
(ア) リスク管理の実績(監視・指導・検査の結果、苦情処理情報等)の発信
(イ) 何をすればよいかの行動に結びつく情報の発信(生活や事業現場で役立つ情報への再編集)
(ウ) メリット・デメリット等のバランス思考、総合判断できる情報の発信(費用、利益、対抗リスク等)
(エ) 不確実な情報の扱い方の検討
2. 情報の伝え方の再構築(どのように伝えるか)
(ア) 関心の高い層へのアプローチと「語り部」の育成
(イ) 小声での疑問や感想などの「つぶやき」への対応
(ウ) 場の工夫(生活現場に近いスーパー、ショッピングセンター等の活用)
(エ) 参加型の伝達手法の開発(情報の受け手側の視点を反映するホームページ作成)
(オ) 計画的対応と成果の評価
委員からは、リスクコミュニケーションにおいて、現状では、表明した意見がどのように扱われたかの説明や活かされなかった場合の理由の説明が不十分であるとの指摘があった。また、リスコミュニケーションの場への参加意欲を高めるためにも、意見が活かされたという実績も明らかにしていく必要がある。参加しても十分意見が言えない者の「つぶやき」についても拾い上げる工夫が求められる。
情報の内容に関しては、リスクコミュニケーションの手段の開発が必要であること、食品安全委員会などから示される全国標準的な情報を、府民の生活を踏まえて、府民が使いやすい形に再構成すること、リスクに対する具体的な行動や対処法まで含めたわかりやすい情報が必要なことなど、様々な指摘や提案があった。また、農薬に関して、むやみに有害視するのでなく、府民の正しい理解が進むような科学的な資料も必要であるとの意見も出された。
さらに、商店街やスーパーマーケットなど府民が参加しやすい場の活用などについても言及された。また、商店などでの客と店員との対面の販売でのやり取りは、情報交換の役割があり、これがリスクコミュニケーションの一端を担うとともに、商店街の活性化にもつながることを期待したいという意見もあった。
委員会としては、今後、次項の情報収集と提供についての取組みともあいまって、効果的なリスクコミュニケーションが行えるよう、府民会議の運営方法や、身近な場の設定、手段の開発など、様々な提案を活用し、取組みを充実していくべきである。また、リスクコミュニケーションの成果についても評価を行い、改善していくべきであると考える。
(3) 情報収集と提供について
現場情報を把握するための手法としての消費者の苦情・相談とその処理、健康被害の未然防止、拡大防止、関係者の信頼関係の醸成など、あらゆる面において情報は大きな役割を果たしているにもかかわらず、食の安全にかかわる情報が、わかりやすく提供されているとは言いがたい。また、消費者が一般的に情報を入手するのはマスメディアであるが、必ずしも、正確な情報提供がなされているわけではない。センセーショナルな取上げ方や偏ったあるいは不十分な情報がかえって事故につながったり、また過度に不安・不信をあおるような情報もあふれている。消費者は、信頼できる窓口から提供される安心できる情報を求めている。
情報は、その集積、管理の仕方により、そこから新たに見えてくるものがある。行政は、収集した情報を、予防や危機管理、新たな施策構築に活かせるよう、情報収集、管理、提供にもっと工夫が求められる。委員からは、特に食の安全・安心に係る情報の一元的な管理の仕組み(例えば、食の安全情報センター)を設け、情報を分析し、問題の発掘や事故の未然防止に活用すること、また、一箇所で苦情や相談の処理ができる仕組みの必要性について、強い要請があった。一方、情報の専門性と個々の職員の職務範囲を考慮すると、ひとつの窓口でさばくことの難しさや迅速性において、一元化で対応することは、必ずしも現実的ではないという指摘も出た。
また、府民からの申し出や施策への提案などについて規定し、行政の適切な対応が確保されることが望ましいという意見が出された。
消費者の苦情等は、事業者へも伝えられるはずであるから、事業者からも情報をもっと行政が集めることによって、今後、事故の拡大防止などにつなげるべきであるとの指摘もあった。
苦情などへの対応に係る大阪府の考え方として、苦情発生現場に近い所で迅速・的確に行うことがもっとも効率的・効果的であり、その意味で保健所は府民の相談窓口として定着しているという説明があったが、委員からは、保健所の体制や能力について、よりいっそう充実・強化する必要があるのではないかといった指摘もあった。
委員会としては、以下のように考える。
情報の一元化に関しては、大阪府において、食の安全推進課が、保健所からの監視指導や食品検査並びに事故情報を集約するとともに、「食の安全・安心推進委員会(庁内組織)」事務局として、部局横断的な集約も行っている。しかし、情報の分析、再構築、発信の目的と方法等が、府民にわかりやすいものになっているか、リスクコミュニケーションの視点から役立つものになっているかなど、今日的な課題に応えるため、必要に応じて府民参加の下で、改善すべき点を精査すべきである。
また、リスクコミュニケーションを推進する立場から、「府民の申し出」や「施策の提案」についても規定するかどうかを検討する必要がある。
食品安全委員会の行うリスク評価をはじめ、食品の安全性に関する情報が増大している。海外における情報にも、府民の生活に直接関わるものもある。大阪府としても、積極的に広く情報を収集し、府民にわかりやすい形で提供をしていくことにも取組むべきである。
(4) 事業者の取組み促進について(顕彰制度、認証制度等)
食の安全の確保は、第一義的には事業者(生産者含む。以下同じ)がその責任において確保すべきものであることから、規制するだけでなく事業者の積極的な取組みを促す方策も重要である。
馬場委員からは、「事業者の危害防止の取組み」として、設備面での衛生管理・事故防止策について、加工食品工場での異物混入防止対策や品質保証機器、品質検査等を経て出荷される工程、消費者から苦情の相談や申し出があった場合の対応等の紹介があった。
西村委員からは、「社団法人 大阪外食産業協会での安全・安心の取組み」として、「食博覧会・大阪」の開催や人材育成を目的とした研修と資格認定制度で食品衛生を必須のカリキュラムとする取組み、小学校高学年を対象とした調理の体験学習、生産者の顔の見える食材を使用した新商品を提案する「食材フェア」などの事業の紹介があった。また、食に関するルールは当然守った上で、それ以上を目指すことを支援するような顕彰制度の検討の提案があった。
また、大阪府から、事業者の取組みの促進施策として、自主行動基準の登録、Eマーク食品の認証、農産物におけるGAPの取組みについての事例報告があった。自主行動基準では、平成15年から「食の安全の取組宣言事業」を行ってきており、消費者志向の自主行動基準を設けている事業者が多くあり、今後、平成17年7月に改正された消費者保護条例における自主行動基準の登録、公示の仕組みを活用し、自主的な取組みに対する支援、認証を行うことも検討されるべきである。
これらの事例を参考に、事業者の取組み促進方策について議論した。
安全確保の取組みにおける、企業規模の違いによる問題発生状況については、大企業より中小企業に問題が多いのではないかという指摘がある反面、設備面での問題より、倫理面の問題の方が大きく、必ずしも企業規模に左右されないという意見も出された。安全は、法令などに決められた規格基準や規範、あるいはHACCP(ハサップ)手法を採用した管理などのプロセスを確実に実施すれば、確保できるものであり、むしろ、確実に実施しているかどうか、第3者がチェックできることが課題であるとの指摘があった。委員からは、事業者の取組みが見えてこないので、もっとわかりやすく伝えるべきではないか、そのためにも、各企業は外部チェックの仕組みを取入れることが必要であると提案された。別の委員からは、外部チェックについては経費の問題があるという意見があった。また、行政は、事業者の取組み状況を監視指導や食品検査などを通じて把握していると考えられるが、そうした情報をもっと提供していくべきではないかという指摘もあった。
消費者団体では、地域に密着した小売店などで、表示や量目などが良好な店舗に感謝状などを出している例もあるが、今後、大企業も含めて、顕彰していくとなると基準づくりや、誰が顕彰するのかなど整理する必要がある。また、こうした制度を作る際には、行政が前面にでるのではなく、ノウハウを持った業界団体などが中心になって取り組んでいく方がよいという意見が多かった。さらに、業界内では、取組みを評価されていても、それが消費者には伝わらないことが多かったので、消費者に伝える工夫が求められる。行政は、その顕彰制度等の権威を高めたり、広報活動の面で支援していく仕組みにすることが望ましい。
顕彰制度や認証制度は、それ自体が目的になって、形骸化してしまうおそれが大きいので、運営に十分注意が必要である。適切な該当事例がない場合は、見送ることも必要である。仕組み作りの中に、事業者のノウハウや自主性を活かすとともに、消費者や第3者のチェック機能の取入れ、行政の支援などをうまく組合せた制度にし、併せて形骸化しない努力をすべきである。
(5) 大阪らしい取組みの推進について
大阪らしい取組みを検討するにあたり、笹井委員から「市場と商いそして食文化からみた大阪らしさ」について、大阪商工会議所中小企業振興部新田部長から「大阪食彩ブランド事業」について、提言・報告があった。
笹井委員からは、問屋を要にした大阪の食材の流通の歴史の中で、卸売業者が果たしてきた役割と、安全・安心の観点から、「市場」がこれから果たしていくべき役割などについて問題提起された。中小の生産者や小売店が、消費者に「得心」して買ってもらう仕組みを作っていくことが重要であるとの指摘があった。「生産者の顔が見える」ことだけではなく、「生産者からも消費者の顔がみえる――作ったものを誰が食べてくれるのか――ことがもっと大切である」。こうした観点からは、府内の自給率が低くても、大阪産農産物の消費を支えるため、大阪産農産物を一定比率で取扱う店舗を表示することなどの提案も出された。
また、大阪は全国の外食産業の料理長を数多く輩出していることから、食の安全・安心についても、大阪で育成された人材のブランド力を高める工夫などが考えられないかという指摘もされた。特に、大阪は、ふぐの消費量が全国一と言われていることから、ふぐの取扱登録者のブランド力を向上させることも重要である。
新田部長からは、「食」は、大阪の都市魅力を構成する重要な要素であり、大阪のブランド戦略の一つとしての役割が期待されているという観点から大阪商工会議所の「大阪賑わい創出プラン」での取組みが紹介された。「庶民化と高級化が共存する」大阪の食文化の歴史を踏まえ、大阪の食の多様性の魅力を発信していくことが求められると同時に、情報発信の基盤整備のひとつとして、良い情報を発信していくための「食育」や「安全・安心の取組み」が重要であると指摘された。
委員からは、大阪は食について、熱心な議論ができる土地柄であり、たとえば、官主導でない「食育」も進んでいるので、民間の力をうまく活用するのが行政の役割であるということを明確にする方がよいという指摘があった。
食に関する情報交換の場として、事業者や消費者などが気軽に集まる「井戸端会議」的な場づくりを条例の中に位置づけるべきという意見や、そういった観点から、府民会議の再編も検討すべきという発言もあった。
食育に関しては、学校における取組みに差が大きいこと、給食における過剰な安全志向があるという指摘もあった。
なお、何が「大阪らしさ」なのかについては、条例で決められるものではなく、民間に委ねるべきことであるため、大阪府は、民間の活動を支援するという考え方を条例に規定することが望ましい。
委員会としては、(4)、(5)については、民間主導型の食の安全・安心への取組みを推進するための認証制度など新たな制度について、事業者、消費者、行政によって更に検討する必要があると考える。