Ⅰ.公的年金制度に期待される機能 Ⅱ 日本の公的年金制度の仕組みと現状 Ⅲ 日本の公的年金制度の問題点
Ⅳ 基礎年金・公費負担方式化が世論の動向 Ⅴ 公的年金制度のゆくえ
[講師] 佛教大学 社会福祉学部
教授 里見 賢治 氏
■日時:2008年7月30日(水)
■場所:大阪府社会福祉会館5階第1会議室
『基礎年金・公費負担方式の提案―皆保障体制をめざして』
Ⅱ 日本の公的年金制度の仕組みと現状
1.運営・財政方式=社会保険方式
次に、ローマ数字の2の日本の公的年金制度の仕組みという初歩的なお話を少しだけしておきたいと思います。
日本の年金制度というのは、そこに書いていますように1つは運営・財政方式で、どんな方式で運営しているかといいますと、社会保険方式で運営をしてるわけですね。社会保障制度というのは社会保険方式しかないのではなくて、もう1つのやり方があります。しかし、日本では年金も医療も介護も全部社会保険でやっていますので、社会保険が1番いい、あるいは当り前の制度だと思いがちですが、実はそうではなくて、そこに書いていますように社会保障制度の運営・財政方式としては2つのやり方があるのです。1つは公費負担方式といわれるものです。これは、マスメディアなどでは税方式と呼んでいます。私が税方式という言い方を使わないで、公費負担方式と言っているのは、必ずしも公費負担方式の財源が税とは限らないからですね。負担金だとか拠出金だとか他の負担、あるいは極端に言いますと、例えば、場合によっては国債ということも考えられます。そういう意味で、単に税だけではないという意味で公費負担方式としているのです。例えば年金制度でこういうやり方を取っている国はどこかと言いますと、1番有名なところで言いますとデンマークがそうですね。デンマークの基本年金制度というのは税方式でやっています。ですから、保険料を払った払ってないというのは関係ないので、その国に何年住んだということだけが条件になります。ニュージーランドもそうですね。カナダもオーストラリアもそうです。というふうにいくつかあります。年金では社会保険方式の国の方が多いのですが、医療になってくるともっと増えます。医療になると、日本は社会保険でやっていますので、保険料を払わなかったら、途端に医者にもかかれないという悲惨な事態になりますが、そうでなくて公費を財源にやっている国というのもいっぱいありまして、イギリスもそうですね。私は今から18年前にイギリスに1年ほど留学していましたが、私のように1年しかいないというのでもカバーしてくれるのです。ですから、そういう寛大な制度を取っている。もちろん北欧諸国はそうです。デンマークもスェーデンもカナダもそうですね。イタリアもそういう方式に変わりました。しかし、日本は社会保険でやっている。日本は運営方式としては、社会保険方式でやっているというのが著しい特徴であるわけです。
2.被用者と非被用者の区別(制度の分立)
2つ目は、年金制度では被用者とか非被用者という言い方をよく使うのですが、被用者というのは雇われて働いているということで、サラリーマンとか公務員とかは被用者です。非被用者というのはそうでない人ですね。だから、自営業だとか無職だとか農民だとかいうのは全部雇われて働いていないということで非被用者ということになります。これを非常に厳密に区別して制度を組み立てているということから、結局必然的に制度が分立してくるわけです。そういう点が2つ目の特徴だと思います。
3.被用者年金制度に関して、2階建て方式
3つ目に、被用者年金制度に関しては2階建て方式になっているということですね。ですから、簡単に言えば1986年からこういう制度になっているのですが、それまではちょっと違ったのですね。まず基礎年金というのが国民年金ですよね。一応20歳以上はこれに入るということになっているわけです。そして雇われて働いている人、例えば民間の事業所の人はこの上に厚生年金というのが付いているわけですね。公務員等については共済組合が立っているという構造をしているわけです。従って、例えば民間の病院とか福祉施設や事業所に就職した人は、自動的に基礎年金にも加入するわけです。二重加入しているわけですね。公務員になった人は共済組合に加入すると同時に基礎年金にも加入する。これが基本的な構造なんですね。第1号被保険者というのは自営業者の他に20歳以上の学生なんかもここに入りますが、自由業の人もここに入ります。第3号被保険者は、サラリーマンや公務員の奥さん、雇われて働いている人に養われている人です。奥さんが働いていて、旦那が養われているというケースもありますので、非扶養配偶者といいます。
基礎年金についていいますと、厚生年金や共済組合に同時に加入している人が第2号被保険者と言います。そしてその奥さんが第3号被保険者と言われています。自営業の人だとかその他学生だとか日本に住んでいる人はすべてここに入り、第1号被保険者と言われています。日本の年金制度というのは基本的にはこういう姿をしているわけです。従って雇われて働いている人については基礎年金だけではなくて、この2階部分もついているという構造をしているという特徴を持っているわけです。
4.皆年金体制を志向
4番目に、日本は多少面白い国だなと思うのは、皆年金だとか皆保険だとかいうスローガンを作るのですね。一つの建前です。ですから国民皆年金体制を目指すだとか、厚生労働省は今でも言っていますよね。国民皆保険とは何かと言いますと、医療保険のことを言っているわけです。すべての人が医療を受けられるようにするということです。今は年金制度の話ですので、4番目に挙げていますように、皆年金制度を目指すという建前を作っているわけです。つまり、目標として皆年金体制を掲げていて、実現するために社会保険でやろうとしているわけです。そこに、日本の年金制度の最大の矛盾があるのです。もともと皆年金という目標と、それを実現する手段として社会保険というのを持ってくるというのは合わないということですね。
Ⅰ.公的年金制度に期待される機能 Ⅱ 日本の公的年金制度の仕組みと現状 Ⅲ 日本の公的年金制度の問題点
Ⅳ 基礎年金・公費負担方式化が世論の動向 Ⅴ 公的年金制度のゆくえ
[講師] 佛教大学 社会福祉学部
教授 里見 賢治 氏
■日時:2008年7月30日(水)
■場所:大阪府社会福祉会館5階第1会議室
『基礎年金・公費負担方式の提案―皆保障体制をめざして』
Ⅱ 日本の公的年金制度の仕組みと現状
1.運営・財政方式=社会保険方式
次に、ローマ数字の2の日本の公的年金制度の仕組みという初歩的なお話を少しだけしておきたいと思います。
日本の年金制度というのは、そこに書いていますように1つは運営・財政方式で、どんな方式で運営しているかといいますと、社会保険方式で運営をしてるわけですね。社会保障制度というのは社会保険方式しかないのではなくて、もう1つのやり方があります。しかし、日本では年金も医療も介護も全部社会保険でやっていますので、社会保険が1番いい、あるいは当り前の制度だと思いがちですが、実はそうではなくて、そこに書いていますように社会保障制度の運営・財政方式としては2つのやり方があるのです。1つは公費負担方式といわれるものです。これは、マスメディアなどでは税方式と呼んでいます。私が税方式という言い方を使わないで、公費負担方式と言っているのは、必ずしも公費負担方式の財源が税とは限らないからですね。負担金だとか拠出金だとか他の負担、あるいは極端に言いますと、例えば、場合によっては国債ということも考えられます。そういう意味で、単に税だけではないという意味で公費負担方式としているのです。例えば年金制度でこういうやり方を取っている国はどこかと言いますと、1番有名なところで言いますとデンマークがそうですね。デンマークの基本年金制度というのは税方式でやっています。ですから、保険料を払った払ってないというのは関係ないので、その国に何年住んだということだけが条件になります。ニュージーランドもそうですね。カナダもオーストラリアもそうです。というふうにいくつかあります。年金では社会保険方式の国の方が多いのですが、医療になってくるともっと増えます。医療になると、日本は社会保険でやっていますので、保険料を払わなかったら、途端に医者にもかかれないという悲惨な事態になりますが、そうでなくて公費を財源にやっている国というのもいっぱいありまして、イギリスもそうですね。私は今から18年前にイギリスに1年ほど留学していましたが、私のように1年しかいないというのでもカバーしてくれるのです。ですから、そういう寛大な制度を取っている。もちろん北欧諸国はそうです。デンマークもスェーデンもカナダもそうですね。イタリアもそういう方式に変わりました。しかし、日本は社会保険でやっている。日本は運営方式としては、社会保険方式でやっているというのが著しい特徴であるわけです。
2.被用者と非被用者の区別(制度の分立)
2つ目は、年金制度では被用者とか非被用者という言い方をよく使うのですが、被用者というのは雇われて働いているということで、サラリーマンとか公務員とかは被用者です。非被用者というのはそうでない人ですね。だから、自営業だとか無職だとか農民だとかいうのは全部雇われて働いていないということで非被用者ということになります。これを非常に厳密に区別して制度を組み立てているということから、結局必然的に制度が分立してくるわけです。そういう点が2つ目の特徴だと思います。
3.被用者年金制度に関して、2階建て方式
3つ目に、被用者年金制度に関しては2階建て方式になっているということですね。ですから、簡単に言えば1986年からこういう制度になっているのですが、それまではちょっと違ったのですね。まず基礎年金というのが国民年金ですよね。一応20歳以上はこれに入るということになっているわけです。そして雇われて働いている人、例えば民間の事業所の人はこの上に厚生年金というのが付いているわけですね。公務員等については共済組合が立っているという構造をしているわけです。従って、例えば民間の病院とか福祉施設や事業所に就職した人は、自動的に基礎年金にも加入するわけです。二重加入しているわけですね。公務員になった人は共済組合に加入すると同時に基礎年金にも加入する。これが基本的な構造なんですね。第1号被保険者というのは自営業者の他に20歳以上の学生なんかもここに入りますが、自由業の人もここに入ります。第3号被保険者は、サラリーマンや公務員の奥さん、雇われて働いている人に養われている人です。奥さんが働いていて、旦那が養われているというケースもありますので、非扶養配偶者といいます。
基礎年金についていいますと、厚生年金や共済組合に同時に加入している人が第2号被保険者と言います。そしてその奥さんが第3号被保険者と言われています。自営業の人だとかその他学生だとか日本に住んでいる人はすべてここに入り、第1号被保険者と言われています。日本の年金制度というのは基本的にはこういう姿をしているわけです。従って雇われて働いている人については基礎年金だけではなくて、この2階部分もついているという構造をしているという特徴を持っているわけです。
4.皆年金体制を志向
4番目に、日本は多少面白い国だなと思うのは、皆年金だとか皆保険だとかいうスローガンを作るのですね。一つの建前です。ですから国民皆年金体制を目指すだとか、厚生労働省は今でも言っていますよね。国民皆保険とは何かと言いますと、医療保険のことを言っているわけです。すべての人が医療を受けられるようにするということです。今は年金制度の話ですので、4番目に挙げていますように、皆年金制度を目指すという建前を作っているわけです。つまり、目標として皆年金体制を掲げていて、実現するために社会保険でやろうとしているわけです。そこに、日本の年金制度の最大の矛盾があるのです。もともと皆年金という目標と、それを実現する手段として社会保険というのを持ってくるというのは合わないということですね。
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