2009年度大阪府生協連「政策討論集会」
基調講演『25%削減と日本経済』
京都大学大学院経済学研究科教授
地球温暖化防止に関する閣僚委員会タスクフォース座長
植田 和弘 氏
ご紹介いただきました植田です。この「25%削減と日本経済」ということでお話しをさせていただきたいと思っておりますが、ただこの問題はいろいろ広く関連する事柄がたいへん多いので、最後少しだけ質疑という時間をと思っておりますので、私が話さなかった事でも何かありましたら、ご質問・ご意見いただければと思います。
GHG25%削減をめぐる論点
ご紹介いただいたように私は25%削減のタクスフォースの座長というのをやらしていただいているというか、やれと言うことになりましてお引受けしたのですが、これは昨年の10月の半ばぐらいでございました。それはもうお分かりのように政権の交代があって、中期目標について国連総会の場で鳩山首相が25%削減ということを宣言したわけですね。この数値は前の政権が提示しておりました中期目標の数値とかなり違っておりました。前は8%でしたからね。8%と25%は大きく違うわけですね。実は25%削減というのも前の中期目標の検討委員会の選択肢には入っておりました。しかし、それは取られなかったわけですね。それで8%になっていました。
それで、何がタスクフォースへの依頼事項かという事でございますが、大きく言えば2つあったと理解しております。今も継続していますが、1つは前の8%ではなくて25%を選んだというか、それを宣言しているわけですので、なぜ8%ではだめかという問題がもちろんございます。それは非常に分かり易い話で、先ほど早川さんの方からお話があったと思いますが、科学的知見をベースにするとやっぱり先進国は25%削減を最低やらないとだめですね。25%~40%という数値の一番下の数値ですよ。先進国全体ということですので日本がとはならないかもしれませんが、日本もやっぱりこれぐらいやらないとだめでしょうということです。化学からの要請というのは鳩山首相が使った言葉で、化学からの要請というのも正しい一面だと私はそれなりに評価する数値の立て方だと思っております。しかし、なぜ前の政権が8%なんでしょう。中期目標検討委員会という検討委員会が作られて、そこには主要なモデル分析をするようにとライトという地球環境産業研究機構、それから国立環境研究所、エネルギー経済研究所とか慶応大学のモデルとかこういうのが全部動員されまして、ある宣伝文句には日本の最高の研究機関のモデル分析ですというふうになっておりました。その研究結果を踏まえてパブリックヒアリングもしまして、その結果8%を選んでいるわけですから、「なぜなんだ?」ということになります。ですから前の数字の計算結果が少しおかしかったのではないかと、こういうことも含めまして特に問題になりましたのは、これは実際にテレビやラジオなんかでもそういうふうに質問されたと思うのですが、特に25%削減は36万円負担になると、この数値を覚えておられる方はたくさんいらっしゃると思うのですが、25%削減は36万円負担しないといけない。「国民負担で1人36万円出せますか?」「こんなに負担出来ますか?」というのが1つの背景なんです。25%ではなくて、もっと負担の小さいものにしましょうという話になって行ったわけですね。25%削減に伴う国民負担の計算というのが果たして正しい数値が出たのかということを見直して欲しいというか検証して欲しい、出来たら再計算ということも含めまして検討してみて欲しいということでした。これが大きな1つの依頼事項でした。これは私はあんまりしたくありませんでした。同僚の研究者が間違っていたのではないかという事ですからね。でも、確かに今申し上げた一連のプロセスで8%が選ばれているわけですから、その根拠になっているものがもし正しければ8%削減でいいのではないかということになりますよね。ですから25%というのはどういう根拠があるのかと、こういうことになってしまいますから、やっぱり検証せざるを得ません。これは検証しまして一定の結論がもう出ていまして、新聞でも公表されました。まず、かなりモデル分析をしてるのですが、CASAのモデル分析というのが出て来ていて、最近のもので25%削減は十分達成可能ということになっております。その時出ていれば良かったのですが・・・今でも大変意味はあると思いますが、その時は、モデル分析されて、モデル分析というのは物凄く注意が必要です。私もインタビューで、例えばテレビでもラジオでも「25%削減、36万円負担」と言ったらどういうふうに思いますか?「36万円負担出来ますか?」って言われたら、今36万円負担するように思いません?これは、実は今から1.3%ずつ成長するというのがモデルの前提に置かれているのです。モデルを前提に置かないと影響を評価出来ないわけです。経済がどうなるのかに対して25%削減するということをすれば、どういう影響が出るかということを評価するわけだから、前提が無かったら評価出来ないわけです。それがビジネス・アズ・ユージュアリーとか今のままの推移で行くみたいなことですね。そういう事になったらという前提なんです。それで成長率が1.3%ずつとなっているわけです。これは政府の見通しとかそういうものがありますから、そうすると1.3%ずつ成長していますから2020年にはかなり所得が増えているのです。これが0成長だったら増えませんよ。これ自体が怪しいのではないかと、それはそうだと思います。でも、何らかの数値を置かないと計算出来ませんからね。マイナス1%ずつの成長になる、つまりマイナス成長だというのも正しいか分かりませんよね。ですから、一応政府なんかが長期的な見通しの中で言っている数値がございまして、それを置いてるわけですが、それは普通経済モデルを分析する時は妥当な数値だということになると思うのですが、そこからの影響なんです。でも36万円負担と言われたら、今払うように思われた方が多いと思います。それは残念ながら私の理解では、日本でこのようなモデルを使った分析結果を基にしてみんなで議論するというのは、あんまりやった事がないと思うのです。初めてだったんではないでしょうか。それは私はとてもいい事だと思うので、今後こういうことが増えて来ると思います。しかし、初めての経験でもありましたので、率直に言ってマスコミもあまり良く分かってなかったと思います。ですから、モデルは常に前提とか想定があるのです。CASAのモデルにも想定があるわけです。ですからその想定が正しいのかという問題が当然出てくるわけです。実は5つ位のモデルを作って分析をする人たちが一応合意したというのが、その今言ったモデルの前提条件になります。ですから計算上は36万円の負担があったとしても、実は出発点になる現時点とか、当時のモデルですから2005年ぐらいしょうかね。その位の時点からは所得が増えるところから減るので全体としては増えているのです。ですから聞き方によるのですね。「36万円負担しますから、どう思いますか?」と言われたら「いやですね。」という人が多いでしょうけど、「25%削減出来て、今からこれだけは増えるんですよ。それならやりますか?」と言われたらやる人が多かったのではないかなあと思います。これは聞き方にも物凄くよりますね。モデルというのは常にそうですけれど、25%削減は十分に達成可能とこういうふうに、そうなんですが、これはこういう前提を置いてこういう計算をしたら達成可能になるということなんですね。そういうふうに、これは一種のモデルに対する私たちのモデル分析の結果に対して私たち自身がどういうふうに理解をして議論すべきかということについて習熟していかないといけないという、こういう大きなテーマとも関わっていると思います。ですから言い方によって受けるニュアンスが大分違うと思います。この事がまず1つですね。36万円という数値は間違いでした。最終的な私たちタスクフォース全員の一致として間違いでしたということを新聞にも公表しました。新聞は36万円負担の時は大きく書くのですが、間違いだったというのはどこに書いてあるのか分らないように小さいものですから、あまり知られていないかもしれませんが、これははっきりしたんです。どういう間違いかということもはっきりいたしました。36万円という金額になっているのですが、もともとモデルを分析した人たちは実は金額は出しておりません。私は前の検討委員会には入っておりませんので、25%削減という新しい政権の下に出来たタスクフォースに座長として、改めて検証するということで見たわけです。そうすると、36万円という数字はそもそもどうやって出て来たか?モデル分析の結果ではないのですよ。みなさん、そう思っている人は結構いるのですが、実は違うのです。もちろんモデル分析の結果を基にはしています。でもこれは経済モデルをやる人ならだいたい良く分かることなのですが、何万円という数字を出すよりは、もともと想定がGDP1.3%上昇とかいう、こういうことを想定しているわけですから、影響というのもGDPが1.3%伸びるはずのところが、例えば0.何%落ちるとか、そういう言い方をし易いわけです。専門家はそっちの方を好むわけです。ところが、この中期目標の検討委員会の事務局をやっているのは内閣官房なんですが、この事務局が「何%と言われても分からへん。」というのです。これも僕は一理あると思うのです。ですから事務局の立場としては、パブリックヒヤリングをやるわけですから、もう少し国民に分かり易くしたいという観点で金額に直そうとしたわけです。それで大きく2つございまして、家計の可処分所得の減少というのと、光熱費の負担の増加という2つの数値を金額に直しました。これが、家計の可処分所得の減少分が22万円。それから光熱費の負担増加分が14万円。これはモデル分析をした方々は嫌がったのですが。しかし、これは政治政策的なことで学術的にはそうは言わない。でも「政治政策的には万円で示さないとパブリックヒヤリングの議論にならへんやないか。」というわけですね。ということで、何万円何万円にして行ったわけです。一応モデラーの方にも了解を得たようです。実はこれを足した人がいるのですが、これは間違いです。何故かというと、家計の可処分所得の減少の中には光熱費が増加するというのはかなり入り込んでるわけです。二重計算になるんです。これはタスクフォース全員の一致した見解ですね。ですから足してはいけないものを足したわけです。これは時々起ると言われたらそういうことかもしれませんが、これは大変重大な問題ですね。誰が最後に足したかはよく分かりません。もちろん追及することもひょっとしたら出来たかもしれないし、新聞社の人はそういうことをさせたがるんですが、それも大事な話ではあろうとは思いますが、これは本当に難しい問題ではあります。私たちは専門家の力も借りながら、数値自体が正しいかどうか検証しなければいけないですね。ですから、25%削減に伴う国民負担というふうなことで、前政権の中期目標検討委員会で出てきた36万円というのは、今言ったようなことで大変国民の判断にミスリーディングな影響を与えたと言わざるを得ないというふうに思いますので、それはそういうことだったということです。再計算をしなさいということで、多少はしたりはしてるのですが、ただもう1つ重要な点があります。モデル分析についてですが、これは先ほど言ったようにモデル分析には前提がございます。ある想定をおいてありますと言いました。これはいろいろありますが、マクロフレームと言いますが、先ほど1.3%というのも置いてあります。それから、なかなか難しいのは原油価格をどう想定するかということです。しかし、大きな問題だと思われたこと、何人かのかなり有力な指摘が出たのは、実はマクロフレームの前提に鉄鋼の生産量は2020年になっても1億2千万トンをずっと作り続けるということを置いてあります。これは前の政権では業界ヒアリングをずっとされていたのです。私はちょっと問題があると思います。なぜ鉄の生産量だけ先に決まるのか。おかしいと思うのですね。もちろん鉄鋼業が無くなったらいいとか、そんなことを言っているわけではありません。しかし、我々は低炭素型経済へ移行しようとしているわけですね。そういう時に鉄が1億2千万トン必ず作られるということになると、お分かりだと思いますが、それに伴うCO2がかなりたくさん出ます。そうすると日本全体で25%削減しようと思うと、他のところが余程頑張らないといけないことになります。当然そうですよね。一生懸命頑張らないといけないということは、経済学的には費用をたくさんかけるということなんです。ですから非常に負担が重い感じになるわけです。だから、最初から1億2千万トンと置いた時点で、モデル上実は国民負担が重くなるようになっているんです。そこに大きな問題があるということです。当然炭素税のようなものがかかって来ると、環境税ですね。今の政府の用語は地球温暖化対策税ですが、そういう税がかかりますと、もし鉄にもかけるとしますと、鉄の生産コストがぐっと上がりますので大変だと思います。当然、それだったら中国やインドで作るという話が出てきますので、日本では鉄の生産量がぐっと減ってみたいなことが起こるわけです。それはいいか悪いか分という問題ではないのですね。実際にそうしたらそうなる可能性はかなりあるはずなのに、そういう計算はしないということですよね。1億2千万トン作り続けるということです。もちろん根拠がないわけではないのですよ。業界ヒアリングで業界の計画みたいなものがありますし、実際に世界全体では鉄の生産は増えるのですね。中国、インドを始めとする途上国の成長というのがあります。2020年までにかなり生産量が増えるというようなことが入り込んでるわけです。しかし、私はそういう前提の置き方自体に少し問題があるのではないかと思います。そういうフレームの置き方を変えてみると違う計算が出る。このCASAのモデル分析には当然1億2千万トンなんか置いてませんよ。モデルのやり方が違う訳ですよね。ということで、私はやっぱり前政府のやった中期目標検討委員会はモデル分析をいろいろやりながら結果を議論して目標値を決めるというのは、初めての試みとしては大変意味があったと思うのですが、今申し上げたような重要な問題点を持っていました。そのことが極めて率直に言えば、何らかの形で正確に判断するためのモデル分析というよりは、最初から出来たら低い目標にしたかったのではないでしょうか?その為にモデル分析が使われたようなところがあるように思われました。でも、私が座長を引き受けた理由は、今のようなことをする為ではありません。今のようなことは出来たらやりたくなかったわけでありますが、それが1つの依頼事項でありました。
それと、もう1つの依頼事項というのがありましたので私は引き受けました。もう1つの依頼事項というのは、25%というのは負担になる部分だけではないのではないか?新しい市場を作り出したり、新しい産業とかイノベーションとか、こういう側面を作り出せるのではないか?これは私の考えと合致していましたので引き受けました。もし、国民負担の部分の再計算だけをしろというのであれば引き受けませんでした。それは、あまりにも後ろ向きの議論だなあと思いましたのでね。ご存じのように、いいかどうか、本当にそうなるかどうかは別として、今の政権の成長戦略というのが新しく出来て来ておりますが、環境が1番な位に位置づけられているのですね。これが1つの特徴でありますし、今までに無かったことであります。環境に取り組むことは負担なんだとずっと言われて来ました。それをちょっと違う角度から考えるということです。私はある程度、新市場・新産業・イノベーションというのは一理あるように思います。例えば、自然エネルギーは新しい産業になるのではないでしょうか?確かにもう世界ではかなり大きな市場になっています。そういうところから新しいイノベーションの方向が出てくるのではないでしょうか。出来るだけ低炭素、そういうものになって行くのではないでしょうかね。この問題は後でちょっと考えたいと思います。
ただ25%削減というのは国内問題の面と国際問題の面とありまして、本当は両方の全般的に議論しなければいけないのですが、よくこの25%削減の話になりますと、「国内でどのくらい?」「真水でどのくらいや?」「海外でどのくらい買って来るんや?」と早くからこういう質問とか、タスクフォースの中でもこういう意見がかなり強く出るのですね。海外から買って来ると、確かに安い時がありますからね。でも、ご存じのように現政権が言っている25%削減は条件付きではありますが、国内削減で何%、海外で何%とかいうような議論はしてないわけですね。主要な排出国が意欲的な削減目標を立てるということを前提にして25%削減をやりますと言っているわけです。
ですから若干大きな話をしますと、やっぱり温暖化防止は国際的に協力できる社会を作らないといけないのですね。喧嘩をしている国際社会では温暖化防止は出来ません。平和な社会で、みんなで協力して削減しようということでないと出来ないでしょう。でも削減に伴ったいろんな負担の部分だとかいうことが議論になるとなかなか強調出来ないというのが現実です。ですから、どうしたら国際協調への道を切り開くことが出来るかというのが今世紀最大のテーマだと私は思います。いくつか言われていることがありまして、私の専門にしている環境経済学の分野では3つ位取組み方を考えていかなければいけないと言われています。今日の話と多少関係しますのは、1つはやっぱり低炭素にして行くとか、化石燃料ではない自然エネルギーで発電をするとかが簡単に出来るようになったら進み易いですね。今は凄く大変そうに言うので国際協定が難しいわけですね。中国やインドにしても「お金もないし技術もないのに、どうやってやるんや!」とこういう事なんですが、「いや凄く簡単に出来ます。」とこういうふうになれば、「それならやりましょうか。」となる可能性は高まりますね。ですからもっと費用対効果のいい、ちょっとの費用で凄く効果のある方法とか技術をもっと開発して行くことが出来れば協調への道が開けますね。大事です。私は日本はそういうことをやって行くべきだと思いますね。もっと簡単にできる方法を増やして行くわけですね。これが出来れば、世界的にやり易くなりますね。やや極端に言いますと、石炭火力よりずっと安く発電できるとすればみんなやるのではないですか?そういう事ですね。今は逆だからなかなか難しいと言っているわけでしょ?中国は石炭火力の方が安いと言っているわけですよね。それにも関わらず自然エネルギーを入れろというから難しいと言っているわけだから、逆になれば全然難しくなくなります。ですから、そういう意味での費用対効果のいい方法を考えて行ったらいいわけです。もう1つは今よく取り込まれてる方法ですが、COP15でもそういう議論ですね。よく途上国からの資金と技術という議論ですね。だから南北問題の解決とも合わせて、資金と技術とを移転する。先進国から途上国へトランスファー、そういう枠組みが出来れば協調し易いだろうと言っているわけです。だから、鳩山イニシアティブとかいって凄い金額を出すという話をしているわけです。これも1つの方法です。
もう1つよく言われていますのが、イシュー・リンケージとか言ったりするのですが、温暖化防止の問題、温室効果ガス削減の問題をその問題だけでやっているとなかなか進まない。だから他のイシューとも一緒にやる。例えば分り易いのは、インドとか中国とか典型的ですが、国内の汚染問題がたくさんあるわけですよね。CO2の問題より、現時点ではそっちの方が優先しているわけですよね。そういう問題に取り組むことで一緒にCO2も削減する。別の問題のようにしない。あるいは貧困削減とこの問題を一緒にやりましょう。だから温暖化防止だけで議論すると議論が狭くなってしまうということですね。そういうやり方もあると思います。今の3つのやり方は全然排他的ではありませんので、全部進めればいいのですね。そういうふうにして国際協調への道を切り開くということは、私はとても大事だと思います。今日はそっちの話はしません。主として国内的な問題ですね。そちらの方に力を入れてお話したいと思います。
環境経済戦略の基本理念
先ほど私が、新市場・新産業・イノベーションというような、これは新政権が温暖化問題・気候変動に対する、25%削減に対する位置づけ方なんですが、私は賛成です。だから引き受けたと申し上げましたが、これは私が前から提唱している地球温暖化防止への環境経済戦略と言うようなことの基本理念ということです。地球温暖化防止というのは、僕は新しい未来社会を作る課題だと、こういうふうに位置づけています。非常に希望を持った課題だと位置づけるということですね。何故かということでありますが、私はこういうことをはっきりと自覚したのはちょうど安倍首相の時でしたか、日本から提案した「美しい星50」というのがあったのを覚えておられますか?「クールアース50」というのを安倍さんは提唱したのです。国内的にはあんまり評価されませんでした。どういう提案だったかと言いますと、50ですから2050年までに世界全体で50%削減するという、この50%というのには意味がありますよ。科学的知見のIPCCの議論に合致していますので意味があるのですが、ただ世界全体で50%ですから、日本が何%かひとつも言いませんでしたので、日本が積極的にやりますという話では全然ないのです。世界全体で50%と非常にアバウトで、且ついつからともいうのも言いません。誤魔化してるわけですね。何年基準とも言わないですから全然評価されませんでした。しかし、私はその時よく考えてみましたが、大変なことだなあと思ったのです。今、先進国と途上国とに分けるとしますよ。こういう分け方自体だんだん変わって来ていまして、新興国というふうな言い方もかなりされるようになりましたし、G7ではなくてG20ですし、単純な分け方は難しくなって来ていると思いますが、一応分けるとしますね。そうすると中国とかインドは全部途上国に入ります。そうすると人口規模は圧倒的に途上国の方が多くなりますが、温室効果ガスの排出量はちょうど先進国50、途上国50なんですね。アメリカと中国が一緒ぐらいでしょ。人口規模は全然違いますが、アメリカ人は1人でたぶんインドの人の17、8人分を出している。日本もエネルギー効果がいいとか言っていますが、温室効果ガスの排出量で言えば、やっぱりインドの7,8倍は出しているのではないでしょうか。7,8人分を1人で出しているということになります。ですから、先進国、途上国50:50で、人口規模から言えば途上国は圧倒的に多いけれども、排出量は先進国の1人当たりの排出量はかなり多いですから、ちょうど50:50になります。安倍さんの提案は2050年までに50:50のところを50にしなければいけないのです。今から2050年に向けて中国やインドの排出量が減ると思う方いますか?増えるのではないでしょうかね。国際間の予測もほとんど増える予測です。私も中国に行く機会が物凄く増えていますが、昨年の1月に西安、京都がモデルにした昔の長安から30キロぐらいの農村へ行きました。ここは水道が来ていません。しかも当面の目標が「水を汲みに行くのを20分ぐらいで行けるようにしたい」なんです。大変でしょう。電気の無い暮らしをしている人は、たぶん中国の国内にまだ2千万人以上いると思います。ですから中国は凄い格差社会になっておりまして、北京や上海へ行っているのと、今申し上げました内陸に行っているのとでは全然違う中国ですね。しかし、何らかの意味で電気のある暮らしをとか、それはミニマムだと思いますが、そういうことを考えると増えるのではないでしょうかね。しかし増えてもらうと困るという立場からすると、ここからは大変な努力ですが、中国やインドの皆さんにも努力していただいて、国際社会も協力しなければいけませんね。協力して増やさないけれども暮らしが良くなると、温室効果ガスの排出が増えないけれども暮らしが良くなるということをしていかなければいけませんね。これを世界的なローカーボンデベラップメントと言って低炭素型の発展をする。日本とかアメリカとかヨーロッパは全部1度高炭素になっているのです。物凄い排出量になって、それを今減らそうとして低炭素社会へとこうやっているのです。でも、中国が全部こうなってからでは困るでしょ。もう温暖化防止は出来ません。これは考えていただいたらすぐに分かりますが、日本で車が7900万台くらい走っていますが、1億2700万人ですね。同じくらいの人口比率で中国では8億台ですね。8億台というのは、今世界全体の車の台数です。ですから中国が日本並みになるにはまだちょっと時間がかかりますよ。GDPが一緒になったと言って勘違いしたらだめだと思いますが、1人当りは10分の1ということですね。これから1人当たりで見ても同じ水準に行くまでには、まだだいぶ時間がかかります。8億台が全部今のようなガソリン車だったらどうしようもないですよ。ですから車も変わってもらわないといけないのですが、でもそんな感じなんですね。例えば豚ですが、中国は豚が好きなんですね。中国に豚は5億頭います。世界全体で10億頭。半分は中国になる。これは糞尿が物凄いメタンの源泉なんです。温室効果に物凄く利いているわけです。ですからヨーロッパの環境NGOはそういうのを集めてメタンを回収する。回収して、調理とか温水に使う、こういうプロジェクトに凄い資金援助をしている。さすがですね。ですから中国が1度高炭素になりましたというのでは困るわけです。低炭素のままで生活を良くするということを考えて行かなくてはならない。これは中国だけの責任ではないというふうに私は思いますが、もちろん中国の責任も大きいと思いますがね。簡単ではないと思うのですが、奇跡的にもこれが実現出来たとします。2050年中国やインドなどの発展途上と言われている国々の温室効果ガスの排出が増えないままで生活が良くなったと、貧困がぐっと減るということですから素晴らしいことですね。その時に先進国がどのくらい削減しないといけないか。現時点で50:50でしょ。2050年までに50に削減しなければいけない。途上国は人口もたぶん増えるでしょうけれども、低炭素発展で増えないままで行くと、そうすれば先進国は0にしなければいけない。50にする為には0にしなければいけない。そうですね。ですから先ほどもご報告がありましたように、2050年で先進国は最低80%ぐらい、日本の低炭素社会づくり行動計画では60~80と言っているのですが、先進国全体で80%はというのは大体の合意になりつつあるのです。そのくらいは当然やらないといけないわけです。ですから、これは私に言わせれば、政府もよく低炭素革命とか言っていますが、考えてみますと化石燃料を本格的に使い出したのは産業革命でしょ?石炭と鉄道で始まっているわけです。ですから、これは逆産業革命ですね。完全にこれは革命です。後世で見ると、革命という表現になるのではないですかね。私は文明史的転換という用語を使っていますが、工業文明みたいなものが、物質文明の限界みたいなところも見えているわけで、そういう側面もあるわけです。ですから私たちは今よく見えていないのですが、そういう新しい未来社会を作るということですね。今のままの状態で少し削減しましょうとはちょっと違うのです。これは後でもお話しますが25%では中期目標として言っていますが、これは80%削減の位置ですからね。25%削減したら終わるのではないのです。2050年までには80%減らさなくてはいけない。そういう新しい未来社会を作る挑戦的な課題として位置づけて、当然新市場・新産業・イノベーションが無かったら出来ませんので、低炭素型の技術だとか、町づくりとか、ライフスタイルとか、ビジネスのやり方とかすべてが変わるわけですので、それに日本が先導的にどういう技術で行きましょうみたいなことについて創出して行くことに日本の役割があるのではないでしょうかと思うわけです。何故かというと、そういうことをするのには今までの技術的蓄積や人的能力のあるところでないと出来ませんよ。全くそんなことを考えてもないようなところで突然そんな技術が出てくるわけではありません。こういうふうに低炭素に向けて市民が勉強するということをやっていないとだめでしょう。新しい発展パターンを作り出すようなものですね。
その為には中長期に明確で意欲的な削減目標が必要なわけです。これは何故かというと、明確になっていなければ確実ではないわけです。企業にしてみれば投資が本当に削減していいのかどうか分からないというのは技術開発にとって非常に悪いですね。方向がはっきりしているのはよし頑張ろうとなり易いですね。有名な例では自動車の排ガス規制です。排ガス規制をはっきりさせたら日本の自動車業界の開発力がぐっと引き出された。これは非常に面白いストーリーがいっぱいあります。そういうふうな新しいものが出てくるわけですから、実は競争力も高まるのですね。国民負担の議論は競争力にネガティブなことばっかりするんです。それは、部分的にはそういう業種もあります。業種間で言えば、そういう低炭素にするというのは 高炭素でやっているところは物凄く大変ですからね。しかし新しいチャンスが別の意味でたくさん出てくるのも事実ではありませんか。私は「未来産業」という用語を使っています。産業と言うと、今あるものしか目に見えない。でも未来に出てくる産業があるわけですよ。IT産業と言うのは戦後直後にありましたでしょうか?そんなもん無かったでしょ。もう今は中心中の中心ですよ。学生が就職したいという業種はずっと変わって行っていますよ。敏感ですからね。どういう職業が将来性があるかとずっと考えているわけですよね。有名なシェルという石油会社がありますが、あそこは風力に物凄く投資しているわけです。そのうちシェルと言ったら風力産業やということになるかもしれません。だから企業は当然でしょう。石油で儲けたら、次儲かるものでまた儲けるわけです。石油にしがみ付いていたら無くなりますよ。それが企業の能動的ないいところではありませんか。ですから、我々も未来産業を作るつもりで考えなければいけません。確かに今の産業の一部の人は大変だと言うと思います。しかし個別の産業の話で、日本社会全体でどうかということを我々はまず考えなければなりません。そうすると新しい産業を創出するということは大変重要なことではないでしょうか。いつまでも石炭火力ばっかりでやるというわけにはいかないと私は思います。もちろん石炭を使いながら新しい技術で能率的にやるというのもあるかもしれませんが、とにかく今のままではだめです。
それから最後にその事も含めまして、温暖化防止の取り組みが日本の他のいろんな社会経済問題、日本の問題は当然ですが温暖化防止問題だけではありません。雇用問題は極めて深刻であります。或いは中山間地域の地域経済問題、これこそ深刻であります。あるいは地方都市も大変深刻であります。こういうものを全体として解決する方向で取り組まないといけないですね。ですから温暖化防止への取り組みというのが日本の社会経済問題の解決にも寄与する。新しい産業が出て来て雇用が出て来て、地方経済が豊かになるというようなことに出来るだけ繋がる方がいいですよね。そういうふうに考えていく必要があるわけです。ですから経済モデルの分析は日本全体でやっておりますが、緻密な政策をやる為には今申し上げましたような細かい分析が必要です。それに基づいた取り組みが必要だということで、逆に言えば地域から取り組んでみないといけないということです。
環境経済戦略の推進方策
今のような基本理念に基づいて推進方策というのを考える必要があるのですが、一応私は以下のようなことを申し上げています。
日本の経済を低炭素型に構造改革をしなければいけないのですね。今は高炭素型ですので低炭素型に作りかえないといけない。作り変える為にはいくつかのことをしなければならないというふうに思っています。1つはよく議論になる炭素に価格を付けるという話しでありまして、これは環境税、現政府の用語は地球温暖化対策税というものであります。これは物凄い議論があるのですが、私は一応それは導入するべきだという立場であります。2つの点からですが、低炭素へ向けての動機づけを与えるという点と公正な費用負担が必要だという点で、つまり温室効果ガスを排出するところが負担をしないといけないということで、温室効果ガスを削減するところが負担するのはおかしい。削減することは評価されるべきだということです。何故かというと、排出しているから今もいろんな被害を起こしているし将来にも大きな被害を起こすわけでしょ。ですから現在の排出は、実は社会に費用をもたらすのですが、その費用が負担されていないわけです。それが問題なわけです。現在の不況の中で、何故雇用がカットされるのか?それは人件費が高いと思っているからです。CO2排出は高いという意識が無いわけです。ですからCO2を削減しないわけですね。なんで人を雇ってCO2を削減しないのですか。今求められているのはそれでしょ。人を雇ってCO2を削減する。そういうことが求められていると思います。そういう意味で私はやはり炭素に価格を付ける必要があるのではないかと思っています。
もう1点はグリーン・ニューディールということで、これは低炭素型社会の基盤を整備するようなものだと思います。これは価格を付けるだけでは動かないことを基盤を変えることで動かして行くということが必要だと、これはオバマさんが政権公約で「クリーンエネルギーに10年間で1500億ドル投資して500万人の雇用を生む」というので大変有名になったのですが、大事なポイントかと思います。今後も重要になって来るテーマだと思います。それから、そういう市場と社会基盤を作り変えた上で、つまり炭素に価格を付けるというのは市場を変えるということです。グリーン・ニュディールというのは社会基盤を変えるということです。この2つを作り変えた上で、物づくりや街づくりのやり方を変える必要があるわけです。これは後で時間があればちょっと詳しくお話しをしたいと思いますが、こういうことを推進していくためには一種の結論的なことですが、産業や地域が創造的でないといけない。つまり新しい未来社会を作る話なので、今あることをそのままやっているのと違う話なんですね。ですから世の中の雰囲気も新しく取り組んでみようみたいな雰囲気が出てこないといけない。これは企業もそうですね。これは有名な自動車排ガス規制の時ですね。ある企業が取り組むのですが、今はトヨタ・ホンダ・日産と言ったら世界の大企業ですが、当時70年代の半ばくらいはまだ中小企業でした。アメリカではほとんど走っていません。ゼロに近いです。今は走り過ぎて問題になっているんですね。その当時は日本国内だけの企業でした。その排ガス規制が来た時に、なかなか簡単にはいかないので厳しい規制をしたら、ある非常に有名な銀行の調査部のレポートというのがあるのですが、「そういう環境規制をしたら何万人のGDPが落ちて、何万人の失業者が出て大変になる」と書いてある。というのは自動車というのは裾野が広いでしょ。部品がたくさんありますから、自動車産業が影響を受けたらみんなが影響を受ける。ということで、こんな規制はしてはいけないというキャンペーンみたいなのが行われたわけです。アメリカでもほぼ同じ報告書が出てるのですね。ところが日本の自動車業界はその当時は大変競争的なこともあって、あんまり大きくなかったから良かったのかもしれません。大きくなると官僚的になりますね。まだ小さかったので、ある企業は経営者の判断が実に重要だと思いましたが、従業員が排ガス規制をどうしてやろうかと、普通は環境技術は生産技術があって端っこの方でやるみたいな、環境技術は付け足しの技術みたいなもので、そういうふうにやっていたらなかなか上手くいかないのですね。経営者が「もうそれを全部やめろ」と一切全部止めさせたのですね。そもそも排ガスの出ないエンジンをということで、排ガスが出ることを前提にやっているのと、エンジンそのものを排ガスの出ないものにするということとはテーマが全然違うのです。こういうふうに技術者に課題を与えるわけですね。大変になるのですが、技術者も一種の生きがいを感じます。企業なのに技術者の集まったところに「子どもたちに青い空を」とかいうスローガンを出す。とても面白いですね。そういうスローガンを掲げて、日夜奮闘するんです。これが難しいと言われた日本版マスキー法を突破するんですね。これは製品の質が良くなった。私はその当時やってた人たち何人かにヒアリングしました。70年代にヒアリングしたのではなくて、2000年代近くになってからですが、これはアイアン・コッカというクライスラーの会長だった人が「日本の車がアメリカで本格的に売れるようになった1つの契機なんです。」ということなんです。やっぱり温暖化防止に取り組むにはそういう新しいものを作り出そうとする、しかも温暖化防止に役立つ新しいものを作り出そうとする意欲や技術者に溢れなければいけないのです。あるいはそういう研究をしようというふうにならなければいけない。そういう雰囲気が出ないといけないですね。街づくりもそういう面があると思うのです。これは分権が大事だと私は思っているのです。つまり、いろんな地域が自分たちの事情に合わせて取り組むというような、そういう取り組みがあると良いものが出てくる可能性が高まります。日本で国が1つだけでやるということでしたら、それが上手くいかなかったら全部上手くいかない。やや言い方が変かもしれませんが、首長さんがやっぱり熱心で、あと引っ張る3人の優秀な職員がいて、あと熱心な市民がいれば必ず動きます。これは3つ揃わないといけないですよ。3人一生懸命やる人がいても首長さんがやるなと言えばどうしようもなくなりますね。首長がやろうと言っても実際に動かす人が3人はいないとだめです。それで市民が全然一緒にやりましょうとならなかったら、これも全然動き出しません。この条件が揃えば可能性があるわけで、大きな大都市みたいなところは大変ですよ。それで、どこかで成功すると普及しやすいでしょ。ですから、いろんなところが実験しないといけない。創造性は実験から生まれるのです。どういう実験をしようかと討議をするというのが大事だとそういうふうにも思うのですね。ですから、実は温暖化防止25%削減はどうやったら実現出来るか。先ほど言ったように炭素に価格も付けないといけないし、グリーン・ニューディールもやらないといけないから、政策は大事です。しかし、同時に足元から創造性のある企業や地域が出てこないことにはこれは動かないです。というのは、発生源はすべて地域にあるのです。雲の上にあるわけではなく、発生源はどこかにあるわけです。その地域が削減しないとだめなんですね。どこかで80%削減を早く達成するところが出てこないといけないのです。2050年にはやるわけでしょ。ですから、皆さんのお住まいのところで是非やっていただきたい。それが出てきたら、タスクフォースも簡単です。「あそこでこんな削減が出来ているのだから、ちょっと勉強しましょう。」とやり易いでしょうね。どこも出来てないと言ったら物凄く難しくなるではないですか。
地球温暖化防止とエネルギー
それで、少し初歩的なことをお話します。温暖化防止はエネルギーの問題と非常に関係があります。と言いますか、エネルギー問題そのものですね。エネルギー問題がなぜ重要かと言いますと、もちろん温室ガスを発生する源の中心だからなんですが、同時にエネルギーは絶対にいるのです。地域や産業を発展させようと思ったらエネルギーなしでは出来ないのです。ですから、産業革命もエネルギーと交通なんです。エネルギーと交通というのは地域産業解決に不可欠なものです。不要なものだったら止めたら簡単なんですね。絶対にいるからなかなか知恵が必要なんです。但し、エネルギー需要は派生需要なんです。皆さんの中にエネルギーを使いたいという人は普通はいらっしゃらない。例えば、工場で何かを生産するためにはエネルギーが必要なのです。派生というのはそういう意味です。何かをするために必要なんだということです。ですから同じことが出来るなら、エネルギーが5分の1で出来たら有難いわけです。困らないわけでしょ。エネルギーを使うことが目的だったら5分の1しか使えなかったら困るわけですが、目的は物を作るということですから5分の1のエネルギーで同じものが出来たらとても有難いわけです。だから私はライフスタイルの転換だとかは必要だとは思いますが、極端に言うと、今のままのライフスタイル全くそのままで、今10のエネルギーでやっているやつを7.5にすれば25%削減達成ということになります。CASAの分析もかなり省エネルギーの余地があるという分析結果のようですが、かなりあるかもしれませんね。それは追及するべきでしょう。多少投資しなければいけないかもしれませんが、何にも困らないのですから、特に省エネの場合は戻りますからね。10使っていたのが7.5になるということは電気代やガス代が7.5で済むということですよね。
もう1つ大変重要だと思うのはエネルギー消費は皆さん自身がエネルギー消費しているわけではないのですよ。エネルギーの消費は使用機器を通じて消費しているのです。ですから何処かへ行く時、本当のエネルギーを使いたかったら走って行けばいいのです。本当のエネルギーというのは自分のエネルギーです。でも遠いと車を使うのではないですか。車はエネルギー使用機器ですね。家電製品もエネルギー使用機器なんです。本当は食べ物を保存しておきたいというのが目的で冷蔵庫というエネルギー使用機器を使って保存しているだけなんです。私たちはエネルギーをたくさん使っているのですが、人間生命体として直接使っているのではなくて、今のような生活様式の中でエネルギー使用機器を通じて使っているわけです。ですから、このエネルギー使用機器を変えたらかなり変わる可能性があります。エネルギー使用機器は差し当たり分かりやすいのが車とか家電製品でエコポイントとか言って政府も一生懸命やっていますね。しかし、この建物も、住宅もエネルギー使用機器なんですよ。ですからエネルギー使用機器というのはかなりストックとなっているものなんです。相対的に車とか家電製品はどちらかというと買い替えがかなり短い期間であるものなんです。住宅を3年で変えましょうとはなかなかならない。もっと長いわけですね。ストックになっているものがかなりあります。ですからストックになっているエネルギー使用機器を改善しなければならない。もちろん新しく出来てくるようなものは出来るだけ温室効果ガスが出ないような素材で作るとか、そういうことを組み入れた低炭素型の技術というものにして行かないといけないのですが、ストックになっているエネルギー使用機器の方はたぶん多くのものが高炭素型なんです。これをすぐ壊して次にといかないものがあるので、それをどうやって改善するかというのがとても大事です。これはこれから緻密に考えて行かなくてはいけません。中小企業の工場なんかもこういうストックの1つですね。エネルギーを大量に使用する工場があります。しかしすぐに作り変えるというのは簡単には行きません。しかも重要な問題は、住宅とか中小企業とかは1つ1つの単位が小さいわけですね。あるいは中小企業のおじさんにしてみれば、そんな事を考えている暇がないわけです。省エネ担当なんかいないわけでしょ?大企業なら地球環境対策室なんかそういうのを持ってますよ。だけど中小はそういうわけにはいかない。そうすると、そういうストックを診断して的確な処方箋を誰が提示してくれるのか。これはとても大事なことです。もちろん中小企業のおじさんにもやる気になってもらわないといけないのですが、なかなか簡単ではないでしょうね。僕は自治体なんかが的確なサポートをしてもいいと思いますね。工場診断をどんどんして行って公開制にして「電気代とかがこれだけ節約出来るから良くなります。」そう言われたら投資しようかなという気になりますよね。そこまで診断しないといけない。住宅についてもそうですね。
今はだいぶいろんな形で技術的にも良くなって来ていまして、例えば17、8年前にあるホテルの支配人の方が面白いことをやっておりまして、それはホテルというのは明るくないといけないみたいなところがあって結構使っていない部屋でも電気が点いているのですね。今は自動で制御していますが、昔はそうだったのです。なかなか面白いと思ったのは、1人学生のバイトを雇って1時間ごとに全館を回らせるわけです。使ってなかったら必ず消せということで、これは物凄い節約になるわけです。今は、例えばエアコンなんかを点けてもエアコンのコントロールをするようなソフトみたいなものを一緒にセットでやるようなところも出ておりますし、あるいはハウスメーカーなんかも一生懸命、家の単位で何と言いますか見える化を図って削減出来るようにというような動きも出ております。そういうのを考えて行かなければいけないのではないでしょうか。ですからフローをコントロールすることとストックを改善する、その両方をやらないといけないですね。
イノベーション
私はイノベーションが必要だと思うのですが、ここでもうすでにお話しをしました、美しい星50の提案も話しましたし、文明史的転換も話しました。25%削減をどうするかという議論をしていますが、これは何回も言いますように80%削減の一里塚であります。低炭素へ向けてどんどん雰囲気を作って行きましょう。新しい技術を作りましょうとか新しいやり方があるのではないかとか。何かわくわくして来ますね。そういうやり方をしないといけないと思いました。
イノベーションという用語はシュンペーターという20世紀の歴史上4大経済学者が作り出しました。ところが日本の1956年の経済白書で技術革新と訳したのです。これは一面でとても的確な訳なのですが、必ずしも正確ではありません。シュンペーターという人の言ったイノベーションは単に技術だけの問題ではありません。もちろん技術革新も含んでいるのですが、販売の形態を変えるとか、様々なスタイルを変えるというのを全部含んでいるのです。だから単に技術だけではないのです。制度や政策や社会を作り変えるみたいなそういうことが一種のイノベーションです。ですから今はソーシャル・イノベーションと言って単に技術だけでないイノベーションの議論が出て来ています。それで私は一応環境経済戦略というのを先ほど申し上げたのですが、環境技術戦略もいるし政治も社会も作り変えないといけないしでしょ。ですから環境技術戦略もいるし環境政治戦略もいるし環境社会戦略もいるわけです。政治も経済も社会も技術も変わらないといけないということですね。たぶん連動するんだと思います。関係を持ちながら変化していくのではないでしょうか。
先ほど言ったようなことで、私は中山間地域と呼ばれるような地域で日本の農業や林業が再生するとかいうことが大変重要なテーマです。これは森林なんかを考えていただいたら分かるように、昔林業が成り立っていた頃は間伐なんかも行われていたのですが、これが成り立たなくなっているということなんですが、この森林が改めて吸収源という面もあります。あるいはスエーデンのベクショーという町は化石燃料ゼロの町と言われているわけですが、これは森林をバイオマスとして使って、バイオマス発電でやっているのです。これも1つのやり方です。つまり中山間地域はいろんな取り組み方が出来るだろうと思います。ですから都市は排出してばかりなのでそれを支援すべきでしょうね。新しい自然エネルギー源をそういう地域に求めるということも必要だというように思ったりもしています。いろんな意味のイノベーションが必要だと思っております。
環境と経済を考える
そういうふうに進めて行きますと、これは最初の話そのものであるのですが、環境と経済というようなものについてトレードオフ、つまりこちらを立てればあちらが立たないというような関係ではないのではないかというふうに思います。トレードオフとは二律背反と言うのですね。よく言われると思いますが、景気回復を計ろうとすると産業活動が活発になって環境負荷が増えます。環境負荷を減らそうとすると産業活動が停滞して来るので成長率が落ちて失業が出る。こういう関係にあるんだとずっと言われて来ました。私がこの問題に関心を持ったのが、温暖化問題で考えていただきましたら、今回は日本が高い削減目標を出しましたが、国際交渉の時に常にこれまでずっとEUが一番高い削減目標を出して議論をリードするみたいになりました。何故ああいう目標を出すのですか?これは、勿論政治の決定が違うという議論がありまして、政治目標をぼんと出すというのも一理ある議論だとは思いますが、経済的に私は今から言うような議論だと思います。いろいろ文献を調べて行きますと出てくるのですが、切り離し戦略・デカップリングと言います。カップリングとは連動するということになると思うのですが、つまり経済発展すると必ず環境負荷が増えるというのが連動です。これになっている限りCO2を減らそうと思えば成長率を落とさないといけない。これしか出てこないのです。これを切り離そうというのです。EUの持続可能の発展戦略の中に明確に書いてあるのです。つまり、経済的には発展するけれども環境負荷CO2は減るということですね。これを実現するというのが背景にあります。考え方はみんな賛成だと思います。経済的に発展するけれどもCO2は減るというのが実現出来たらいいですよね。
問題はどうやってやるかということですが、私は調べた限りでは大きく2通りの考え方があると思います。やっぱり1つは技術革新です。技術を変えていく。同じものを作るのなら出来るだけ物質を使わないようにしよう。脱物質化論です。これは意味が有りますね。だから新しい資源生産性とか環境効率に要望が出てきました。今まで我々は労働性生産性ばっかり言っていました。1人雇うと高いですから、どれだけ成果がでるのか言われます。でも、非常に貴重な資源を使っているのですね。CO2を1単位出すのは余程意味のあるものが作られるのですね。そういうこと発見をさせられるという話ですね。これに類したものはいろいろ考え方が有ります。でも私が非常に感心したのは、技術革新をするという方が分かりやすいですね。もう1つの方が1983年に「環境破壊なき雇用」というタイトルの論文が出てるのです。ビンズヴァンガーという先生が書いたのですが、3年ぐらい前にお会いしました。このタイトルは今日本に必要なタイトルでしょ?CO2を減らしながら雇用を増やすということですよね。今、大阪の高校生なんかは本当に就職が無いですよ。若い人たちに働く場が必要ですが、だからと言ってCO2が増えたら困りますよね。CO2を減らしながらそういう雇用を増やす、これが1983年にもう出てるわけです。僕は自分の不勉強を非常に恥ましたね。これには理由があるのですね。旧西ドイツですので1980年に緑の党という政党が出来まして、エコロジー運動が盛んになるのです。ビンズヴァンガー先生にお聞きすると、エコロジー運動が強くなるのですが、それなりにその考えには共鳴もするのですが、自分の卒業生の5人のうち2人が職場がないんです。それがいいとは言えないですね。そこからが重要なんですが、トレードオフという考え方は環境を大事にすると雇用が減るわけですから、普通はどうしてもどこか妥協点を探らないといけないということになるわけです。でもビンズヴァンガー先生は両方大事なので社会や経済の仕組みを変えることで両方を実現する。これは大事ですよね。今の社会や経済の仕組みをそのままにして何とかしようと思ってもなかなか難しいので、社会や経済の仕組みを変えるということです。この場合は税制改革です。言わば環境税みたいなものを大きくして、環境税を入れますので環境負荷を減らす動機を与えることになります。同時に税収が上がるので、それで雇用促進をする。これは主としてヨーロッパの場合は事業者の社会保険料の負担が大きいのでそれを削減することに使うということです。税制改革で環境破壊なき雇用を実現しようというやり方であります。
ですから大きくは技術を良くすることでトレードオフを克服しようということと、社会や経済の仕組みを良くすることでトレードオフを克服しようということです。全然矛盾するものではありませんから、もちろん両方ともやればいいのですね。つまり25%削減を実現させて行く為には、やっぱり技術を良くすることも大事ですが、同時に社会や経済の仕組みを変えてより環境保全型の内需が出て来るような構造改革が必要ではないかと思われます。
地域からのエネルギー管理
これはとても面白い問題だと思うのですが、私がこの地域からのエネルギー管理に凄く関心を持った理由はいくつかあります。1つは中国の湖南省の常徳のすぐ何十キロかの農村にヨーロッパのNGOが豚の養豚で出るメタンを集めて温水や調理に使うというプロジェクトに資金援助をしているということで行った時に、大変面白い事に気が付きました。その村にエネルギーエネルギー弁公室というのがありまして、エネルギー課ということになるのですかね。エネルギー担当の課長さんみたいな王さんという方がいらっしゃいまして、いろいろ案内してくれました。王さんと話をすると王さんは全く地球温暖化防止には関心がありませんでした。全く無関心。「何の話やそれは」みたいな。だって中国の農村ですよ。エネルギーと言ったら薪とか練炭ですよ。だから、何故王さんがメタン発酵を回収してというふうに興味を持ったかというと、薪や練炭なら有害なガスが出で健康を害したり、真黒になったりするので、村役場のエネルギー担当ですから何とかそれを改善したかったのですね。もっとも身近なエネルギー源は豚の糞尿だというのを聞きつけて、小さな装置を導入して、集めて発酵させて家で使えるようにしたら農家から物凄く喜ばれたわけです。でもこれは温暖化防止なんですね。今まで出てたメタンガスを全部集めて調理などに使うことになるので、全然変わってしまうわけです。温暖化係数は桁違いですよね。先ほど言ったように中国には5億頭の豚がいますので物凄い量ですよね。でも王さんは農民の生活改善のためにやっているのですが、それが見事に合致したわけです。
それで、よく考えてみたら日本の町や村や市にエネルギー課というのは無いなと思いました。ゴミ減量対策室というのは有ります。だから、やたらゴミ分別は熱心です。勿論循環型社会は大事なことです。でもそれに比べると低炭素型社会づくりはあまりにも遅れていませんか?物凄いアンバランスです。循環型社会づくりについてもまだやるべき課題があると言われれば私もそう思いますが、しかし地域からの温暖化防止はやはりやって行かなければなりません。ところが実際それを担当しているところすらないのです。何故かというと、エネルギーの問題は自治体の仕事になっていないのです。ゴミは自治体の固有の事務なんです。ですから法律が変わったら必ずやらなければいけない。固有の事務となっているので住民といろんなやり方をして行ってるわけです。日本はエネルギー問題を国策でしかやっていないのです。エネルギー安全保障の観点は大事ですよ。しかし、だんだん風力や自然エネルギーは典型的ですが、小規模分散型の技術になっているのです。ですから電力と言ったら、皆さんは関電が送って来るものと思っているわけです。これが間違いなんです。
ある本に「デンマークへ行くと、農民が3人寄ると発電所を作ろうかと相談する。」と書いてありました。本当か?と思いましたが、本当でした。これはとっても面白い取り組みだと思ったのですが、1990年の時はほとんど0なんですが、今は電力の20%ぐらいが風力です。これは自然エネルギーに大変熱心というふうに思うかもしれませんが、確かに政策的には熱心なんですが、農民の立場は全然そうではないと思います。政策のために頑張ってやりましょう、温暖化防止だからやりましょう・・・そうではないと思います。勿論そういうふうに思っている方も結構いらっしゃると思いますが、一番重要な点は副業なんです。農家の副業です。農業所得だけでは食べていけないというのは全世界の先進国のかなり共通のものです。でも、それにプラスアルファーしたものになるのです。それは高く買い取ってくれるからです。だから風力発電に投資するのです。3件集まって風力発電に投資したら買い取ってくれるから元が取れるわけです。そうでないと投資しないでしょ。だから農業外所得の一部になっているわけです。ですから農山村の地域にある自然エネルギーというボテンシャルを引き出す仕組みを上手く作ったので、そういう投資活動が生まれているのですね。これはとっても面白い取り組みだと思いました。
地域から温暖化防止というのは、足もとから取り組めるようにエネルギー政策を変えないといけないのではないでしょうか。そういうところにも視野を持って取り組まないと本当の25%削減への取り組みにはなかなかならないと思っています。ですから一応私は技術も変えないといけないし、いろんな取り組みもしないといけないわけですが、同時に仕組みも変えないといけなくて、それは勿論地球温暖化対策税とか買取制度とか、同時にエネルギー問題そのものを市民の身近なところに、市民が取り組むことの意味がある形にするということが不可欠ではないかというふうに思います。
持続可能な低炭素社会
そういうことで私はもう全部お話して来ましたが、地域から温暖化防止を進めていくということが25%削減というのには不可欠でありまして、その事が地域経済も豊かにする。未来産業を作り出したりして、エコロジーに適合した地域経済というのを豊かにする。昔は地域経済を豊かにしようと思ったら大工業地帯を作るというイメージだったのでしょうが、そうではなくかなり違ったイメージになると思います。そのためには、かなり創造性のある産業とか地域とかが必要になると申し上げたのですが、私はそれを担う人材づくりというのが最後にとても大事な話だと思います。やはり温暖化防止は勉強しながらやらないと出来ないのです。世界中のいろんな取り組みも知ったらいいでしょうし、いろんな学習する地域というのも求められます。私は担い手になるのは「地域公共人材」だと思っています。これは京都の方の大学の方が言ってるのですが、つまり意味は役所にいる自治体の人だけが公共を担っているのではなくて一般の市民、事業所にお勤めの方々も町を良くしようと思う人はみんな地域公共人材なのです。だから温暖化防止を担うのは、そういう地域経済を作ろうとする公共人材が増えないと出来ないというふうに思いますので、この地域公共人材というのを言っているわけです。そういうことで25%削減というのは日本経済の質みたいなものを大きく転換するということが不可欠だというふうに考えているわけです。はい、終わります。有難うございました。
京都大学大学院経済学研究科教授
地球温暖化防止に関する閣僚委員会タスクフォース座長
植田 和弘 氏
ご紹介いただきました植田です。この「25%削減と日本経済」ということでお話しをさせていただきたいと思っておりますが、ただこの問題はいろいろ広く関連する事柄がたいへん多いので、最後少しだけ質疑という時間をと思っておりますので、私が話さなかった事でも何かありましたら、ご質問・ご意見いただければと思います。
GHG25%削減をめぐる論点
ご紹介いただいたように私は25%削減のタクスフォースの座長というのをやらしていただいているというか、やれと言うことになりましてお引受けしたのですが、これは昨年の10月の半ばぐらいでございました。それはもうお分かりのように政権の交代があって、中期目標について国連総会の場で鳩山首相が25%削減ということを宣言したわけですね。この数値は前の政権が提示しておりました中期目標の数値とかなり違っておりました。前は8%でしたからね。8%と25%は大きく違うわけですね。実は25%削減というのも前の中期目標の検討委員会の選択肢には入っておりました。しかし、それは取られなかったわけですね。それで8%になっていました。
それで、何がタスクフォースへの依頼事項かという事でございますが、大きく言えば2つあったと理解しております。今も継続していますが、1つは前の8%ではなくて25%を選んだというか、それを宣言しているわけですので、なぜ8%ではだめかという問題がもちろんございます。それは非常に分かり易い話で、先ほど早川さんの方からお話があったと思いますが、科学的知見をベースにするとやっぱり先進国は25%削減を最低やらないとだめですね。25%~40%という数値の一番下の数値ですよ。先進国全体ということですので日本がとはならないかもしれませんが、日本もやっぱりこれぐらいやらないとだめでしょうということです。化学からの要請というのは鳩山首相が使った言葉で、化学からの要請というのも正しい一面だと私はそれなりに評価する数値の立て方だと思っております。しかし、なぜ前の政権が8%なんでしょう。中期目標検討委員会という検討委員会が作られて、そこには主要なモデル分析をするようにとライトという地球環境産業研究機構、それから国立環境研究所、エネルギー経済研究所とか慶応大学のモデルとかこういうのが全部動員されまして、ある宣伝文句には日本の最高の研究機関のモデル分析ですというふうになっておりました。その研究結果を踏まえてパブリックヒアリングもしまして、その結果8%を選んでいるわけですから、「なぜなんだ?」ということになります。ですから前の数字の計算結果が少しおかしかったのではないかと、こういうことも含めまして特に問題になりましたのは、これは実際にテレビやラジオなんかでもそういうふうに質問されたと思うのですが、特に25%削減は36万円負担になると、この数値を覚えておられる方はたくさんいらっしゃると思うのですが、25%削減は36万円負担しないといけない。「国民負担で1人36万円出せますか?」「こんなに負担出来ますか?」というのが1つの背景なんです。25%ではなくて、もっと負担の小さいものにしましょうという話になって行ったわけですね。25%削減に伴う国民負担の計算というのが果たして正しい数値が出たのかということを見直して欲しいというか検証して欲しい、出来たら再計算ということも含めまして検討してみて欲しいということでした。これが大きな1つの依頼事項でした。これは私はあんまりしたくありませんでした。同僚の研究者が間違っていたのではないかという事ですからね。でも、確かに今申し上げた一連のプロセスで8%が選ばれているわけですから、その根拠になっているものがもし正しければ8%削減でいいのではないかということになりますよね。ですから25%というのはどういう根拠があるのかと、こういうことになってしまいますから、やっぱり検証せざるを得ません。これは検証しまして一定の結論がもう出ていまして、新聞でも公表されました。まず、かなりモデル分析をしてるのですが、CASAのモデル分析というのが出て来ていて、最近のもので25%削減は十分達成可能ということになっております。その時出ていれば良かったのですが・・・今でも大変意味はあると思いますが、その時は、モデル分析されて、モデル分析というのは物凄く注意が必要です。私もインタビューで、例えばテレビでもラジオでも「25%削減、36万円負担」と言ったらどういうふうに思いますか?「36万円負担出来ますか?」って言われたら、今36万円負担するように思いません?これは、実は今から1.3%ずつ成長するというのがモデルの前提に置かれているのです。モデルを前提に置かないと影響を評価出来ないわけです。経済がどうなるのかに対して25%削減するということをすれば、どういう影響が出るかということを評価するわけだから、前提が無かったら評価出来ないわけです。それがビジネス・アズ・ユージュアリーとか今のままの推移で行くみたいなことですね。そういう事になったらという前提なんです。それで成長率が1.3%ずつとなっているわけです。これは政府の見通しとかそういうものがありますから、そうすると1.3%ずつ成長していますから2020年にはかなり所得が増えているのです。これが0成長だったら増えませんよ。これ自体が怪しいのではないかと、それはそうだと思います。でも、何らかの数値を置かないと計算出来ませんからね。マイナス1%ずつの成長になる、つまりマイナス成長だというのも正しいか分かりませんよね。ですから、一応政府なんかが長期的な見通しの中で言っている数値がございまして、それを置いてるわけですが、それは普通経済モデルを分析する時は妥当な数値だということになると思うのですが、そこからの影響なんです。でも36万円負担と言われたら、今払うように思われた方が多いと思います。それは残念ながら私の理解では、日本でこのようなモデルを使った分析結果を基にしてみんなで議論するというのは、あんまりやった事がないと思うのです。初めてだったんではないでしょうか。それは私はとてもいい事だと思うので、今後こういうことが増えて来ると思います。しかし、初めての経験でもありましたので、率直に言ってマスコミもあまり良く分かってなかったと思います。ですから、モデルは常に前提とか想定があるのです。CASAのモデルにも想定があるわけです。ですからその想定が正しいのかという問題が当然出てくるわけです。実は5つ位のモデルを作って分析をする人たちが一応合意したというのが、その今言ったモデルの前提条件になります。ですから計算上は36万円の負担があったとしても、実は出発点になる現時点とか、当時のモデルですから2005年ぐらいしょうかね。その位の時点からは所得が増えるところから減るので全体としては増えているのです。ですから聞き方によるのですね。「36万円負担しますから、どう思いますか?」と言われたら「いやですね。」という人が多いでしょうけど、「25%削減出来て、今からこれだけは増えるんですよ。それならやりますか?」と言われたらやる人が多かったのではないかなあと思います。これは聞き方にも物凄くよりますね。モデルというのは常にそうですけれど、25%削減は十分に達成可能とこういうふうに、そうなんですが、これはこういう前提を置いてこういう計算をしたら達成可能になるということなんですね。そういうふうに、これは一種のモデルに対する私たちのモデル分析の結果に対して私たち自身がどういうふうに理解をして議論すべきかということについて習熟していかないといけないという、こういう大きなテーマとも関わっていると思います。ですから言い方によって受けるニュアンスが大分違うと思います。この事がまず1つですね。36万円という数値は間違いでした。最終的な私たちタスクフォース全員の一致として間違いでしたということを新聞にも公表しました。新聞は36万円負担の時は大きく書くのですが、間違いだったというのはどこに書いてあるのか分らないように小さいものですから、あまり知られていないかもしれませんが、これははっきりしたんです。どういう間違いかということもはっきりいたしました。36万円という金額になっているのですが、もともとモデルを分析した人たちは実は金額は出しておりません。私は前の検討委員会には入っておりませんので、25%削減という新しい政権の下に出来たタスクフォースに座長として、改めて検証するということで見たわけです。そうすると、36万円という数字はそもそもどうやって出て来たか?モデル分析の結果ではないのですよ。みなさん、そう思っている人は結構いるのですが、実は違うのです。もちろんモデル分析の結果を基にはしています。でもこれは経済モデルをやる人ならだいたい良く分かることなのですが、何万円という数字を出すよりは、もともと想定がGDP1.3%上昇とかいう、こういうことを想定しているわけですから、影響というのもGDPが1.3%伸びるはずのところが、例えば0.何%落ちるとか、そういう言い方をし易いわけです。専門家はそっちの方を好むわけです。ところが、この中期目標の検討委員会の事務局をやっているのは内閣官房なんですが、この事務局が「何%と言われても分からへん。」というのです。これも僕は一理あると思うのです。ですから事務局の立場としては、パブリックヒヤリングをやるわけですから、もう少し国民に分かり易くしたいという観点で金額に直そうとしたわけです。それで大きく2つございまして、家計の可処分所得の減少というのと、光熱費の負担の増加という2つの数値を金額に直しました。これが、家計の可処分所得の減少分が22万円。それから光熱費の負担増加分が14万円。これはモデル分析をした方々は嫌がったのですが。しかし、これは政治政策的なことで学術的にはそうは言わない。でも「政治政策的には万円で示さないとパブリックヒヤリングの議論にならへんやないか。」というわけですね。ということで、何万円何万円にして行ったわけです。一応モデラーの方にも了解を得たようです。実はこれを足した人がいるのですが、これは間違いです。何故かというと、家計の可処分所得の減少の中には光熱費が増加するというのはかなり入り込んでるわけです。二重計算になるんです。これはタスクフォース全員の一致した見解ですね。ですから足してはいけないものを足したわけです。これは時々起ると言われたらそういうことかもしれませんが、これは大変重大な問題ですね。誰が最後に足したかはよく分かりません。もちろん追及することもひょっとしたら出来たかもしれないし、新聞社の人はそういうことをさせたがるんですが、それも大事な話ではあろうとは思いますが、これは本当に難しい問題ではあります。私たちは専門家の力も借りながら、数値自体が正しいかどうか検証しなければいけないですね。ですから、25%削減に伴う国民負担というふうなことで、前政権の中期目標検討委員会で出てきた36万円というのは、今言ったようなことで大変国民の判断にミスリーディングな影響を与えたと言わざるを得ないというふうに思いますので、それはそういうことだったということです。再計算をしなさいということで、多少はしたりはしてるのですが、ただもう1つ重要な点があります。モデル分析についてですが、これは先ほど言ったようにモデル分析には前提がございます。ある想定をおいてありますと言いました。これはいろいろありますが、マクロフレームと言いますが、先ほど1.3%というのも置いてあります。それから、なかなか難しいのは原油価格をどう想定するかということです。しかし、大きな問題だと思われたこと、何人かのかなり有力な指摘が出たのは、実はマクロフレームの前提に鉄鋼の生産量は2020年になっても1億2千万トンをずっと作り続けるということを置いてあります。これは前の政権では業界ヒアリングをずっとされていたのです。私はちょっと問題があると思います。なぜ鉄の生産量だけ先に決まるのか。おかしいと思うのですね。もちろん鉄鋼業が無くなったらいいとか、そんなことを言っているわけではありません。しかし、我々は低炭素型経済へ移行しようとしているわけですね。そういう時に鉄が1億2千万トン必ず作られるということになると、お分かりだと思いますが、それに伴うCO2がかなりたくさん出ます。そうすると日本全体で25%削減しようと思うと、他のところが余程頑張らないといけないことになります。当然そうですよね。一生懸命頑張らないといけないということは、経済学的には費用をたくさんかけるということなんです。ですから非常に負担が重い感じになるわけです。だから、最初から1億2千万トンと置いた時点で、モデル上実は国民負担が重くなるようになっているんです。そこに大きな問題があるということです。当然炭素税のようなものがかかって来ると、環境税ですね。今の政府の用語は地球温暖化対策税ですが、そういう税がかかりますと、もし鉄にもかけるとしますと、鉄の生産コストがぐっと上がりますので大変だと思います。当然、それだったら中国やインドで作るという話が出てきますので、日本では鉄の生産量がぐっと減ってみたいなことが起こるわけです。それはいいか悪いか分という問題ではないのですね。実際にそうしたらそうなる可能性はかなりあるはずなのに、そういう計算はしないということですよね。1億2千万トン作り続けるということです。もちろん根拠がないわけではないのですよ。業界ヒアリングで業界の計画みたいなものがありますし、実際に世界全体では鉄の生産は増えるのですね。中国、インドを始めとする途上国の成長というのがあります。2020年までにかなり生産量が増えるというようなことが入り込んでるわけです。しかし、私はそういう前提の置き方自体に少し問題があるのではないかと思います。そういうフレームの置き方を変えてみると違う計算が出る。このCASAのモデル分析には当然1億2千万トンなんか置いてませんよ。モデルのやり方が違う訳ですよね。ということで、私はやっぱり前政府のやった中期目標検討委員会はモデル分析をいろいろやりながら結果を議論して目標値を決めるというのは、初めての試みとしては大変意味があったと思うのですが、今申し上げたような重要な問題点を持っていました。そのことが極めて率直に言えば、何らかの形で正確に判断するためのモデル分析というよりは、最初から出来たら低い目標にしたかったのではないでしょうか?その為にモデル分析が使われたようなところがあるように思われました。でも、私が座長を引き受けた理由は、今のようなことをする為ではありません。今のようなことは出来たらやりたくなかったわけでありますが、それが1つの依頼事項でありました。
それと、もう1つの依頼事項というのがありましたので私は引き受けました。もう1つの依頼事項というのは、25%というのは負担になる部分だけではないのではないか?新しい市場を作り出したり、新しい産業とかイノベーションとか、こういう側面を作り出せるのではないか?これは私の考えと合致していましたので引き受けました。もし、国民負担の部分の再計算だけをしろというのであれば引き受けませんでした。それは、あまりにも後ろ向きの議論だなあと思いましたのでね。ご存じのように、いいかどうか、本当にそうなるかどうかは別として、今の政権の成長戦略というのが新しく出来て来ておりますが、環境が1番な位に位置づけられているのですね。これが1つの特徴でありますし、今までに無かったことであります。環境に取り組むことは負担なんだとずっと言われて来ました。それをちょっと違う角度から考えるということです。私はある程度、新市場・新産業・イノベーションというのは一理あるように思います。例えば、自然エネルギーは新しい産業になるのではないでしょうか?確かにもう世界ではかなり大きな市場になっています。そういうところから新しいイノベーションの方向が出てくるのではないでしょうか。出来るだけ低炭素、そういうものになって行くのではないでしょうかね。この問題は後でちょっと考えたいと思います。
ただ25%削減というのは国内問題の面と国際問題の面とありまして、本当は両方の全般的に議論しなければいけないのですが、よくこの25%削減の話になりますと、「国内でどのくらい?」「真水でどのくらいや?」「海外でどのくらい買って来るんや?」と早くからこういう質問とか、タスクフォースの中でもこういう意見がかなり強く出るのですね。海外から買って来ると、確かに安い時がありますからね。でも、ご存じのように現政権が言っている25%削減は条件付きではありますが、国内削減で何%、海外で何%とかいうような議論はしてないわけですね。主要な排出国が意欲的な削減目標を立てるということを前提にして25%削減をやりますと言っているわけです。
ですから若干大きな話をしますと、やっぱり温暖化防止は国際的に協力できる社会を作らないといけないのですね。喧嘩をしている国際社会では温暖化防止は出来ません。平和な社会で、みんなで協力して削減しようということでないと出来ないでしょう。でも削減に伴ったいろんな負担の部分だとかいうことが議論になるとなかなか強調出来ないというのが現実です。ですから、どうしたら国際協調への道を切り開くことが出来るかというのが今世紀最大のテーマだと私は思います。いくつか言われていることがありまして、私の専門にしている環境経済学の分野では3つ位取組み方を考えていかなければいけないと言われています。今日の話と多少関係しますのは、1つはやっぱり低炭素にして行くとか、化石燃料ではない自然エネルギーで発電をするとかが簡単に出来るようになったら進み易いですね。今は凄く大変そうに言うので国際協定が難しいわけですね。中国やインドにしても「お金もないし技術もないのに、どうやってやるんや!」とこういう事なんですが、「いや凄く簡単に出来ます。」とこういうふうになれば、「それならやりましょうか。」となる可能性は高まりますね。ですからもっと費用対効果のいい、ちょっとの費用で凄く効果のある方法とか技術をもっと開発して行くことが出来れば協調への道が開けますね。大事です。私は日本はそういうことをやって行くべきだと思いますね。もっと簡単にできる方法を増やして行くわけですね。これが出来れば、世界的にやり易くなりますね。やや極端に言いますと、石炭火力よりずっと安く発電できるとすればみんなやるのではないですか?そういう事ですね。今は逆だからなかなか難しいと言っているわけでしょ?中国は石炭火力の方が安いと言っているわけですよね。それにも関わらず自然エネルギーを入れろというから難しいと言っているわけだから、逆になれば全然難しくなくなります。ですから、そういう意味での費用対効果のいい方法を考えて行ったらいいわけです。もう1つは今よく取り込まれてる方法ですが、COP15でもそういう議論ですね。よく途上国からの資金と技術という議論ですね。だから南北問題の解決とも合わせて、資金と技術とを移転する。先進国から途上国へトランスファー、そういう枠組みが出来れば協調し易いだろうと言っているわけです。だから、鳩山イニシアティブとかいって凄い金額を出すという話をしているわけです。これも1つの方法です。
もう1つよく言われていますのが、イシュー・リンケージとか言ったりするのですが、温暖化防止の問題、温室効果ガス削減の問題をその問題だけでやっているとなかなか進まない。だから他のイシューとも一緒にやる。例えば分り易いのは、インドとか中国とか典型的ですが、国内の汚染問題がたくさんあるわけですよね。CO2の問題より、現時点ではそっちの方が優先しているわけですよね。そういう問題に取り組むことで一緒にCO2も削減する。別の問題のようにしない。あるいは貧困削減とこの問題を一緒にやりましょう。だから温暖化防止だけで議論すると議論が狭くなってしまうということですね。そういうやり方もあると思います。今の3つのやり方は全然排他的ではありませんので、全部進めればいいのですね。そういうふうにして国際協調への道を切り開くということは、私はとても大事だと思います。今日はそっちの話はしません。主として国内的な問題ですね。そちらの方に力を入れてお話したいと思います。
環境経済戦略の基本理念
先ほど私が、新市場・新産業・イノベーションというような、これは新政権が温暖化問題・気候変動に対する、25%削減に対する位置づけ方なんですが、私は賛成です。だから引き受けたと申し上げましたが、これは私が前から提唱している地球温暖化防止への環境経済戦略と言うようなことの基本理念ということです。地球温暖化防止というのは、僕は新しい未来社会を作る課題だと、こういうふうに位置づけています。非常に希望を持った課題だと位置づけるということですね。何故かということでありますが、私はこういうことをはっきりと自覚したのはちょうど安倍首相の時でしたか、日本から提案した「美しい星50」というのがあったのを覚えておられますか?「クールアース50」というのを安倍さんは提唱したのです。国内的にはあんまり評価されませんでした。どういう提案だったかと言いますと、50ですから2050年までに世界全体で50%削減するという、この50%というのには意味がありますよ。科学的知見のIPCCの議論に合致していますので意味があるのですが、ただ世界全体で50%ですから、日本が何%かひとつも言いませんでしたので、日本が積極的にやりますという話では全然ないのです。世界全体で50%と非常にアバウトで、且ついつからともいうのも言いません。誤魔化してるわけですね。何年基準とも言わないですから全然評価されませんでした。しかし、私はその時よく考えてみましたが、大変なことだなあと思ったのです。今、先進国と途上国とに分けるとしますよ。こういう分け方自体だんだん変わって来ていまして、新興国というふうな言い方もかなりされるようになりましたし、G7ではなくてG20ですし、単純な分け方は難しくなって来ていると思いますが、一応分けるとしますね。そうすると中国とかインドは全部途上国に入ります。そうすると人口規模は圧倒的に途上国の方が多くなりますが、温室効果ガスの排出量はちょうど先進国50、途上国50なんですね。アメリカと中国が一緒ぐらいでしょ。人口規模は全然違いますが、アメリカ人は1人でたぶんインドの人の17、8人分を出している。日本もエネルギー効果がいいとか言っていますが、温室効果ガスの排出量で言えば、やっぱりインドの7,8倍は出しているのではないでしょうか。7,8人分を1人で出しているということになります。ですから、先進国、途上国50:50で、人口規模から言えば途上国は圧倒的に多いけれども、排出量は先進国の1人当たりの排出量はかなり多いですから、ちょうど50:50になります。安倍さんの提案は2050年までに50:50のところを50にしなければいけないのです。今から2050年に向けて中国やインドの排出量が減ると思う方いますか?増えるのではないでしょうかね。国際間の予測もほとんど増える予測です。私も中国に行く機会が物凄く増えていますが、昨年の1月に西安、京都がモデルにした昔の長安から30キロぐらいの農村へ行きました。ここは水道が来ていません。しかも当面の目標が「水を汲みに行くのを20分ぐらいで行けるようにしたい」なんです。大変でしょう。電気の無い暮らしをしている人は、たぶん中国の国内にまだ2千万人以上いると思います。ですから中国は凄い格差社会になっておりまして、北京や上海へ行っているのと、今申し上げました内陸に行っているのとでは全然違う中国ですね。しかし、何らかの意味で電気のある暮らしをとか、それはミニマムだと思いますが、そういうことを考えると増えるのではないでしょうかね。しかし増えてもらうと困るという立場からすると、ここからは大変な努力ですが、中国やインドの皆さんにも努力していただいて、国際社会も協力しなければいけませんね。協力して増やさないけれども暮らしが良くなると、温室効果ガスの排出が増えないけれども暮らしが良くなるということをしていかなければいけませんね。これを世界的なローカーボンデベラップメントと言って低炭素型の発展をする。日本とかアメリカとかヨーロッパは全部1度高炭素になっているのです。物凄い排出量になって、それを今減らそうとして低炭素社会へとこうやっているのです。でも、中国が全部こうなってからでは困るでしょ。もう温暖化防止は出来ません。これは考えていただいたらすぐに分かりますが、日本で車が7900万台くらい走っていますが、1億2700万人ですね。同じくらいの人口比率で中国では8億台ですね。8億台というのは、今世界全体の車の台数です。ですから中国が日本並みになるにはまだちょっと時間がかかりますよ。GDPが一緒になったと言って勘違いしたらだめだと思いますが、1人当りは10分の1ということですね。これから1人当たりで見ても同じ水準に行くまでには、まだだいぶ時間がかかります。8億台が全部今のようなガソリン車だったらどうしようもないですよ。ですから車も変わってもらわないといけないのですが、でもそんな感じなんですね。例えば豚ですが、中国は豚が好きなんですね。中国に豚は5億頭います。世界全体で10億頭。半分は中国になる。これは糞尿が物凄いメタンの源泉なんです。温室効果に物凄く利いているわけです。ですからヨーロッパの環境NGOはそういうのを集めてメタンを回収する。回収して、調理とか温水に使う、こういうプロジェクトに凄い資金援助をしている。さすがですね。ですから中国が1度高炭素になりましたというのでは困るわけです。低炭素のままで生活を良くするということを考えて行かなくてはならない。これは中国だけの責任ではないというふうに私は思いますが、もちろん中国の責任も大きいと思いますがね。簡単ではないと思うのですが、奇跡的にもこれが実現出来たとします。2050年中国やインドなどの発展途上と言われている国々の温室効果ガスの排出が増えないままで生活が良くなったと、貧困がぐっと減るということですから素晴らしいことですね。その時に先進国がどのくらい削減しないといけないか。現時点で50:50でしょ。2050年までに50に削減しなければいけない。途上国は人口もたぶん増えるでしょうけれども、低炭素発展で増えないままで行くと、そうすれば先進国は0にしなければいけない。50にする為には0にしなければいけない。そうですね。ですから先ほどもご報告がありましたように、2050年で先進国は最低80%ぐらい、日本の低炭素社会づくり行動計画では60~80と言っているのですが、先進国全体で80%はというのは大体の合意になりつつあるのです。そのくらいは当然やらないといけないわけです。ですから、これは私に言わせれば、政府もよく低炭素革命とか言っていますが、考えてみますと化石燃料を本格的に使い出したのは産業革命でしょ?石炭と鉄道で始まっているわけです。ですから、これは逆産業革命ですね。完全にこれは革命です。後世で見ると、革命という表現になるのではないですかね。私は文明史的転換という用語を使っていますが、工業文明みたいなものが、物質文明の限界みたいなところも見えているわけで、そういう側面もあるわけです。ですから私たちは今よく見えていないのですが、そういう新しい未来社会を作るということですね。今のままの状態で少し削減しましょうとはちょっと違うのです。これは後でもお話しますが25%では中期目標として言っていますが、これは80%削減の位置ですからね。25%削減したら終わるのではないのです。2050年までには80%減らさなくてはいけない。そういう新しい未来社会を作る挑戦的な課題として位置づけて、当然新市場・新産業・イノベーションが無かったら出来ませんので、低炭素型の技術だとか、町づくりとか、ライフスタイルとか、ビジネスのやり方とかすべてが変わるわけですので、それに日本が先導的にどういう技術で行きましょうみたいなことについて創出して行くことに日本の役割があるのではないでしょうかと思うわけです。何故かというと、そういうことをするのには今までの技術的蓄積や人的能力のあるところでないと出来ませんよ。全くそんなことを考えてもないようなところで突然そんな技術が出てくるわけではありません。こういうふうに低炭素に向けて市民が勉強するということをやっていないとだめでしょう。新しい発展パターンを作り出すようなものですね。
その為には中長期に明確で意欲的な削減目標が必要なわけです。これは何故かというと、明確になっていなければ確実ではないわけです。企業にしてみれば投資が本当に削減していいのかどうか分からないというのは技術開発にとって非常に悪いですね。方向がはっきりしているのはよし頑張ろうとなり易いですね。有名な例では自動車の排ガス規制です。排ガス規制をはっきりさせたら日本の自動車業界の開発力がぐっと引き出された。これは非常に面白いストーリーがいっぱいあります。そういうふうな新しいものが出てくるわけですから、実は競争力も高まるのですね。国民負担の議論は競争力にネガティブなことばっかりするんです。それは、部分的にはそういう業種もあります。業種間で言えば、そういう低炭素にするというのは 高炭素でやっているところは物凄く大変ですからね。しかし新しいチャンスが別の意味でたくさん出てくるのも事実ではありませんか。私は「未来産業」という用語を使っています。産業と言うと、今あるものしか目に見えない。でも未来に出てくる産業があるわけですよ。IT産業と言うのは戦後直後にありましたでしょうか?そんなもん無かったでしょ。もう今は中心中の中心ですよ。学生が就職したいという業種はずっと変わって行っていますよ。敏感ですからね。どういう職業が将来性があるかとずっと考えているわけですよね。有名なシェルという石油会社がありますが、あそこは風力に物凄く投資しているわけです。そのうちシェルと言ったら風力産業やということになるかもしれません。だから企業は当然でしょう。石油で儲けたら、次儲かるものでまた儲けるわけです。石油にしがみ付いていたら無くなりますよ。それが企業の能動的ないいところではありませんか。ですから、我々も未来産業を作るつもりで考えなければいけません。確かに今の産業の一部の人は大変だと言うと思います。しかし個別の産業の話で、日本社会全体でどうかということを我々はまず考えなければなりません。そうすると新しい産業を創出するということは大変重要なことではないでしょうか。いつまでも石炭火力ばっかりでやるというわけにはいかないと私は思います。もちろん石炭を使いながら新しい技術で能率的にやるというのもあるかもしれませんが、とにかく今のままではだめです。
それから最後にその事も含めまして、温暖化防止の取り組みが日本の他のいろんな社会経済問題、日本の問題は当然ですが温暖化防止問題だけではありません。雇用問題は極めて深刻であります。或いは中山間地域の地域経済問題、これこそ深刻であります。あるいは地方都市も大変深刻であります。こういうものを全体として解決する方向で取り組まないといけないですね。ですから温暖化防止への取り組みというのが日本の社会経済問題の解決にも寄与する。新しい産業が出て来て雇用が出て来て、地方経済が豊かになるというようなことに出来るだけ繋がる方がいいですよね。そういうふうに考えていく必要があるわけです。ですから経済モデルの分析は日本全体でやっておりますが、緻密な政策をやる為には今申し上げましたような細かい分析が必要です。それに基づいた取り組みが必要だということで、逆に言えば地域から取り組んでみないといけないということです。
環境経済戦略の推進方策
今のような基本理念に基づいて推進方策というのを考える必要があるのですが、一応私は以下のようなことを申し上げています。
日本の経済を低炭素型に構造改革をしなければいけないのですね。今は高炭素型ですので低炭素型に作りかえないといけない。作り変える為にはいくつかのことをしなければならないというふうに思っています。1つはよく議論になる炭素に価格を付けるという話しでありまして、これは環境税、現政府の用語は地球温暖化対策税というものであります。これは物凄い議論があるのですが、私は一応それは導入するべきだという立場であります。2つの点からですが、低炭素へ向けての動機づけを与えるという点と公正な費用負担が必要だという点で、つまり温室効果ガスを排出するところが負担をしないといけないということで、温室効果ガスを削減するところが負担するのはおかしい。削減することは評価されるべきだということです。何故かというと、排出しているから今もいろんな被害を起こしているし将来にも大きな被害を起こすわけでしょ。ですから現在の排出は、実は社会に費用をもたらすのですが、その費用が負担されていないわけです。それが問題なわけです。現在の不況の中で、何故雇用がカットされるのか?それは人件費が高いと思っているからです。CO2排出は高いという意識が無いわけです。ですからCO2を削減しないわけですね。なんで人を雇ってCO2を削減しないのですか。今求められているのはそれでしょ。人を雇ってCO2を削減する。そういうことが求められていると思います。そういう意味で私はやはり炭素に価格を付ける必要があるのではないかと思っています。
もう1点はグリーン・ニューディールということで、これは低炭素型社会の基盤を整備するようなものだと思います。これは価格を付けるだけでは動かないことを基盤を変えることで動かして行くということが必要だと、これはオバマさんが政権公約で「クリーンエネルギーに10年間で1500億ドル投資して500万人の雇用を生む」というので大変有名になったのですが、大事なポイントかと思います。今後も重要になって来るテーマだと思います。それから、そういう市場と社会基盤を作り変えた上で、つまり炭素に価格を付けるというのは市場を変えるということです。グリーン・ニュディールというのは社会基盤を変えるということです。この2つを作り変えた上で、物づくりや街づくりのやり方を変える必要があるわけです。これは後で時間があればちょっと詳しくお話しをしたいと思いますが、こういうことを推進していくためには一種の結論的なことですが、産業や地域が創造的でないといけない。つまり新しい未来社会を作る話なので、今あることをそのままやっているのと違う話なんですね。ですから世の中の雰囲気も新しく取り組んでみようみたいな雰囲気が出てこないといけない。これは企業もそうですね。これは有名な自動車排ガス規制の時ですね。ある企業が取り組むのですが、今はトヨタ・ホンダ・日産と言ったら世界の大企業ですが、当時70年代の半ばくらいはまだ中小企業でした。アメリカではほとんど走っていません。ゼロに近いです。今は走り過ぎて問題になっているんですね。その当時は日本国内だけの企業でした。その排ガス規制が来た時に、なかなか簡単にはいかないので厳しい規制をしたら、ある非常に有名な銀行の調査部のレポートというのがあるのですが、「そういう環境規制をしたら何万人のGDPが落ちて、何万人の失業者が出て大変になる」と書いてある。というのは自動車というのは裾野が広いでしょ。部品がたくさんありますから、自動車産業が影響を受けたらみんなが影響を受ける。ということで、こんな規制はしてはいけないというキャンペーンみたいなのが行われたわけです。アメリカでもほぼ同じ報告書が出てるのですね。ところが日本の自動車業界はその当時は大変競争的なこともあって、あんまり大きくなかったから良かったのかもしれません。大きくなると官僚的になりますね。まだ小さかったので、ある企業は経営者の判断が実に重要だと思いましたが、従業員が排ガス規制をどうしてやろうかと、普通は環境技術は生産技術があって端っこの方でやるみたいな、環境技術は付け足しの技術みたいなもので、そういうふうにやっていたらなかなか上手くいかないのですね。経営者が「もうそれを全部やめろ」と一切全部止めさせたのですね。そもそも排ガスの出ないエンジンをということで、排ガスが出ることを前提にやっているのと、エンジンそのものを排ガスの出ないものにするということとはテーマが全然違うのです。こういうふうに技術者に課題を与えるわけですね。大変になるのですが、技術者も一種の生きがいを感じます。企業なのに技術者の集まったところに「子どもたちに青い空を」とかいうスローガンを出す。とても面白いですね。そういうスローガンを掲げて、日夜奮闘するんです。これが難しいと言われた日本版マスキー法を突破するんですね。これは製品の質が良くなった。私はその当時やってた人たち何人かにヒアリングしました。70年代にヒアリングしたのではなくて、2000年代近くになってからですが、これはアイアン・コッカというクライスラーの会長だった人が「日本の車がアメリカで本格的に売れるようになった1つの契機なんです。」ということなんです。やっぱり温暖化防止に取り組むにはそういう新しいものを作り出そうとする、しかも温暖化防止に役立つ新しいものを作り出そうとする意欲や技術者に溢れなければいけないのです。あるいはそういう研究をしようというふうにならなければいけない。そういう雰囲気が出ないといけないですね。街づくりもそういう面があると思うのです。これは分権が大事だと私は思っているのです。つまり、いろんな地域が自分たちの事情に合わせて取り組むというような、そういう取り組みがあると良いものが出てくる可能性が高まります。日本で国が1つだけでやるということでしたら、それが上手くいかなかったら全部上手くいかない。やや言い方が変かもしれませんが、首長さんがやっぱり熱心で、あと引っ張る3人の優秀な職員がいて、あと熱心な市民がいれば必ず動きます。これは3つ揃わないといけないですよ。3人一生懸命やる人がいても首長さんがやるなと言えばどうしようもなくなりますね。首長がやろうと言っても実際に動かす人が3人はいないとだめです。それで市民が全然一緒にやりましょうとならなかったら、これも全然動き出しません。この条件が揃えば可能性があるわけで、大きな大都市みたいなところは大変ですよ。それで、どこかで成功すると普及しやすいでしょ。ですから、いろんなところが実験しないといけない。創造性は実験から生まれるのです。どういう実験をしようかと討議をするというのが大事だとそういうふうにも思うのですね。ですから、実は温暖化防止25%削減はどうやったら実現出来るか。先ほど言ったように炭素に価格も付けないといけないし、グリーン・ニューディールもやらないといけないから、政策は大事です。しかし、同時に足元から創造性のある企業や地域が出てこないことにはこれは動かないです。というのは、発生源はすべて地域にあるのです。雲の上にあるわけではなく、発生源はどこかにあるわけです。その地域が削減しないとだめなんですね。どこかで80%削減を早く達成するところが出てこないといけないのです。2050年にはやるわけでしょ。ですから、皆さんのお住まいのところで是非やっていただきたい。それが出てきたら、タスクフォースも簡単です。「あそこでこんな削減が出来ているのだから、ちょっと勉強しましょう。」とやり易いでしょうね。どこも出来てないと言ったら物凄く難しくなるではないですか。
地球温暖化防止とエネルギー
それで、少し初歩的なことをお話します。温暖化防止はエネルギーの問題と非常に関係があります。と言いますか、エネルギー問題そのものですね。エネルギー問題がなぜ重要かと言いますと、もちろん温室ガスを発生する源の中心だからなんですが、同時にエネルギーは絶対にいるのです。地域や産業を発展させようと思ったらエネルギーなしでは出来ないのです。ですから、産業革命もエネルギーと交通なんです。エネルギーと交通というのは地域産業解決に不可欠なものです。不要なものだったら止めたら簡単なんですね。絶対にいるからなかなか知恵が必要なんです。但し、エネルギー需要は派生需要なんです。皆さんの中にエネルギーを使いたいという人は普通はいらっしゃらない。例えば、工場で何かを生産するためにはエネルギーが必要なのです。派生というのはそういう意味です。何かをするために必要なんだということです。ですから同じことが出来るなら、エネルギーが5分の1で出来たら有難いわけです。困らないわけでしょ。エネルギーを使うことが目的だったら5分の1しか使えなかったら困るわけですが、目的は物を作るということですから5分の1のエネルギーで同じものが出来たらとても有難いわけです。だから私はライフスタイルの転換だとかは必要だとは思いますが、極端に言うと、今のままのライフスタイル全くそのままで、今10のエネルギーでやっているやつを7.5にすれば25%削減達成ということになります。CASAの分析もかなり省エネルギーの余地があるという分析結果のようですが、かなりあるかもしれませんね。それは追及するべきでしょう。多少投資しなければいけないかもしれませんが、何にも困らないのですから、特に省エネの場合は戻りますからね。10使っていたのが7.5になるということは電気代やガス代が7.5で済むということですよね。
もう1つ大変重要だと思うのはエネルギー消費は皆さん自身がエネルギー消費しているわけではないのですよ。エネルギーの消費は使用機器を通じて消費しているのです。ですから何処かへ行く時、本当のエネルギーを使いたかったら走って行けばいいのです。本当のエネルギーというのは自分のエネルギーです。でも遠いと車を使うのではないですか。車はエネルギー使用機器ですね。家電製品もエネルギー使用機器なんです。本当は食べ物を保存しておきたいというのが目的で冷蔵庫というエネルギー使用機器を使って保存しているだけなんです。私たちはエネルギーをたくさん使っているのですが、人間生命体として直接使っているのではなくて、今のような生活様式の中でエネルギー使用機器を通じて使っているわけです。ですから、このエネルギー使用機器を変えたらかなり変わる可能性があります。エネルギー使用機器は差し当たり分かりやすいのが車とか家電製品でエコポイントとか言って政府も一生懸命やっていますね。しかし、この建物も、住宅もエネルギー使用機器なんですよ。ですからエネルギー使用機器というのはかなりストックとなっているものなんです。相対的に車とか家電製品はどちらかというと買い替えがかなり短い期間であるものなんです。住宅を3年で変えましょうとはなかなかならない。もっと長いわけですね。ストックになっているものがかなりあります。ですからストックになっているエネルギー使用機器を改善しなければならない。もちろん新しく出来てくるようなものは出来るだけ温室効果ガスが出ないような素材で作るとか、そういうことを組み入れた低炭素型の技術というものにして行かないといけないのですが、ストックになっているエネルギー使用機器の方はたぶん多くのものが高炭素型なんです。これをすぐ壊して次にといかないものがあるので、それをどうやって改善するかというのがとても大事です。これはこれから緻密に考えて行かなくてはいけません。中小企業の工場なんかもこういうストックの1つですね。エネルギーを大量に使用する工場があります。しかしすぐに作り変えるというのは簡単には行きません。しかも重要な問題は、住宅とか中小企業とかは1つ1つの単位が小さいわけですね。あるいは中小企業のおじさんにしてみれば、そんな事を考えている暇がないわけです。省エネ担当なんかいないわけでしょ?大企業なら地球環境対策室なんかそういうのを持ってますよ。だけど中小はそういうわけにはいかない。そうすると、そういうストックを診断して的確な処方箋を誰が提示してくれるのか。これはとても大事なことです。もちろん中小企業のおじさんにもやる気になってもらわないといけないのですが、なかなか簡単ではないでしょうね。僕は自治体なんかが的確なサポートをしてもいいと思いますね。工場診断をどんどんして行って公開制にして「電気代とかがこれだけ節約出来るから良くなります。」そう言われたら投資しようかなという気になりますよね。そこまで診断しないといけない。住宅についてもそうですね。
今はだいぶいろんな形で技術的にも良くなって来ていまして、例えば17、8年前にあるホテルの支配人の方が面白いことをやっておりまして、それはホテルというのは明るくないといけないみたいなところがあって結構使っていない部屋でも電気が点いているのですね。今は自動で制御していますが、昔はそうだったのです。なかなか面白いと思ったのは、1人学生のバイトを雇って1時間ごとに全館を回らせるわけです。使ってなかったら必ず消せということで、これは物凄い節約になるわけです。今は、例えばエアコンなんかを点けてもエアコンのコントロールをするようなソフトみたいなものを一緒にセットでやるようなところも出ておりますし、あるいはハウスメーカーなんかも一生懸命、家の単位で何と言いますか見える化を図って削減出来るようにというような動きも出ております。そういうのを考えて行かなければいけないのではないでしょうか。ですからフローをコントロールすることとストックを改善する、その両方をやらないといけないですね。
イノベーション
私はイノベーションが必要だと思うのですが、ここでもうすでにお話しをしました、美しい星50の提案も話しましたし、文明史的転換も話しました。25%削減をどうするかという議論をしていますが、これは何回も言いますように80%削減の一里塚であります。低炭素へ向けてどんどん雰囲気を作って行きましょう。新しい技術を作りましょうとか新しいやり方があるのではないかとか。何かわくわくして来ますね。そういうやり方をしないといけないと思いました。
イノベーションという用語はシュンペーターという20世紀の歴史上4大経済学者が作り出しました。ところが日本の1956年の経済白書で技術革新と訳したのです。これは一面でとても的確な訳なのですが、必ずしも正確ではありません。シュンペーターという人の言ったイノベーションは単に技術だけの問題ではありません。もちろん技術革新も含んでいるのですが、販売の形態を変えるとか、様々なスタイルを変えるというのを全部含んでいるのです。だから単に技術だけではないのです。制度や政策や社会を作り変えるみたいなそういうことが一種のイノベーションです。ですから今はソーシャル・イノベーションと言って単に技術だけでないイノベーションの議論が出て来ています。それで私は一応環境経済戦略というのを先ほど申し上げたのですが、環境技術戦略もいるし政治も社会も作り変えないといけないしでしょ。ですから環境技術戦略もいるし環境政治戦略もいるし環境社会戦略もいるわけです。政治も経済も社会も技術も変わらないといけないということですね。たぶん連動するんだと思います。関係を持ちながら変化していくのではないでしょうか。
先ほど言ったようなことで、私は中山間地域と呼ばれるような地域で日本の農業や林業が再生するとかいうことが大変重要なテーマです。これは森林なんかを考えていただいたら分かるように、昔林業が成り立っていた頃は間伐なんかも行われていたのですが、これが成り立たなくなっているということなんですが、この森林が改めて吸収源という面もあります。あるいはスエーデンのベクショーという町は化石燃料ゼロの町と言われているわけですが、これは森林をバイオマスとして使って、バイオマス発電でやっているのです。これも1つのやり方です。つまり中山間地域はいろんな取り組み方が出来るだろうと思います。ですから都市は排出してばかりなのでそれを支援すべきでしょうね。新しい自然エネルギー源をそういう地域に求めるということも必要だというように思ったりもしています。いろんな意味のイノベーションが必要だと思っております。
環境と経済を考える
そういうふうに進めて行きますと、これは最初の話そのものであるのですが、環境と経済というようなものについてトレードオフ、つまりこちらを立てればあちらが立たないというような関係ではないのではないかというふうに思います。トレードオフとは二律背反と言うのですね。よく言われると思いますが、景気回復を計ろうとすると産業活動が活発になって環境負荷が増えます。環境負荷を減らそうとすると産業活動が停滞して来るので成長率が落ちて失業が出る。こういう関係にあるんだとずっと言われて来ました。私がこの問題に関心を持ったのが、温暖化問題で考えていただきましたら、今回は日本が高い削減目標を出しましたが、国際交渉の時に常にこれまでずっとEUが一番高い削減目標を出して議論をリードするみたいになりました。何故ああいう目標を出すのですか?これは、勿論政治の決定が違うという議論がありまして、政治目標をぼんと出すというのも一理ある議論だとは思いますが、経済的に私は今から言うような議論だと思います。いろいろ文献を調べて行きますと出てくるのですが、切り離し戦略・デカップリングと言います。カップリングとは連動するということになると思うのですが、つまり経済発展すると必ず環境負荷が増えるというのが連動です。これになっている限りCO2を減らそうと思えば成長率を落とさないといけない。これしか出てこないのです。これを切り離そうというのです。EUの持続可能の発展戦略の中に明確に書いてあるのです。つまり、経済的には発展するけれども環境負荷CO2は減るということですね。これを実現するというのが背景にあります。考え方はみんな賛成だと思います。経済的に発展するけれどもCO2は減るというのが実現出来たらいいですよね。
問題はどうやってやるかということですが、私は調べた限りでは大きく2通りの考え方があると思います。やっぱり1つは技術革新です。技術を変えていく。同じものを作るのなら出来るだけ物質を使わないようにしよう。脱物質化論です。これは意味が有りますね。だから新しい資源生産性とか環境効率に要望が出てきました。今まで我々は労働性生産性ばっかり言っていました。1人雇うと高いですから、どれだけ成果がでるのか言われます。でも、非常に貴重な資源を使っているのですね。CO2を1単位出すのは余程意味のあるものが作られるのですね。そういうこと発見をさせられるという話ですね。これに類したものはいろいろ考え方が有ります。でも私が非常に感心したのは、技術革新をするという方が分かりやすいですね。もう1つの方が1983年に「環境破壊なき雇用」というタイトルの論文が出てるのです。ビンズヴァンガーという先生が書いたのですが、3年ぐらい前にお会いしました。このタイトルは今日本に必要なタイトルでしょ?CO2を減らしながら雇用を増やすということですよね。今、大阪の高校生なんかは本当に就職が無いですよ。若い人たちに働く場が必要ですが、だからと言ってCO2が増えたら困りますよね。CO2を減らしながらそういう雇用を増やす、これが1983年にもう出てるわけです。僕は自分の不勉強を非常に恥ましたね。これには理由があるのですね。旧西ドイツですので1980年に緑の党という政党が出来まして、エコロジー運動が盛んになるのです。ビンズヴァンガー先生にお聞きすると、エコロジー運動が強くなるのですが、それなりにその考えには共鳴もするのですが、自分の卒業生の5人のうち2人が職場がないんです。それがいいとは言えないですね。そこからが重要なんですが、トレードオフという考え方は環境を大事にすると雇用が減るわけですから、普通はどうしてもどこか妥協点を探らないといけないということになるわけです。でもビンズヴァンガー先生は両方大事なので社会や経済の仕組みを変えることで両方を実現する。これは大事ですよね。今の社会や経済の仕組みをそのままにして何とかしようと思ってもなかなか難しいので、社会や経済の仕組みを変えるということです。この場合は税制改革です。言わば環境税みたいなものを大きくして、環境税を入れますので環境負荷を減らす動機を与えることになります。同時に税収が上がるので、それで雇用促進をする。これは主としてヨーロッパの場合は事業者の社会保険料の負担が大きいのでそれを削減することに使うということです。税制改革で環境破壊なき雇用を実現しようというやり方であります。
ですから大きくは技術を良くすることでトレードオフを克服しようということと、社会や経済の仕組みを良くすることでトレードオフを克服しようということです。全然矛盾するものではありませんから、もちろん両方ともやればいいのですね。つまり25%削減を実現させて行く為には、やっぱり技術を良くすることも大事ですが、同時に社会や経済の仕組みを変えてより環境保全型の内需が出て来るような構造改革が必要ではないかと思われます。
地域からのエネルギー管理
これはとても面白い問題だと思うのですが、私がこの地域からのエネルギー管理に凄く関心を持った理由はいくつかあります。1つは中国の湖南省の常徳のすぐ何十キロかの農村にヨーロッパのNGOが豚の養豚で出るメタンを集めて温水や調理に使うというプロジェクトに資金援助をしているということで行った時に、大変面白い事に気が付きました。その村にエネルギーエネルギー弁公室というのがありまして、エネルギー課ということになるのですかね。エネルギー担当の課長さんみたいな王さんという方がいらっしゃいまして、いろいろ案内してくれました。王さんと話をすると王さんは全く地球温暖化防止には関心がありませんでした。全く無関心。「何の話やそれは」みたいな。だって中国の農村ですよ。エネルギーと言ったら薪とか練炭ですよ。だから、何故王さんがメタン発酵を回収してというふうに興味を持ったかというと、薪や練炭なら有害なガスが出で健康を害したり、真黒になったりするので、村役場のエネルギー担当ですから何とかそれを改善したかったのですね。もっとも身近なエネルギー源は豚の糞尿だというのを聞きつけて、小さな装置を導入して、集めて発酵させて家で使えるようにしたら農家から物凄く喜ばれたわけです。でもこれは温暖化防止なんですね。今まで出てたメタンガスを全部集めて調理などに使うことになるので、全然変わってしまうわけです。温暖化係数は桁違いですよね。先ほど言ったように中国には5億頭の豚がいますので物凄い量ですよね。でも王さんは農民の生活改善のためにやっているのですが、それが見事に合致したわけです。
それで、よく考えてみたら日本の町や村や市にエネルギー課というのは無いなと思いました。ゴミ減量対策室というのは有ります。だから、やたらゴミ分別は熱心です。勿論循環型社会は大事なことです。でもそれに比べると低炭素型社会づくりはあまりにも遅れていませんか?物凄いアンバランスです。循環型社会づくりについてもまだやるべき課題があると言われれば私もそう思いますが、しかし地域からの温暖化防止はやはりやって行かなければなりません。ところが実際それを担当しているところすらないのです。何故かというと、エネルギーの問題は自治体の仕事になっていないのです。ゴミは自治体の固有の事務なんです。ですから法律が変わったら必ずやらなければいけない。固有の事務となっているので住民といろんなやり方をして行ってるわけです。日本はエネルギー問題を国策でしかやっていないのです。エネルギー安全保障の観点は大事ですよ。しかし、だんだん風力や自然エネルギーは典型的ですが、小規模分散型の技術になっているのです。ですから電力と言ったら、皆さんは関電が送って来るものと思っているわけです。これが間違いなんです。
ある本に「デンマークへ行くと、農民が3人寄ると発電所を作ろうかと相談する。」と書いてありました。本当か?と思いましたが、本当でした。これはとっても面白い取り組みだと思ったのですが、1990年の時はほとんど0なんですが、今は電力の20%ぐらいが風力です。これは自然エネルギーに大変熱心というふうに思うかもしれませんが、確かに政策的には熱心なんですが、農民の立場は全然そうではないと思います。政策のために頑張ってやりましょう、温暖化防止だからやりましょう・・・そうではないと思います。勿論そういうふうに思っている方も結構いらっしゃると思いますが、一番重要な点は副業なんです。農家の副業です。農業所得だけでは食べていけないというのは全世界の先進国のかなり共通のものです。でも、それにプラスアルファーしたものになるのです。それは高く買い取ってくれるからです。だから風力発電に投資するのです。3件集まって風力発電に投資したら買い取ってくれるから元が取れるわけです。そうでないと投資しないでしょ。だから農業外所得の一部になっているわけです。ですから農山村の地域にある自然エネルギーというボテンシャルを引き出す仕組みを上手く作ったので、そういう投資活動が生まれているのですね。これはとっても面白い取り組みだと思いました。
地域から温暖化防止というのは、足もとから取り組めるようにエネルギー政策を変えないといけないのではないでしょうか。そういうところにも視野を持って取り組まないと本当の25%削減への取り組みにはなかなかならないと思っています。ですから一応私は技術も変えないといけないし、いろんな取り組みもしないといけないわけですが、同時に仕組みも変えないといけなくて、それは勿論地球温暖化対策税とか買取制度とか、同時にエネルギー問題そのものを市民の身近なところに、市民が取り組むことの意味がある形にするということが不可欠ではないかというふうに思います。
持続可能な低炭素社会
そういうことで私はもう全部お話して来ましたが、地域から温暖化防止を進めていくということが25%削減というのには不可欠でありまして、その事が地域経済も豊かにする。未来産業を作り出したりして、エコロジーに適合した地域経済というのを豊かにする。昔は地域経済を豊かにしようと思ったら大工業地帯を作るというイメージだったのでしょうが、そうではなくかなり違ったイメージになると思います。そのためには、かなり創造性のある産業とか地域とかが必要になると申し上げたのですが、私はそれを担う人材づくりというのが最後にとても大事な話だと思います。やはり温暖化防止は勉強しながらやらないと出来ないのです。世界中のいろんな取り組みも知ったらいいでしょうし、いろんな学習する地域というのも求められます。私は担い手になるのは「地域公共人材」だと思っています。これは京都の方の大学の方が言ってるのですが、つまり意味は役所にいる自治体の人だけが公共を担っているのではなくて一般の市民、事業所にお勤めの方々も町を良くしようと思う人はみんな地域公共人材なのです。だから温暖化防止を担うのは、そういう地域経済を作ろうとする公共人材が増えないと出来ないというふうに思いますので、この地域公共人材というのを言っているわけです。そういうことで25%削減というのは日本経済の質みたいなものを大きく転換するということが不可欠だというふうに考えているわけです。はい、終わります。有難うございました。