2009年度大阪府生協連「政策討論集会」
基調報告『COP15の到達点と今後の課題』
地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)
専務理事 早川 光俊 氏
こんにちは、早川と申します。ご紹介いただきましたようにCASAという団体で地球温暖化問題に今は主として取り組んでいます。COP15という会議が開かれて、この中でもたくさんの人に参加していただきました。去年から関西の生協の皆さんと一緒に「温暖化防止COP15ネットワーク関西」という団体を立ち上げまして、この1年間主に林業・漁業・農業と温暖化の関係についての学習会を関西各地でやってきました。その集大成と言いますか延長線上で、生協の皆様を含め41名の方がネットワーク関西でこのCOP15に参加しました。そのご報告は後で詳しくあると思いますし、また報告書も出ていますので、この辺は後に任せまして、私はCOP15はどんな会議だったのか、どんな事が決まったのか、そしてその成果と課題は何なのかという辺りをお話出来たらと思います。
非常に報道自身が混乱しています。私も帰って来てから日本の新聞を大体見たのですが、正確な報道が殆んどなかったですね。最終的には非常に混乱した会議になりましたので、無理もなかったのですが、そこら辺も少しお話が出来たらと思います。
国際交渉の経緯
条約交渉の経過はもうご承知の通りですけれども、この地球温暖化問題の議論が国際社会で始まったのが1988年の頃からです。そして1992年のリオのサミットが開かれて、そこに大阪の生協の皆様も随分参加していただいたのですが、そこで「気候変動枠組条約」が直前に合意されて署名が始まるということになりました。何故こういう条約が必要だったかと言いますと、温暖化問題というのは一つの国が対処しても全く防止が出来ない。世界中の国が協調して対策に取り組まないと対応出来ないという課題です。例えば日本は先進国で2番目の排出量があります。4.2%位ありますが、日本が全部CO2の排出を止めたところで4.2%にしかならないということになるわけですね。だから国際的に協調した行動が必要だということで、こういったたくさんの国が参加する条約(多国間条約)を作ったわけです。そして、この気候変動枠組条約自身は非常に不十分だったこともあって1997年に覚えておられると思いますが、京都で開かれたCOP3という会議で「京都議定書」という条約が出来ました。気候変動枠組条約が親のような条約として、京都議定書はその子どものような条約ですが、法的にはまったく同等の条約です。出来て対策が進むかというと、この議定書が動き出すまでに8年かかりました。55か国と先進国の55%以上のCO2排出量を占める国が批准参加しないとこの京都議定書を発効しない、効力を生じないという規定になっていまして、それが整ったのが2005年の5月16日ということになります。そして京都議定書は2008年から20012年までの削減目標しか定めてないので、2013年以降の削減目標を決めなければいけないということで、成立・発効と同時にその2013年以降の議論が始まったわけです。それが2005年12月にモントリオールで開かれたCOP11、CMP京都議定書の締約会合の第1回会合で始まりました。そしていろいろ紆余曲折があったのですが2007年のバリで開かれたCOP13、CMP3という会議で2009年末までに2013年以降の目標を決めようということでコペンハーゲンが非常に重要な会議だったのです。昨年12月7日から2週間の予定でコペンハーゲンでこの会議が開かれました。
今となっては、なぜデンマークでやったのかなという気がするのですが、上がラスムセンというデンマークの首相です。私なんかから見ると非常に強引な方に見えました。下がコニー・ヘテゴでデンマークの環境大臣というふうに考えていただければいいのですが、COP15の議長さんに就任された方です。実はこの方は最終的に最後の4日間位は議長を降りまして、ラスムセン首相が議長に就きました。120カ国近い首脳が集まったので、大臣が議長をするのは荷が重たいということもあったんでしょうけども、現地の新聞では更迭というような表現もありました。必ずしもコニー・ヘテゴさんに責任があるとは思わないのですが、そういう経過をたどりました。
これは会議場です。非常に広い会議場でした。もともと国際見本市なんかをやるような会場のようで、参加者も多く、最後に申しますが登録が4万人を超えたと言われています。通常は1万人前後です。最大の会議がバリだったと思いますが、1万人をちょっと超えたくらいです。COP3は非常に多かったと言われても1万人弱です。それからポーランドでやられたCOP14も1万人前後だったと思います。その4倍の人がここに集まったということになります。
COP15は、何故、重要だったのか・IPCC第4次報告書の知見
2007年にIPCCという世界の2500人とも3000人とも言われている研究者・科学者たちが集まった国連の機関が第4次報告書を出しました。皆さんもご承知のとおりだと思います。そこで、「産業革命以前から2℃を超える平均気温の上昇は、人類を含む地球上の生態系の健全な生存を脅かしかねない」という警告を発して、そしてその為には2015年までに世界のCO2排出量をピークから削減に向かわせる。あと5年ですよね。そして世界全体の排出量を2050年までに半減以下にする。とりわけ先進国は2020年までに1990年に比べて25~40%減らしなさい。1990年という年は結構重要でして、世界全体の排出量は90年から現在まで25%以上増えている。どこを基準にするかでだいぶ変わって来るのですが、基本的には基準年を1990年と考えても25~40%減らさないといけないということになります。
2つの作業グループ(AWG)
それと2009年、去年が大事だったのは、2013年というのはあと3年あるのですが、これまで京都議定書が各国に批准するまでに8年かかってるわけです。そういうことを考えると、出来るだけ早く合意を成立させて各国が批准の手続きに入って、これを発行させないと、2012年が終わった段階で次の削減目標が動き出していないという可能性があります。だから少なくとも3年位前に合意しとかないとだめだろうということで2009年という数字が出てきました。私たちは2008年の段階でもう合意すべきだと主張してたのですが、実は2008年というのはアメリカの大統領選があったのですね。オバマさんが大統領になりましたが、その大統領選をやっている横でこんな議論をしても少しも前に進まないから、大統領選の結果を見て、1年位経ってからいろんな議論をしたらいいのではないかというのが、大体世界の相場観でして2009年ということになりました。
IPCCの報告はここに書いてある先ほど申し上げた通りですね。先進国だけではなくて途上国も一定の排出抑制をしろということもその分析から出てきます。成り行き排出量というのは、要するに途上国は放っておいたら右肩上がりで上がってしまうラインから15~30%抑制する。削減まで行かないけれども抑制をする。右肩上がりの角度を少し緩やかにするような行動が途上国にも必要だということが示唆されています。実は今世界最大の排出国は中国になりました。これまでずっとアメリカだったのですが、アメリカを抜いて中国になって、年々その差を大きくしています。1番目が中国、2番目がアメリカ。2つの国で50%に近いです。そして3番目にロシア、4番目が日本を抜いてインドになりました。そして日本が5番目ということです。日本が約4.5%位だと思いますが、そういった排出量です。先進国と途上国を比べると、そろそろ2015年位までには先進国よりも途上国全体の方が排出量が大きくなると言われていまして、先進国だけが対策を取るよりも途上国にも何らかの削減行動、温暖化防止になるような行動を取ってもらわないと温暖化が防げないということから途上国も何らかの行動を取るということも交渉のテーマにあがりました。
これもややこしくて申し訳ありませんが、2つの枠で動いています。条約と議定書です。簡単に言うと、気候変動枠組条約はアメリカが参加しています。京都議定書はアメリカが参加していません。ブッシュ大統領が2001年に当選して、1月に就任式をやって、3月28日に京都議定書の交渉から離脱してしまったので、アメリカはこれに参加していない。そうすると、京都議定書の枠組と条約の枠組と今温暖化問題で国際的に2つの枠組がある。ほとんど重なっていますし、契約国やこれに参加した国もほとんど変わりません。今世界中の国が条約に参加していますし、議定書もあと数カ国残すだけです。しかし京都議定書に非常に排出量の多いアメリカが参加していないということもあって、2つの条約の会議と議定書の会議では、2013年以降の問題についても、条約の下での特別作業グループと議定書の下の作業グループの2つを作って議論が進められています。議定書の下では、京都議定書は先進国の削減目標を定めた条約ですから、2013年以降のアメリカを除く先進国の削減目標を決める交渉が行われています。もう一方で条約の方はアメリカが参加していますから、アメリカとか議定書では削減目標の義務を負っていない途上国を巻き込んだ議論をしようということで、ここに書いてある5つのテーマについての交渉が進められています。そして、この2つの作業グループの結論をコペンハーゲンで得て、そこで合意を成立させようということになっていました。1つの議定書を合わせて作るのか、2つ作るのかというような法的形式についてはいろんなオプションがありまして、そして立場の違いによって意見が分かれて、これが今回のコペンハーゲンでの合意を阻む1つの要素になりました。法的問題なので少し省きます。
そして、これに向けて先進国は全体で2020年までに25~40%削減ということでIPCCは言っているわけですが、先進国がコペンハーゲンまでに「うちはこの位やる」と言ったのが、日本が−25%、EUは−25~30%、ノルウェーは−40%、カナダなんかは−3%、アメリカも−3%です。先進国全体が公表している削減目標を合わせても−12~−18%位にしかならない。この幅があるのはいろんな条件が付いていて、そう簡単に比較できないので、多めで18%少なめで12%みたいな事になるわけですが、要するに25~40%には届いてないということです。この中で、日本は鳩山政権になってから−25%というのはコペンハーゲンまではトップランナーに近かったですね。ヨーロッパは−20~−30%で、どっちにするかは交渉次第だと言っていました。もちろん日本も−25%は他の国がやるならばという条件付きですけれども、それ自身は評価されました。先ほど津村さんもおっしゃったように中身はどうだという話はまた後でします。そして、途上国も一定の数字を置いてきました。特に昨年11月にモントリオールで最後の作業グループの会合が開かれて、私も参加したのですが、その段階で中国とかインドは全く自分たちの数字を言っていなかった。南アフリカやブラジルもまだ言ってなかったですね。これベイシック、BASICと言ってますが、BAがブラジル・Sが南アフリカ・Iがインド・Cが中国で、これが非常に重要な国でBASICと言ってますが、こういった国々がコペンハーゲンに向けて、それぞれが抑制目標の数字を言ってきました。ブラジルは中期目標で36~39%、それから南アフリカは34%、成行きの排出量から34%という数字を置いてきました。中国とインドはGDPあたり、要するに国内総生産あたりの減単位を40~45%、20~25%削減するということです。どう違うかと言いますと、総量削減が全体として減ります。減退削減というのは、排出量が増えてしまうと結果的には前より増えてしまうのです。例えば大気汚染で総量削減では全体に減りますよね。しかし例えば煙突の口で何ppmというと、確かにそこは絞れば減るのですが、煙突からの排出量がど~っと10倍に増えてしまえば10分の1の排出割合にしても同じになってしまいます。そういうようなことがこの中国とかインドにも言えまして、この数字自体はそんなに褒められた数字ではありません。ただ私自身は中国とインドがこのCOP15の前にこの数字を発表したのにはびっくりしましたし、評価すべきだと思いました。いずれにせよこれまで、きちんと先進国が削減目標を合意しなければ、我々が行動するということにならないと非常に強く主張してきましたから、それがこういった自らの数字を発表することになったというのは、結構私は追い詰められたのかなという感じがします。中国もアメリカを抜いて世界一の排出量になって、私はやらんとは言いにくくなったのだろうと思います。確かに中国はまだ一人当たりは日本の3分の1程度、アメリカの5分の1程度なんですが、世界一の排出量になってしまったのでそうも言っていられない。この発表するにあたって中国は、実はインド・ブラジル・南アフリカ・スーダンという途上国の議長国を北京に呼んでいるのです。それで、打ち合せをした上でこの数字を発表した。どうも中国というのはこのブラジルとか南アフリカ、インドに対して総量削減ではなくて、GDP当りの減退削減で足並みを揃えようというふうにしたようですがどうも上手くいかなかった。南アとかブラジルはそれでは足りないと考えたようで、結構前に踏み出した目標を提起しました。
資金問題
そして、もう1つコペンハーゲンに向けての大きな問題が資金問題です。途上国が削減行動を促進し、気候変動の悪影響に対処するためには多額の資金が必要です。しかし途上国にはそういった資金がありません。ですから先進国からの資金援助が不可欠です。実は1992年に合意された気候変動枠組条約にもそういった事が書かれています。先進国の中の経済的に豊かな国、OECG諸国ですね。ヨーロッパの15カ国と環太平洋の先進国。アメリカ、カナダ、日本、オーストラリア、ニュージーランドといった国ですが、こういった経済的に豊かな国は途上国に対して資金・技術援助をしなくてはいけないということが書かれていて、京都議定書にも書かれています。そういった事も含めて、ちゃんと資金を途上国に援助しなくてはいけない。援助と言いますと、分け与えるみたいなイメージになりますが、基本的になぜ必要かというと、途上国はその国がどれくらいの排出量があるのか、何処からどのくらい出てるのかというデータが無いわけです。そのデータを取るためにもお金が必要です。システムやそういった事が出来る人材を育成するためにもお金が必要で、それすら無い国が多いわけですね。そういう意味では、そういった事をしないとそもそも温暖化対策が進まないということもありますし、これまで温暖化問題を引き起こしてきたのは明らかに日本を含む先進国です。工業化した国ですよね。また工業化して行くにあたって、途上国からいろんなものを収奪してきた事も間違いないだろうということです。かつては植民地という形で収奪してきたわけですし、植民地支配が終わった後でもいろんな形での先進国への吸い上げは止まっていない。そういった事からも資金問題というのはテーマになりますね。
そして、そこでの論点というのは2012年京都議定書が終わるまでの短期の資金をどのくらいにするのか。そして2020年までの中期の資金をどのくらい確約出来るのか。資金源は公的資金なのか、民間資金なのか。そしてその資金を運用するのはどういったところに任せるのか。ここで非常に深い、途上国と先進国の溝があったわけですね。これも非常に大きなテーマになります。そういう意味では先進国なんかはここで一定の人参をぶら下げれば途上国はなびいて来るよみたいな、合意してくるというような事を言っていました。外務省の人としゃべっていると正直言ってそこが腹が立つのですが、「要するに彼らは金なんだ。」という言い方をしますね。「金さえ出せば何とかなるんだ。今いろんな事を言ってるが結局金が欲しいだけだ。」と言いますが、私は本当はそうじゃあないと思います。そういった途上国のお役人さんがいることも確かですし、そういった国があることも確かでしょうけれども、本当にもう温暖化の影響で国が無くなりそうになっているスバルは金だとは思いません。子ども達がどんどん命を奪われている後発開発途上国が本当に金だけを目当てにこの交渉をやっているとは、私には思えないということです。
必要な資金額
適応策、今起こってる温暖化の影響、これから起こるであろう温暖化の影響に対応するためには、2030年までに100~400億ドル。2030年に500億ドル以上。これはワールドバンクとオックスファムというNGOの試算でちょっと数字が違うのですが、これくらいの試算です。途上国における削減をするためには、UNFCCCという条約事務局ですが、ここでの試算で2000~2100億ドル、日本円にすると20兆~21兆ぐらいです。技術移転についてもIEAという国際エネルギー機関がこういう数字を出しています。
何に合意すべきだったのか
コペンハーゲンでどんな合意を成立させるべきだったのか。1つは2℃未満目標の確認です。温暖化の究極の目標をどこに置くかといういろんな議論があります。私はまず温度だろうと思います。何度までの上昇が地球上の人類を含めて生態系に耐えられるのかを科学的に決めて、そこから大気中の温室ガス濃度を決める。そして、その濃度から排出量を決めて行くという経路が一番正しいんだろうと思います。ですから、まず産業革命以前から2℃未満にするということを交渉する。気候変動枠組条約も京都議定書も目標として確認することが第一の必要な作業だっただろうと思います。2番目に2015年までにピークから削減に向かわせる。これは世界全体です。世界全体という時は途上国も含むと考えて下さい。途上国を含む目標を主要途上国が徹底して抵抗したというのが、今回のコペンハーゲンの合意を阻んだ大きな原因なんですが、ここのピークアウトの年をいつにするか。それと2050年までに世界全体でどこまで減らすのか。具体的には50%以上という数字を書き込むかどうか。そして先進国は2020年までに、90年比25~40%という数字を書き込めるかどうか。合意出来るかどうか。また各国の目標がそこまで到達するかどうか。それから、先進国だけではなく途上国も2020年までに一定の削減行動、IPCCによれば成り行き排出量から15~30%の幅での合意が出来るかということ。それから、途上国に対する資金援助が約束出来るかどうか。ここら辺がテーマです。細かい点は山ほどあるのですが、主要にはここら辺の合意が目指されたようです。これを条約の方で合意するか、議定書の方で合意するか、1つにするかといろんなやり方があるわけですが、中身としてはこんなものが目指されたということです。そして、こうした仕組みが法的拘束のあるものが必要だったということであります。
先進国と途上国との意見の対立
先進国と途上国には大変深い意見の対立がありまして、今年だけで5回位の交渉会議が開かれていますが、だんだんだんだん溝が深まって来たような感じがしました。私はその内の4回出たのですが、だんだん溝が深まって来てる感じがしました。要するに先進国が先にちゃんとした削減目標を決めろという途上国と、いや途上国も一緒に議論して一緒に決めようという先進国です。先進国に言わせると、先に決めてしまうと途上国にいいとこ取りして逃げられてしまう可能性がある。だから切り札を先に切ってしまうわけにいかないと言いますし、途上国は先進国が世界全体を決めて、先進国が甘いことになっては困るというような、端的に言えばそういった争いが、ありとあらゆるところに、どんな合意の形式にするかも含めて出てきます。途上国は表面的には先進国が2020年目標が不十分である為に世界全体の2050年目標には反対するということで、この事はG8サミット、洞爺湖もそうですし、去年のイタリアでのラクイラサミットでもそうですが、ずっとこれは失敗してきました。先進国自身の2050年目標は大体合意が得られるのですが、途上国を含めた世界全体の2050年目標はずっと中国・インドなどが反対するために合意が得られないという経過が続いていまして、これがここで合意を得られるかというのは非常に大きな問題です。そして、そこに資金の問題が絡む。COP15までは先進国は2012年までの短期の資金については一定のコミット、要するに出すような姿勢を見せていたのですが、2020年目標までの資金については殆んどコミットしてませんでした。日本政府もそこは今の財政状況では全く約束出来ない、全くアイディアが無いと言い続けています。COP15の1週間目もそんなことを言い続けていました。環境大臣が来てちょっとは変わったのです。
コペンハーゲンの結果
要するに、交渉を続けることを決めただけです。そして、ほとんどの問題を先送りしてしまったというのが今回の結果です。そういう意味では失敗だということも可能だと思いますし、私は途中でもうこれはあかんなと思って、CASAの声明を書いていて3つか4つ書いて、「もう決裂」という声明を書いたのですが、最終的にはそれは捨てましたが。まあ非常に中身的には不十分で、合意を目指しながら合意が出来なかったという結果です。新聞によっては合意が出来たと書いてあったところもありますし、合意の決議をしたと書いてあるところもありますが、両方とも間違っています。これはどうなったかと言いますと、コペンハーゲン協定案が作られて、これが全体会議にかけられた。このコペンハーゲン合意というのが密室で20数カ国、2ダースと書いてありましたが、その位の首相が集まってこの協定案を作ったのです。最終日の夜中までかかって作ったのですが、その中心がオバマさんだった。オバマさんもこのコペンハーゲンには12月9日に来る予定だったのですね。12月10日にオスロでノーベル平和賞の授賞式があったので、その前にコペンハーゲンに寄ってオスロに行って帰る予定だったのですが、最終的にコペンハーゲンの会議が始まった直後に予定を変更して、9日に来るのを止めて最終盤に入る予定に変えたのです。120名近い首脳が集まったのですが、今回はこれも異例でして、私が12月5日に日本を発った段階では75という数字を聞いていました。ところが、会議が始まるとどんどん首脳の参加表明が続いて220名近くになったという、ちょっと異例の経過をたどったということです。オバマさんもそうですね。来る事は来るけども、日程を合意を目指す最終盤にずらしたということです。
このコペンハーゲン協定が提案されて総会に諮られた。19日になっていましたが、ボリビアなど4カ国が異を唱えました。非常に激しい議論が行われました。私たちは最終盤2日間は会場に入れませんでしたが、テレビ中継をコンピュータで見ていて、ラスムセン首相がいきなりこれを提示して、1時間でこれを読んで賛否を決めて来いと言ったんですよ。すごいなあと思いました。こんな事をやってるのをほとんどの国は知らされていなかったし、実際に自分の国の首相も招待されていないし、そこに参加もしていない。それがいきなり検討して答えを出せと言われたものだから、それは怒りますよね。結果的には4カ国が最後まで反対しました。国連というのはコンセンス方式ですから、全会一致、全会一致といっても賛成ではありませんが、1カ国も異議がないという方式です。みんな賛成で手を挙げるのではなくて、異議のあるところは札を立てると異議になります。1か国も札を立てないというところで決議をするのですが、4か国が異議を言ってしまったので決議が出来ない。だから決定にならないということになります。そして、その後いろんな議論があって、ラスムセン首相がぶち切れてもう止めたという感じになったのですが、また密室の協議が広げられて、ラスムセン首相はそれから出て来なくなってしまったんです。副議長が議長の席について、結局「留意」という形での決定をしました。意義の言った国が4カ国ありましたので、正式の決定にはなっていません。だから条約交渉の正式の決定にはならなかった。留意という形の決定を採択したということです。
私はこの合意案を見た時に、こんな弱いものはない方がいいなと正直言って思いました。20回位変わっているのですが、どんどん弱められていって、非常に弱いものになったので、こんな公約は無い方がいいなと思いました。これではとてもじゃないけど、小島嶼国とか低開発途上国、後発開発途上国は賛成しないだろうと思ったのですが、実際は手続きに対する異議はあったのですが、中身については苦渋の決断で、非常に弱いけれど無いよりは有った方がいいと、資金供与も約束されているし、これを議論の出発点にしようと、特に弱い途上国から相次ぎまして、それで私も考えを変えたのです。そういう経過もあって、留意付きの決議という形で、ボリビアなどの4か国も反対しなかったので決定しました。どういうふうに違うのか。そもそも異議なしで決定したところで拘束力はありません。法的拘束力を条約で与えるには、その国が批准という手続きをしないと法的義務は生じません。それぞれが私権国家ですから、ツバルも1万人の私権国家ですから、そういった私権を持った国家に義務を負わせるのは、具体的には日本では批准手続きですね。内閣が批准して国家が承認しないと発生しないわけです。そういう意味では、そういった手続きをしないとだめですから、条約になって、批准してそこに参加しないと義務が生じないということがまず基本です。では、COPの決定はどんな意味を持つのかというと、そこに意義がなかったということで、それに反する行動とか反する交渉が許されなくなるのというふうな効力があります。しかし、今回の留意付き決議はそこまでいかないので、この決議をどれほど重視するかは各国に任されています。だから留意付きのコペンハーゲン協定が今後交渉の指針になるのか、それとも無視されてしまうのかは、これからこの交渉に参加した国が、このコペンハーゲン協定にどういう態度を取るかにかかっています。決定ならば、それでそこに向かって動き出して、それに従って交渉が進められるのですが、今回はそうはなっていませんので、どの程度の国が重視して来るかにかかっています。
不十分なコペンハーゲン協定
どこが不十分なのか。2℃というのは言及されているのですが、2℃未満を目標に出来なかった。ビークアウトについては、いつCO2の排出量を最大限にして削減に向かう年については、IPCCは2015年と数字を提示していますが、これは当初の案には書き込まれていたのですが、これは削られてしまいました。2050年世界全体の削減目標についても、当初の案では50%以上という数字があったのですが、これも全く言及すらない。数字がないだけではなくて2050年目標ということすらなくなってしまったということです。最大の問題は、今の京都議定書は先進国の削減目標には法的義務がかかっています。法的拘束力がかかっていますが、その事が明らかではない。コペンハーゲン協定の別表に各国が自分のやろうという数字を書き込むだけ、それが法的拘束力があるものかどうかが明らかではないというものになってしまった。これも当初には法的拘束力のあるものと書いてあったのですが、それも無くなってしまった。そして、本来はここで出来ればCOP16で合意を目指すものについては法的拘束力のあるものにしようと書き込んで欲しかったのですが、それすら無くなってしまった。だからCOP16で合意を目指すことになっていますが、その合意が法的拘束力のあるものになるかどうか、京都議定書なみのものになるかどうかは全く分らないという中身になっています。
1番の問題は2番目です。せっかく法的拘束力のある削減目標に合意したものが、またもっと弱いものにされてしまいそうだというのが一番の問題だということです。
コペンハーゲン協定の前進面
しかしそうは言っても前進面もあります。何といっても2℃ということを認識することが書き込まれています。アメリカや途上国が各国の削減目標や削減行動をリストに書き込むことになっています。アメリカや途上国はこれまでそういうことを認めてきませんでしたから、一応リストに書き込むことを承知したわけですよね。そして資金供与についても先ほど示した必要額には及びませんが、2012年までには300億ドル、2020年までに1000億ドル、これは毎年です。1000億ドルというのは10兆円ですね。これは結構大きな数字ですよね。この倍ぐらいが必要額だと言われていますが、これはこれなりに評価出来ると思います。何よりもこれが、アメリカのオバマ大統領を始め各国の首相が参加して一旦は合意したのです。20数カ国の中には世界の主要国もトップも入っていますから、実は中国は入ってなかったのですが、そういう意味ではオバマ大統領はこの前進面に賛成した事についてはアメリカはそれより下がらないだろうという期待を持てるわけですね。オバマ大統領が2℃と言ってそれで良しと言ったのに、アメリカがこれから違う行動を取るというのは非常に難しくなる。そういう意味ではこのコペンハーゲン協定が20数カ国の主要国首相が作成したというのが非常に重要であるということです。
協定を採択できなかった原因
先ほど申しましたように、ラスムセン首相の強引な進行というのは大いにあったと思いますね。この方は非常に強引な方で、先ほどの1時間で検討しろというのもそうですが、途中で「この協定に反対なのは何カ国あるの?」と聞いて、4か国が手を挙げたら「たった4カ国か。じゃあ採択しようか。」と言ったのですね。国連の採択方法を全く知らない。ちょっと唖然としましたがね。慌ててイギリスの外務大臣が「4か国は下に名前で書く方法もあるよ。」みたいな事を言っていましたが、いずれにしても非常に強引な方です。
最大の要因は、やはり地球温暖化の原因者である先進国がIPCCの知見に沿った削除目標25~40%ということを掲げなかったことです。実はこの会議の状況をイギリスのガーディアン紙という新聞に掲載されました。次のこの下に書いてあるマークルナスという人ですが、フリーのライターのようですが、この20数カ国の首脳が協議している場にいたのだそうです。「私はその部屋にいて、何が起こったかを見た」と書いてあります。実際にいたみたいです。そして何が起こったのかをここに書いてあるので、興味のある人は読んでもらったらいいのですが、オバマ大統領の隣に誰が座って、そして誰が何を言ったかというのが全部書いてあります。オバマ大統領はその時法律家になって、非常に積極的に交渉を進めようとしていた。そしていろんな事を提案するのだけれど、中国の下級官僚と書いてありますが、温家宝はそこにはおらずに外務省の下級官僚がことごとくノーと言ったというふうに書いてあります。オバマ大統領の正面に座っていたのです。あろうことか先進国の削減目標を書くことにも中国は反対した。ドイツのメルケル首相は「なぜ、私の国の目標をここに書き込むことが駄目なんだ。それを拒否されないといけないのだ。」と怒った。オーストラリアの首相はマイクを叩いたと、ブラジルのルラタンという大統領も「中国の言うことには理由がない。」というふうに言ったとか書いてあります。そしてすべての提案を中国はノーと言って拒否して、時にはその下級官僚が協議してくると言って電話をかけに行くと、各国20数人の首相がポカンとその結果を待ってるみたいなことがあったというふうに書いてありました。どこまでが本当かというのは分かりませんが、大まか本当のことかなと思います。どうも彼はモルジブという国の政府関係者としてその会議に参加しているらしいのですね。首脳を中心にしてその周りに5~60人の人がいたというのですから、その中の1人でしょう。だから表面的には中国がこれを阻んだというふうにも言えるのですが、ただそれを一定の国が支持したというのは、やはり先進国がいなかったことが根本的な原因だろうと思います。中国をそういうことでけしからんというのは簡単ですが、そういうことで物事は解決しない。
だから資金援助にしても、途中でイギリスのミリバンドという外務大臣が「あなた達はこれで反対すると資金供用も無くなるんだよ。それでもいいの?」ということを言った時には、すごい反発が出ました。ツバルのイアンという交渉官は「先進国は私たちを買収しようとしている。私たちの将来は売り物ではない。」と言っていました。その通りだと思います。だから人参をぶら下げて「これに合意しないと、あんたら資金も行かないよ。」という言い方は加害者としては随分傲慢ですよね。
異例づくめのCOP15
COP15というのは非常に異例づくめでして、しかし120カ国近い首脳が集まったことは、私は正直言って感慨深いですね。1つの環境のテーマでこれだけの人が来るということは凄いなあと思います。人数制限も凄かったですね。4万人の内の3万人近い人が7千人に絞られて、最後は900人説も500人説もあるのですが、殆んど入れなかった。私自身も最後の2日間は入れませんでした。歩くのが困難なくらい本当に人で溢れていましたね。これは後でご報告があると思いますが、10万人のバレードです。非常に私自身も参加して良かったですね。平和的でフレンドリーで本当に良いパレードでした。2時から始めて6時ごろになったと思いますが、これだけの人が参加しました。なかなか今日本ではないですね。モントリオールは4万人でしたが、それを遙かに超えた。私は警察発表が3万人だったので5万人ぐらいかなと思って最初書いたのですが、その後、警察も9万人と直しましたから、おそらく10万人集まった事は間違いないです。
日本の課題は?
今後の課題ですが、やはり先ほど津村さんがおっしゃった25%を後退させないことで、「実効性ある25%削減の政策と措置を立案し、実行すること」だと思います。実はCASAでは22日に新たにモデルを作って、政府がやっているのとほぼ同じようなモデルが出来たと自負しておりますが、25%削減出来ると提案しました。また詳細に報告を出しますが、炭素税を導入するだけで、大体トン当たり1万円で、90年比4.4%ぐらい削減出来るのですね。それでいろんな技術を積み重ねることで24.8%ぐらい削減出来ます。そういう意味では25%削減が国内対策でする事は可能だと一応提案しました。これが本当に正しいかどうかという問題もありますが、やはりこれからこれを基に政府とか産業界とかと議論して行きたいなと思っています。
CASAの25%削減提案
一応CASAもやっと5年越しでモデルを作りまして、こういう試算をしました。これはそういうことで書いてあるのですが、COP16に向けて合意ができるかどうか。私は出来ると思っています。そんな心配はしていません。心配していないと言ったら嘘になりますが、実は1月31日までに各国がリストに各国の目標を書き込むかどうかが1つの焦点なんですね。書き込むということは、このコペンハーゲン協定を自分の国が認めて前に進めようという意思表示になります。昨日、ブラジル・南アフリカ・中国・インドがここに自分たちの目標を書き込むことに合意していて、日本も25%は動かせないことを政府が決めています。それを1月末までにリストに書き込むことを決めたようですね。そういった意味では、あとアメリカがどう出るかなんですが、そういった国がこのコペンハーゲン協定を前に進めようとしている。これは不十分点はあるけれども、不十分点はこれから協議する。前進面は後退させないことがこれから必要です。そういう意味ではBASIC、主要な国がこれに名前を連ねるということは非常に大きな前向きの行動だと思いますし、評価していいんだろうと思います。
COP16で合意は可能か
それから、私は120名近い首脳が集まったこと、10万人近い市民がパレードをした、4万人近い参加者があったということは、やはり世界の意思はこういった合意を進めることに向いていると思いますし、このモメンタムを失わなければ合意は可能だと思います。それほど悲観はしていません。ただCOP16が非常に重要になったなと思っています。どうも有難うございました。
地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)
専務理事 早川 光俊 氏
こんにちは、早川と申します。ご紹介いただきましたようにCASAという団体で地球温暖化問題に今は主として取り組んでいます。COP15という会議が開かれて、この中でもたくさんの人に参加していただきました。去年から関西の生協の皆さんと一緒に「温暖化防止COP15ネットワーク関西」という団体を立ち上げまして、この1年間主に林業・漁業・農業と温暖化の関係についての学習会を関西各地でやってきました。その集大成と言いますか延長線上で、生協の皆様を含め41名の方がネットワーク関西でこのCOP15に参加しました。そのご報告は後で詳しくあると思いますし、また報告書も出ていますので、この辺は後に任せまして、私はCOP15はどんな会議だったのか、どんな事が決まったのか、そしてその成果と課題は何なのかという辺りをお話出来たらと思います。
非常に報道自身が混乱しています。私も帰って来てから日本の新聞を大体見たのですが、正確な報道が殆んどなかったですね。最終的には非常に混乱した会議になりましたので、無理もなかったのですが、そこら辺も少しお話が出来たらと思います。
国際交渉の経緯
条約交渉の経過はもうご承知の通りですけれども、この地球温暖化問題の議論が国際社会で始まったのが1988年の頃からです。そして1992年のリオのサミットが開かれて、そこに大阪の生協の皆様も随分参加していただいたのですが、そこで「気候変動枠組条約」が直前に合意されて署名が始まるということになりました。何故こういう条約が必要だったかと言いますと、温暖化問題というのは一つの国が対処しても全く防止が出来ない。世界中の国が協調して対策に取り組まないと対応出来ないという課題です。例えば日本は先進国で2番目の排出量があります。4.2%位ありますが、日本が全部CO2の排出を止めたところで4.2%にしかならないということになるわけですね。だから国際的に協調した行動が必要だということで、こういったたくさんの国が参加する条約(多国間条約)を作ったわけです。そして、この気候変動枠組条約自身は非常に不十分だったこともあって1997年に覚えておられると思いますが、京都で開かれたCOP3という会議で「京都議定書」という条約が出来ました。気候変動枠組条約が親のような条約として、京都議定書はその子どものような条約ですが、法的にはまったく同等の条約です。出来て対策が進むかというと、この議定書が動き出すまでに8年かかりました。55か国と先進国の55%以上のCO2排出量を占める国が批准参加しないとこの京都議定書を発効しない、効力を生じないという規定になっていまして、それが整ったのが2005年の5月16日ということになります。そして京都議定書は2008年から20012年までの削減目標しか定めてないので、2013年以降の削減目標を決めなければいけないということで、成立・発効と同時にその2013年以降の議論が始まったわけです。それが2005年12月にモントリオールで開かれたCOP11、CMP京都議定書の締約会合の第1回会合で始まりました。そしていろいろ紆余曲折があったのですが2007年のバリで開かれたCOP13、CMP3という会議で2009年末までに2013年以降の目標を決めようということでコペンハーゲンが非常に重要な会議だったのです。昨年12月7日から2週間の予定でコペンハーゲンでこの会議が開かれました。
今となっては、なぜデンマークでやったのかなという気がするのですが、上がラスムセンというデンマークの首相です。私なんかから見ると非常に強引な方に見えました。下がコニー・ヘテゴでデンマークの環境大臣というふうに考えていただければいいのですが、COP15の議長さんに就任された方です。実はこの方は最終的に最後の4日間位は議長を降りまして、ラスムセン首相が議長に就きました。120カ国近い首脳が集まったので、大臣が議長をするのは荷が重たいということもあったんでしょうけども、現地の新聞では更迭というような表現もありました。必ずしもコニー・ヘテゴさんに責任があるとは思わないのですが、そういう経過をたどりました。
これは会議場です。非常に広い会議場でした。もともと国際見本市なんかをやるような会場のようで、参加者も多く、最後に申しますが登録が4万人を超えたと言われています。通常は1万人前後です。最大の会議がバリだったと思いますが、1万人をちょっと超えたくらいです。COP3は非常に多かったと言われても1万人弱です。それからポーランドでやられたCOP14も1万人前後だったと思います。その4倍の人がここに集まったということになります。
COP15は、何故、重要だったのか・IPCC第4次報告書の知見
2007年にIPCCという世界の2500人とも3000人とも言われている研究者・科学者たちが集まった国連の機関が第4次報告書を出しました。皆さんもご承知のとおりだと思います。そこで、「産業革命以前から2℃を超える平均気温の上昇は、人類を含む地球上の生態系の健全な生存を脅かしかねない」という警告を発して、そしてその為には2015年までに世界のCO2排出量をピークから削減に向かわせる。あと5年ですよね。そして世界全体の排出量を2050年までに半減以下にする。とりわけ先進国は2020年までに1990年に比べて25~40%減らしなさい。1990年という年は結構重要でして、世界全体の排出量は90年から現在まで25%以上増えている。どこを基準にするかでだいぶ変わって来るのですが、基本的には基準年を1990年と考えても25~40%減らさないといけないということになります。
2つの作業グループ(AWG)
それと2009年、去年が大事だったのは、2013年というのはあと3年あるのですが、これまで京都議定書が各国に批准するまでに8年かかってるわけです。そういうことを考えると、出来るだけ早く合意を成立させて各国が批准の手続きに入って、これを発行させないと、2012年が終わった段階で次の削減目標が動き出していないという可能性があります。だから少なくとも3年位前に合意しとかないとだめだろうということで2009年という数字が出てきました。私たちは2008年の段階でもう合意すべきだと主張してたのですが、実は2008年というのはアメリカの大統領選があったのですね。オバマさんが大統領になりましたが、その大統領選をやっている横でこんな議論をしても少しも前に進まないから、大統領選の結果を見て、1年位経ってからいろんな議論をしたらいいのではないかというのが、大体世界の相場観でして2009年ということになりました。
IPCCの報告はここに書いてある先ほど申し上げた通りですね。先進国だけではなくて途上国も一定の排出抑制をしろということもその分析から出てきます。成り行き排出量というのは、要するに途上国は放っておいたら右肩上がりで上がってしまうラインから15~30%抑制する。削減まで行かないけれども抑制をする。右肩上がりの角度を少し緩やかにするような行動が途上国にも必要だということが示唆されています。実は今世界最大の排出国は中国になりました。これまでずっとアメリカだったのですが、アメリカを抜いて中国になって、年々その差を大きくしています。1番目が中国、2番目がアメリカ。2つの国で50%に近いです。そして3番目にロシア、4番目が日本を抜いてインドになりました。そして日本が5番目ということです。日本が約4.5%位だと思いますが、そういった排出量です。先進国と途上国を比べると、そろそろ2015年位までには先進国よりも途上国全体の方が排出量が大きくなると言われていまして、先進国だけが対策を取るよりも途上国にも何らかの削減行動、温暖化防止になるような行動を取ってもらわないと温暖化が防げないということから途上国も何らかの行動を取るということも交渉のテーマにあがりました。
これもややこしくて申し訳ありませんが、2つの枠で動いています。条約と議定書です。簡単に言うと、気候変動枠組条約はアメリカが参加しています。京都議定書はアメリカが参加していません。ブッシュ大統領が2001年に当選して、1月に就任式をやって、3月28日に京都議定書の交渉から離脱してしまったので、アメリカはこれに参加していない。そうすると、京都議定書の枠組と条約の枠組と今温暖化問題で国際的に2つの枠組がある。ほとんど重なっていますし、契約国やこれに参加した国もほとんど変わりません。今世界中の国が条約に参加していますし、議定書もあと数カ国残すだけです。しかし京都議定書に非常に排出量の多いアメリカが参加していないということもあって、2つの条約の会議と議定書の会議では、2013年以降の問題についても、条約の下での特別作業グループと議定書の下の作業グループの2つを作って議論が進められています。議定書の下では、京都議定書は先進国の削減目標を定めた条約ですから、2013年以降のアメリカを除く先進国の削減目標を決める交渉が行われています。もう一方で条約の方はアメリカが参加していますから、アメリカとか議定書では削減目標の義務を負っていない途上国を巻き込んだ議論をしようということで、ここに書いてある5つのテーマについての交渉が進められています。そして、この2つの作業グループの結論をコペンハーゲンで得て、そこで合意を成立させようということになっていました。1つの議定書を合わせて作るのか、2つ作るのかというような法的形式についてはいろんなオプションがありまして、そして立場の違いによって意見が分かれて、これが今回のコペンハーゲンでの合意を阻む1つの要素になりました。法的問題なので少し省きます。
そして、これに向けて先進国は全体で2020年までに25~40%削減ということでIPCCは言っているわけですが、先進国がコペンハーゲンまでに「うちはこの位やる」と言ったのが、日本が−25%、EUは−25~30%、ノルウェーは−40%、カナダなんかは−3%、アメリカも−3%です。先進国全体が公表している削減目標を合わせても−12~−18%位にしかならない。この幅があるのはいろんな条件が付いていて、そう簡単に比較できないので、多めで18%少なめで12%みたいな事になるわけですが、要するに25~40%には届いてないということです。この中で、日本は鳩山政権になってから−25%というのはコペンハーゲンまではトップランナーに近かったですね。ヨーロッパは−20~−30%で、どっちにするかは交渉次第だと言っていました。もちろん日本も−25%は他の国がやるならばという条件付きですけれども、それ自身は評価されました。先ほど津村さんもおっしゃったように中身はどうだという話はまた後でします。そして、途上国も一定の数字を置いてきました。特に昨年11月にモントリオールで最後の作業グループの会合が開かれて、私も参加したのですが、その段階で中国とかインドは全く自分たちの数字を言っていなかった。南アフリカやブラジルもまだ言ってなかったですね。これベイシック、BASICと言ってますが、BAがブラジル・Sが南アフリカ・Iがインド・Cが中国で、これが非常に重要な国でBASICと言ってますが、こういった国々がコペンハーゲンに向けて、それぞれが抑制目標の数字を言ってきました。ブラジルは中期目標で36~39%、それから南アフリカは34%、成行きの排出量から34%という数字を置いてきました。中国とインドはGDPあたり、要するに国内総生産あたりの減単位を40~45%、20~25%削減するということです。どう違うかと言いますと、総量削減が全体として減ります。減退削減というのは、排出量が増えてしまうと結果的には前より増えてしまうのです。例えば大気汚染で総量削減では全体に減りますよね。しかし例えば煙突の口で何ppmというと、確かにそこは絞れば減るのですが、煙突からの排出量がど~っと10倍に増えてしまえば10分の1の排出割合にしても同じになってしまいます。そういうようなことがこの中国とかインドにも言えまして、この数字自体はそんなに褒められた数字ではありません。ただ私自身は中国とインドがこのCOP15の前にこの数字を発表したのにはびっくりしましたし、評価すべきだと思いました。いずれにせよこれまで、きちんと先進国が削減目標を合意しなければ、我々が行動するということにならないと非常に強く主張してきましたから、それがこういった自らの数字を発表することになったというのは、結構私は追い詰められたのかなという感じがします。中国もアメリカを抜いて世界一の排出量になって、私はやらんとは言いにくくなったのだろうと思います。確かに中国はまだ一人当たりは日本の3分の1程度、アメリカの5分の1程度なんですが、世界一の排出量になってしまったのでそうも言っていられない。この発表するにあたって中国は、実はインド・ブラジル・南アフリカ・スーダンという途上国の議長国を北京に呼んでいるのです。それで、打ち合せをした上でこの数字を発表した。どうも中国というのはこのブラジルとか南アフリカ、インドに対して総量削減ではなくて、GDP当りの減退削減で足並みを揃えようというふうにしたようですがどうも上手くいかなかった。南アとかブラジルはそれでは足りないと考えたようで、結構前に踏み出した目標を提起しました。
資金問題
そして、もう1つコペンハーゲンに向けての大きな問題が資金問題です。途上国が削減行動を促進し、気候変動の悪影響に対処するためには多額の資金が必要です。しかし途上国にはそういった資金がありません。ですから先進国からの資金援助が不可欠です。実は1992年に合意された気候変動枠組条約にもそういった事が書かれています。先進国の中の経済的に豊かな国、OECG諸国ですね。ヨーロッパの15カ国と環太平洋の先進国。アメリカ、カナダ、日本、オーストラリア、ニュージーランドといった国ですが、こういった経済的に豊かな国は途上国に対して資金・技術援助をしなくてはいけないということが書かれていて、京都議定書にも書かれています。そういった事も含めて、ちゃんと資金を途上国に援助しなくてはいけない。援助と言いますと、分け与えるみたいなイメージになりますが、基本的になぜ必要かというと、途上国はその国がどれくらいの排出量があるのか、何処からどのくらい出てるのかというデータが無いわけです。そのデータを取るためにもお金が必要です。システムやそういった事が出来る人材を育成するためにもお金が必要で、それすら無い国が多いわけですね。そういう意味では、そういった事をしないとそもそも温暖化対策が進まないということもありますし、これまで温暖化問題を引き起こしてきたのは明らかに日本を含む先進国です。工業化した国ですよね。また工業化して行くにあたって、途上国からいろんなものを収奪してきた事も間違いないだろうということです。かつては植民地という形で収奪してきたわけですし、植民地支配が終わった後でもいろんな形での先進国への吸い上げは止まっていない。そういった事からも資金問題というのはテーマになりますね。
そして、そこでの論点というのは2012年京都議定書が終わるまでの短期の資金をどのくらいにするのか。そして2020年までの中期の資金をどのくらい確約出来るのか。資金源は公的資金なのか、民間資金なのか。そしてその資金を運用するのはどういったところに任せるのか。ここで非常に深い、途上国と先進国の溝があったわけですね。これも非常に大きなテーマになります。そういう意味では先進国なんかはここで一定の人参をぶら下げれば途上国はなびいて来るよみたいな、合意してくるというような事を言っていました。外務省の人としゃべっていると正直言ってそこが腹が立つのですが、「要するに彼らは金なんだ。」という言い方をしますね。「金さえ出せば何とかなるんだ。今いろんな事を言ってるが結局金が欲しいだけだ。」と言いますが、私は本当はそうじゃあないと思います。そういった途上国のお役人さんがいることも確かですし、そういった国があることも確かでしょうけれども、本当にもう温暖化の影響で国が無くなりそうになっているスバルは金だとは思いません。子ども達がどんどん命を奪われている後発開発途上国が本当に金だけを目当てにこの交渉をやっているとは、私には思えないということです。
必要な資金額
適応策、今起こってる温暖化の影響、これから起こるであろう温暖化の影響に対応するためには、2030年までに100~400億ドル。2030年に500億ドル以上。これはワールドバンクとオックスファムというNGOの試算でちょっと数字が違うのですが、これくらいの試算です。途上国における削減をするためには、UNFCCCという条約事務局ですが、ここでの試算で2000~2100億ドル、日本円にすると20兆~21兆ぐらいです。技術移転についてもIEAという国際エネルギー機関がこういう数字を出しています。
何に合意すべきだったのか
コペンハーゲンでどんな合意を成立させるべきだったのか。1つは2℃未満目標の確認です。温暖化の究極の目標をどこに置くかといういろんな議論があります。私はまず温度だろうと思います。何度までの上昇が地球上の人類を含めて生態系に耐えられるのかを科学的に決めて、そこから大気中の温室ガス濃度を決める。そして、その濃度から排出量を決めて行くという経路が一番正しいんだろうと思います。ですから、まず産業革命以前から2℃未満にするということを交渉する。気候変動枠組条約も京都議定書も目標として確認することが第一の必要な作業だっただろうと思います。2番目に2015年までにピークから削減に向かわせる。これは世界全体です。世界全体という時は途上国も含むと考えて下さい。途上国を含む目標を主要途上国が徹底して抵抗したというのが、今回のコペンハーゲンの合意を阻んだ大きな原因なんですが、ここのピークアウトの年をいつにするか。それと2050年までに世界全体でどこまで減らすのか。具体的には50%以上という数字を書き込むかどうか。そして先進国は2020年までに、90年比25~40%という数字を書き込めるかどうか。合意出来るかどうか。また各国の目標がそこまで到達するかどうか。それから、先進国だけではなく途上国も2020年までに一定の削減行動、IPCCによれば成り行き排出量から15~30%の幅での合意が出来るかということ。それから、途上国に対する資金援助が約束出来るかどうか。ここら辺がテーマです。細かい点は山ほどあるのですが、主要にはここら辺の合意が目指されたようです。これを条約の方で合意するか、議定書の方で合意するか、1つにするかといろんなやり方があるわけですが、中身としてはこんなものが目指されたということです。そして、こうした仕組みが法的拘束のあるものが必要だったということであります。
先進国と途上国との意見の対立
先進国と途上国には大変深い意見の対立がありまして、今年だけで5回位の交渉会議が開かれていますが、だんだんだんだん溝が深まって来たような感じがしました。私はその内の4回出たのですが、だんだん溝が深まって来てる感じがしました。要するに先進国が先にちゃんとした削減目標を決めろという途上国と、いや途上国も一緒に議論して一緒に決めようという先進国です。先進国に言わせると、先に決めてしまうと途上国にいいとこ取りして逃げられてしまう可能性がある。だから切り札を先に切ってしまうわけにいかないと言いますし、途上国は先進国が世界全体を決めて、先進国が甘いことになっては困るというような、端的に言えばそういった争いが、ありとあらゆるところに、どんな合意の形式にするかも含めて出てきます。途上国は表面的には先進国が2020年目標が不十分である為に世界全体の2050年目標には反対するということで、この事はG8サミット、洞爺湖もそうですし、去年のイタリアでのラクイラサミットでもそうですが、ずっとこれは失敗してきました。先進国自身の2050年目標は大体合意が得られるのですが、途上国を含めた世界全体の2050年目標はずっと中国・インドなどが反対するために合意が得られないという経過が続いていまして、これがここで合意を得られるかというのは非常に大きな問題です。そして、そこに資金の問題が絡む。COP15までは先進国は2012年までの短期の資金については一定のコミット、要するに出すような姿勢を見せていたのですが、2020年目標までの資金については殆んどコミットしてませんでした。日本政府もそこは今の財政状況では全く約束出来ない、全くアイディアが無いと言い続けています。COP15の1週間目もそんなことを言い続けていました。環境大臣が来てちょっとは変わったのです。
コペンハーゲンの結果
要するに、交渉を続けることを決めただけです。そして、ほとんどの問題を先送りしてしまったというのが今回の結果です。そういう意味では失敗だということも可能だと思いますし、私は途中でもうこれはあかんなと思って、CASAの声明を書いていて3つか4つ書いて、「もう決裂」という声明を書いたのですが、最終的にはそれは捨てましたが。まあ非常に中身的には不十分で、合意を目指しながら合意が出来なかったという結果です。新聞によっては合意が出来たと書いてあったところもありますし、合意の決議をしたと書いてあるところもありますが、両方とも間違っています。これはどうなったかと言いますと、コペンハーゲン協定案が作られて、これが全体会議にかけられた。このコペンハーゲン合意というのが密室で20数カ国、2ダースと書いてありましたが、その位の首相が集まってこの協定案を作ったのです。最終日の夜中までかかって作ったのですが、その中心がオバマさんだった。オバマさんもこのコペンハーゲンには12月9日に来る予定だったのですね。12月10日にオスロでノーベル平和賞の授賞式があったので、その前にコペンハーゲンに寄ってオスロに行って帰る予定だったのですが、最終的にコペンハーゲンの会議が始まった直後に予定を変更して、9日に来るのを止めて最終盤に入る予定に変えたのです。120名近い首脳が集まったのですが、今回はこれも異例でして、私が12月5日に日本を発った段階では75という数字を聞いていました。ところが、会議が始まるとどんどん首脳の参加表明が続いて220名近くになったという、ちょっと異例の経過をたどったということです。オバマさんもそうですね。来る事は来るけども、日程を合意を目指す最終盤にずらしたということです。
このコペンハーゲン協定が提案されて総会に諮られた。19日になっていましたが、ボリビアなど4カ国が異を唱えました。非常に激しい議論が行われました。私たちは最終盤2日間は会場に入れませんでしたが、テレビ中継をコンピュータで見ていて、ラスムセン首相がいきなりこれを提示して、1時間でこれを読んで賛否を決めて来いと言ったんですよ。すごいなあと思いました。こんな事をやってるのをほとんどの国は知らされていなかったし、実際に自分の国の首相も招待されていないし、そこに参加もしていない。それがいきなり検討して答えを出せと言われたものだから、それは怒りますよね。結果的には4カ国が最後まで反対しました。国連というのはコンセンス方式ですから、全会一致、全会一致といっても賛成ではありませんが、1カ国も異議がないという方式です。みんな賛成で手を挙げるのではなくて、異議のあるところは札を立てると異議になります。1か国も札を立てないというところで決議をするのですが、4か国が異議を言ってしまったので決議が出来ない。だから決定にならないということになります。そして、その後いろんな議論があって、ラスムセン首相がぶち切れてもう止めたという感じになったのですが、また密室の協議が広げられて、ラスムセン首相はそれから出て来なくなってしまったんです。副議長が議長の席について、結局「留意」という形での決定をしました。意義の言った国が4カ国ありましたので、正式の決定にはなっていません。だから条約交渉の正式の決定にはならなかった。留意という形の決定を採択したということです。
私はこの合意案を見た時に、こんな弱いものはない方がいいなと正直言って思いました。20回位変わっているのですが、どんどん弱められていって、非常に弱いものになったので、こんな公約は無い方がいいなと思いました。これではとてもじゃないけど、小島嶼国とか低開発途上国、後発開発途上国は賛成しないだろうと思ったのですが、実際は手続きに対する異議はあったのですが、中身については苦渋の決断で、非常に弱いけれど無いよりは有った方がいいと、資金供与も約束されているし、これを議論の出発点にしようと、特に弱い途上国から相次ぎまして、それで私も考えを変えたのです。そういう経過もあって、留意付きの決議という形で、ボリビアなどの4か国も反対しなかったので決定しました。どういうふうに違うのか。そもそも異議なしで決定したところで拘束力はありません。法的拘束力を条約で与えるには、その国が批准という手続きをしないと法的義務は生じません。それぞれが私権国家ですから、ツバルも1万人の私権国家ですから、そういった私権を持った国家に義務を負わせるのは、具体的には日本では批准手続きですね。内閣が批准して国家が承認しないと発生しないわけです。そういう意味では、そういった手続きをしないとだめですから、条約になって、批准してそこに参加しないと義務が生じないということがまず基本です。では、COPの決定はどんな意味を持つのかというと、そこに意義がなかったということで、それに反する行動とか反する交渉が許されなくなるのというふうな効力があります。しかし、今回の留意付き決議はそこまでいかないので、この決議をどれほど重視するかは各国に任されています。だから留意付きのコペンハーゲン協定が今後交渉の指針になるのか、それとも無視されてしまうのかは、これからこの交渉に参加した国が、このコペンハーゲン協定にどういう態度を取るかにかかっています。決定ならば、それでそこに向かって動き出して、それに従って交渉が進められるのですが、今回はそうはなっていませんので、どの程度の国が重視して来るかにかかっています。
不十分なコペンハーゲン協定
どこが不十分なのか。2℃というのは言及されているのですが、2℃未満を目標に出来なかった。ビークアウトについては、いつCO2の排出量を最大限にして削減に向かう年については、IPCCは2015年と数字を提示していますが、これは当初の案には書き込まれていたのですが、これは削られてしまいました。2050年世界全体の削減目標についても、当初の案では50%以上という数字があったのですが、これも全く言及すらない。数字がないだけではなくて2050年目標ということすらなくなってしまったということです。最大の問題は、今の京都議定書は先進国の削減目標には法的義務がかかっています。法的拘束力がかかっていますが、その事が明らかではない。コペンハーゲン協定の別表に各国が自分のやろうという数字を書き込むだけ、それが法的拘束力があるものかどうかが明らかではないというものになってしまった。これも当初には法的拘束力のあるものと書いてあったのですが、それも無くなってしまった。そして、本来はここで出来ればCOP16で合意を目指すものについては法的拘束力のあるものにしようと書き込んで欲しかったのですが、それすら無くなってしまった。だからCOP16で合意を目指すことになっていますが、その合意が法的拘束力のあるものになるかどうか、京都議定書なみのものになるかどうかは全く分らないという中身になっています。
1番の問題は2番目です。せっかく法的拘束力のある削減目標に合意したものが、またもっと弱いものにされてしまいそうだというのが一番の問題だということです。
コペンハーゲン協定の前進面
しかしそうは言っても前進面もあります。何といっても2℃ということを認識することが書き込まれています。アメリカや途上国が各国の削減目標や削減行動をリストに書き込むことになっています。アメリカや途上国はこれまでそういうことを認めてきませんでしたから、一応リストに書き込むことを承知したわけですよね。そして資金供与についても先ほど示した必要額には及びませんが、2012年までには300億ドル、2020年までに1000億ドル、これは毎年です。1000億ドルというのは10兆円ですね。これは結構大きな数字ですよね。この倍ぐらいが必要額だと言われていますが、これはこれなりに評価出来ると思います。何よりもこれが、アメリカのオバマ大統領を始め各国の首相が参加して一旦は合意したのです。20数カ国の中には世界の主要国もトップも入っていますから、実は中国は入ってなかったのですが、そういう意味ではオバマ大統領はこの前進面に賛成した事についてはアメリカはそれより下がらないだろうという期待を持てるわけですね。オバマ大統領が2℃と言ってそれで良しと言ったのに、アメリカがこれから違う行動を取るというのは非常に難しくなる。そういう意味ではこのコペンハーゲン協定が20数カ国の主要国首相が作成したというのが非常に重要であるということです。
協定を採択できなかった原因
先ほど申しましたように、ラスムセン首相の強引な進行というのは大いにあったと思いますね。この方は非常に強引な方で、先ほどの1時間で検討しろというのもそうですが、途中で「この協定に反対なのは何カ国あるの?」と聞いて、4か国が手を挙げたら「たった4カ国か。じゃあ採択しようか。」と言ったのですね。国連の採択方法を全く知らない。ちょっと唖然としましたがね。慌ててイギリスの外務大臣が「4か国は下に名前で書く方法もあるよ。」みたいな事を言っていましたが、いずれにしても非常に強引な方です。
最大の要因は、やはり地球温暖化の原因者である先進国がIPCCの知見に沿った削除目標25~40%ということを掲げなかったことです。実はこの会議の状況をイギリスのガーディアン紙という新聞に掲載されました。次のこの下に書いてあるマークルナスという人ですが、フリーのライターのようですが、この20数カ国の首脳が協議している場にいたのだそうです。「私はその部屋にいて、何が起こったかを見た」と書いてあります。実際にいたみたいです。そして何が起こったのかをここに書いてあるので、興味のある人は読んでもらったらいいのですが、オバマ大統領の隣に誰が座って、そして誰が何を言ったかというのが全部書いてあります。オバマ大統領はその時法律家になって、非常に積極的に交渉を進めようとしていた。そしていろんな事を提案するのだけれど、中国の下級官僚と書いてありますが、温家宝はそこにはおらずに外務省の下級官僚がことごとくノーと言ったというふうに書いてあります。オバマ大統領の正面に座っていたのです。あろうことか先進国の削減目標を書くことにも中国は反対した。ドイツのメルケル首相は「なぜ、私の国の目標をここに書き込むことが駄目なんだ。それを拒否されないといけないのだ。」と怒った。オーストラリアの首相はマイクを叩いたと、ブラジルのルラタンという大統領も「中国の言うことには理由がない。」というふうに言ったとか書いてあります。そしてすべての提案を中国はノーと言って拒否して、時にはその下級官僚が協議してくると言って電話をかけに行くと、各国20数人の首相がポカンとその結果を待ってるみたいなことがあったというふうに書いてありました。どこまでが本当かというのは分かりませんが、大まか本当のことかなと思います。どうも彼はモルジブという国の政府関係者としてその会議に参加しているらしいのですね。首脳を中心にしてその周りに5~60人の人がいたというのですから、その中の1人でしょう。だから表面的には中国がこれを阻んだというふうにも言えるのですが、ただそれを一定の国が支持したというのは、やはり先進国がいなかったことが根本的な原因だろうと思います。中国をそういうことでけしからんというのは簡単ですが、そういうことで物事は解決しない。
だから資金援助にしても、途中でイギリスのミリバンドという外務大臣が「あなた達はこれで反対すると資金供用も無くなるんだよ。それでもいいの?」ということを言った時には、すごい反発が出ました。ツバルのイアンという交渉官は「先進国は私たちを買収しようとしている。私たちの将来は売り物ではない。」と言っていました。その通りだと思います。だから人参をぶら下げて「これに合意しないと、あんたら資金も行かないよ。」という言い方は加害者としては随分傲慢ですよね。
異例づくめのCOP15
COP15というのは非常に異例づくめでして、しかし120カ国近い首脳が集まったことは、私は正直言って感慨深いですね。1つの環境のテーマでこれだけの人が来るということは凄いなあと思います。人数制限も凄かったですね。4万人の内の3万人近い人が7千人に絞られて、最後は900人説も500人説もあるのですが、殆んど入れなかった。私自身も最後の2日間は入れませんでした。歩くのが困難なくらい本当に人で溢れていましたね。これは後でご報告があると思いますが、10万人のバレードです。非常に私自身も参加して良かったですね。平和的でフレンドリーで本当に良いパレードでした。2時から始めて6時ごろになったと思いますが、これだけの人が参加しました。なかなか今日本ではないですね。モントリオールは4万人でしたが、それを遙かに超えた。私は警察発表が3万人だったので5万人ぐらいかなと思って最初書いたのですが、その後、警察も9万人と直しましたから、おそらく10万人集まった事は間違いないです。
日本の課題は?
今後の課題ですが、やはり先ほど津村さんがおっしゃった25%を後退させないことで、「実効性ある25%削減の政策と措置を立案し、実行すること」だと思います。実はCASAでは22日に新たにモデルを作って、政府がやっているのとほぼ同じようなモデルが出来たと自負しておりますが、25%削減出来ると提案しました。また詳細に報告を出しますが、炭素税を導入するだけで、大体トン当たり1万円で、90年比4.4%ぐらい削減出来るのですね。それでいろんな技術を積み重ねることで24.8%ぐらい削減出来ます。そういう意味では25%削減が国内対策でする事は可能だと一応提案しました。これが本当に正しいかどうかという問題もありますが、やはりこれからこれを基に政府とか産業界とかと議論して行きたいなと思っています。
CASAの25%削減提案
一応CASAもやっと5年越しでモデルを作りまして、こういう試算をしました。これはそういうことで書いてあるのですが、COP16に向けて合意ができるかどうか。私は出来ると思っています。そんな心配はしていません。心配していないと言ったら嘘になりますが、実は1月31日までに各国がリストに各国の目標を書き込むかどうかが1つの焦点なんですね。書き込むということは、このコペンハーゲン協定を自分の国が認めて前に進めようという意思表示になります。昨日、ブラジル・南アフリカ・中国・インドがここに自分たちの目標を書き込むことに合意していて、日本も25%は動かせないことを政府が決めています。それを1月末までにリストに書き込むことを決めたようですね。そういった意味では、あとアメリカがどう出るかなんですが、そういった国がこのコペンハーゲン協定を前に進めようとしている。これは不十分点はあるけれども、不十分点はこれから協議する。前進面は後退させないことがこれから必要です。そういう意味ではBASIC、主要な国がこれに名前を連ねるということは非常に大きな前向きの行動だと思いますし、評価していいんだろうと思います。
COP16で合意は可能か
それから、私は120名近い首脳が集まったこと、10万人近い市民がパレードをした、4万人近い参加者があったということは、やはり世界の意思はこういった合意を進めることに向いていると思いますし、このモメンタムを失わなければ合意は可能だと思います。それほど悲観はしていません。ただCOP16が非常に重要になったなと思っています。どうも有難うございました。