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講演録 『健全な生協運営に果たす監事の役割』

Ⅰ 改正生協法の概要と対応課題の全体像  Ⅱ.組織・運営規定改正の基本的考え方とガバナンス見直しの視点
【講師】 日本生協連   法規対策室長(兼)改正生協法対策室長 宮 部 好 広 氏

Ⅱ.組織・運営規定改正の基本的考え方とガバナンス見直しの視点


1.改正の背景
それから、11ページのところから組織・運営部分ということですね。組織・運営部分の改正の背景として非常に大きいのは、この1番目に書いてあることなんですね。「生協の発展とともに事業規模が拡大していること」それから、「その事業の種類も多様化・複雑化していること」これがまず1つあるわけです。大きな事業体であればあるほど社会的責任が大きいわけで、例えば、一時期ダイエーが潰れそうということでえらく騒がれた時期がありました。あの時、もしダイエーが潰れて破産していたら、その社会的影響というのは物凄い甚大です。ダイエーに納入している業者さんが物凄くたくさんいるわけですし、ダイエーにお金を貸しているところもたくさんあります。そういうところに、お金が返らないということになってしまうので、そちらの方が連鎖的に倒産する可能性もあります。倒産するということになりますと、そこで働いていた人たちは職場を失います。場合によっては、地域の雇用状況への影響も生じかねないわけでありまして、ある程度以上大きい規模の事業体というのは、そういう影響力を持っているわけです。ということは、適切にハンドリングして行って上手く運営していかないと大変なことになる可能性を持っているわけでありまして、その責任が事業規模の拡大と共に大きくなっている。事業主体としての判断が、このご時世でありますので来年まで待ってやればいいやということは少なくて、迅速に判断して執行していかなければいけないことが多くなっているわけですね。ですから、迅速・適切に判断できる体制やそのための運営ルールの整備が必要だということです。
それから、事業の種類が多様化・複雑化しているということもあります。このことによって管理が大変になって来ている。例えば、購買事業のうち、無店舗事業だけをやっていて他の事業をやってないということであれば、その事業だけを見てればいいわけですから比較的単純ですけれども、これが店舗もやり無店舗もやり共済もあり福祉もありというようなことで事業の種類が広がっていきますと、いろんな事を全部見なければいけない。トータルとしてどういう状況なのかというのを見て行かなければいけない。ということですので、なかなか大変な状況になっているわけですよね。そういうことを受けて、そういう経営管理がきっちり出来るような運営体制というのを法律でもちゃんと定めましょうということが、まず1つあります。
もう1つが、2番目のところにありますけれども、生協の活動に対するさまざまな分野での社会的期待が高まっています。社会的期待が高まっているということは、逆に言うと、その運営主体であるところの生協の運営のスタイルの透明性とか、そういうものの問われやすい構造になっているということですよね。このところ日生協では、2010年ビジョンを何年か前に総会で確認して、その実践をしましょうということになっているわけですけれども、その中の1つの課題として「開かれた組織としての運営の強化」ということも掲げています。この点はずっと前から実践的には問題になって来たことなんですけれども、そういう観点が今回の法改正の中にも一応反映されています。
このようなことから、改正が行われているのですが、その改正の概要については、カラーのパンフレットの4-5ページを開けて下さい。組織・運営規定の改正、機関運営関係部分の法改正の基本の考え方を真ん中において、法律上のルールの主な変更点がまわりに散りばめられているのですが、これが全部ではありません。実はもっとたくさんありますが、主なものをピックアップして書いているということですので、そのようなものとしてご理解いただきたいのです。実は、凄くたくさん変わっているところがあるのですが、「要はどういうことなんだ」ということがなかなか見えにくいのですね。ですから、多少乱暴なんですが、真ん中のところでは4本の柱でそれを整理してみました。
1つは、理事会というものをしっかり位置づけたということです。今まで生協法では理事会という機関はありませんでした。総会・総代会という会議体があって、そこが役員を選出します。理事・監事を選挙で選びます。そうしますと、理事は1人1人全員が代表機関であり、監事は独立性の機関としてあるというシンプルな構造であったわけです。この構造は、生協法が出来た頃にはごく当り前の機関構成で、株式会社でも取締役会という制度が入って来たのは生協法が出来たあとなんですね。その前は、株式会社も同じように取締役はみんな1人1人が代表権を持っているというのが基本構造で、ただ代表権を持つ取締役を絞ることはできるようになっていました。その後、半世紀以上の間に物凄く大きな変化があったのに、今まで生協は全く変わらずに来たので、法律上は理事会がなかったわけです。それでは、とてももたないので、今までは「模範定款例」というものを通じて、それぞれの生協の定款の中で理事会を設けるというふうにして来たわけですね。それでは、やはり意味が違うのですね。法律上、やはり会議体としては総会・総代会しかありません。だから、法律上はそこが基本的な管理を全部やらなければいけない。それで、各理事に与えられた権限の部分を定款の中での運用により、理事会と理事長・専務とかのところと分担してやっていくという構造になるわけです。今回は、理事会というのを法律上の機関としてちゃんと定めるということになりました。ここが大きな違いであります。それにまつわって理事会の権限というのが今までより強まる部分があります。それは、ごく限定的ではありますけれども借入に係わる部分です。今までは総代会の議決事項の中に借入金額の最高限度というのがあったわけです。これが総代会の議決事項ではなくなりました。それはどういう意味かと言いますと、今までは総代会・総会しか会議体というのがありませんし、理事会は各自代表で分担執行ですから、理事が勝手に借入をすると困るので上限は総代会で決めて管理しましょうということになっていたわけです。けれども、今回理事会という会議体ができましたので、それは理事会が管理すればいいということになったわけです。理事会のところでは、少なくとも多額に借入をする時は、個別に提案をして理事会で確認をするという形でやって来ているはずですから、借入について全て理事会に付議されるのなら、あえて最高限度額と決めなくてもかまいません。少額の借入については理事会決裁ではなくて、例えば専務決裁とか理事長決裁とか出来ますよとなっている場合に、借入金の最高限度額というのを年度を通して理事会で決めて管理するとかということが、今後は考えられると思います。重要なことは、総代会の借入金の管理というところに関して、総代会の権限から外されて、それは理事会でやりなさいということになったということで、この点については理事会の権限の強化と言えるかと思います。
あとは、こういう事で理事会の位置づけが明確化されて、権限も強化されるということがあるわけで、それとの関係で理事会の運営ルールも整備が必要になります。今までは定款で定めてやってきたわけですけれども、今までの理事会というのは、それぞれの生協が自分の都合で置いている機関であって、あくまで法律上の機関ではありませんから、その運営ルールというのは、他の法律の水準から見ると緩い面が結構あったんですよね。それで、他の法律の水準並みにということで引き上げられるという構造になっております。

まず1つ、直接は理事会運営に関する問題ではないのですが、代表権の構造が変わってきます。先ほど申し上げたとおり、理事は現行法の下では全員に代表権がありますということですね。ですから、今日たくさんお見えになっております理事さんは、法律上は代表権を持っているわけです。生協を代表して他と契約を結ぶとか、そういう権限を全員が持っているわけですが、ただそれは、余りに現実的ではないですよね。生協の理事は、結構たくさんいまして、日生協ですと40人を超えるわけですけれども、そういう人たちが全員代表機関ですというのは、普通あり得ないです。それで、理事会を設けて、例えば代表権を有する者は理事長だとか、理事長と専務だとかを定款に書いて、それ以外の人は代表権を行使しないよという約束事にしているのが現状であります。つまり、法律上は理事全員に代表権がある一方、定款では理事長や専務だけに代表権がある、いうのが現在の仕組みです。今後は、理事会で代表理事を誰にするかを決めます。代表理事を決めたら、その人だけに代表権がある。言い換えれば、他の理事には代表権がないという構造になります。
次に、理事1名でも必要な場合は、理事会招集が出来ますということです。理事の中に、代表理事とそうでない理事がいることになるわけですけれども、代表理事は業務執行の統括責任者になるわけですが、他の理事も理事会運営上は同格だというのが基本の発想です。従って、理事会の招集は例えば定款で理事長がやりますと決めることはでき、そうすると通常は理事長名で招集状が出されるのですが、そういうふうに決めたとしても、他の理事が潜在的に持っている招集権を完全に奪いきることは出来ませんということです。だから、すぐに理事会を開いて検討しないとまずいということがもしあれば、他の理事も理事会の招集請求を1人でできるということです。
3番目の理事会議事録のところですが、ここもルールが変わりまして、今まではやや緩いルールだったわけです。議長と議事録署名人2人。議事録署名人2人という方式は、他の法律ではほとんどありません。他の法律の標準は出席した理事・監事全員の署名、または記名押印が必要ということになっております。なぜ全員必要なのかということですけれども、理事会が法律上の機関となって、そこでの判断・決定というのが制度上の重みを持つようになったということは、後ほど出てくる役員の責任とも関係する部分が出て来るということです。従って、理事会のところで議事録がきっちり作られているのかどうかということについて、参加したみんなが点検する機会というのが保障されないといけませんというのが基本の考え方です。その表現として、全員の署名または記名押印を義務付けることがスタンダードになっていて、生協法もスタンダードになったということであります。これは、実務的には極めて大変でありまして、日生協でもどうしょうかと検討しておりますが、その中で有力な方法として、いろいろ株式会社の状況とか調べました。法律上は、電子署名という方式があります。普通、紙で作りますよね。紙で作ると、そこに手で名前を書いてハンコを押すのでいいのですが、ワープロソフトで作ったものをPDFにしたら中身が変えられなくなる、それに電子証明をくっ付ける、という方式も一応あるのです。電子署名方式は、株式会社では結構採用されているのかなと思ったのですが、いろいろ聞いてみたのですが、採用しているケースは全く聞きません。この前、電子署名のソフトを売っている会社が来て、プレゼンをしてもらったのですが、そのときに「お宅の会社では、これを使っているのですか?」と聞くと「うちは、使ってませんよ」と言うのです。株式会社でも社外取締役とか社外監査役とかいますので、全員の署名・記名押印は大変ではないかと思うのですが、いろいろ聞いてみると、「印鑑預かり方式」というのがあるそうです。一瞬、「え?!」と思ったのですが、良く聞いてみると、ちゃんと運用のルールが決められているんですよね。保管のルールを決めてきっちり管理するのが前提ですが、理事会の議事録の案を作ったら出席者に送り、そこには同意書兼押印依頼書という用紙をくっ付けておいて、OKだったら名前を書いてハンコを押して、送り返してもらいます。その依頼書に基づき、事務局が代わりにハンコを押すということです。この方式ですと、一気に全員に送れますから、それが戻って来たところで、順繰りにハンコを押せば良く、1通の議事録を郵送で回覧するより時間がよほど短縮できます。日本監査役協会というのがあって、そこの理事さんにお話を聞いたのですが、この方式は弁護士もいいと言っているというお話でした。こんなお話も参考にしていただきながら、皆さんのところでも、それぞれに実現可能な方法を考えて頂けたらいいと思います。地域が限定されている場合は、例えば1週間事務所に置いておくので、この間に来てハンコを押しておいて下さいとかいうのも可能かもしれません。
それから、理事と生協との利害が対立する取引というのは理事会の議決事項になりました。今まで、このような取引は、監事が生協を代表するということになっていたんですね。生協と理事との利害が対立する取引のうち、理事個人との取引というのは、実はあまりないのです。利害が対立しようのないものはあります。例えば、組合員として生協共済に入るとします。生協共済に入るということは、共済契約を生協と結ぶということです。理事と生協が契約をする場合にあたりますが、生協共済の契約の中身というのは規約で決まっていて、動かしようがありません。ですから、理事と生協が契約をする時と言っても、理事が自分の地位を利用して不当に自分に有利な契約を結ぶことはできっこありませんので、こういう契約は対象になりません。結構あるのが関連会社や子会社の代表取締役を生協の理事が兼ねているというケースです。こういう場合、代表取締役が関連会社、子会社を代表して生協と契約を結ぶというのは、理事個人としての取引では無いのですが、利害が対立する可能性があるので、対象になります。今までは、監事が代表権を持つということでやっていたのですが、今後は監事の代表権という形では無く、理事会に事前承認を得たら、通常通り代表理事が代表して構いませんというルールに変わりました。
2番目の柱は、監事のところです。今まで総代会が直接管理するという発想で作られていたものが、理事会の管理権限というものがきっちり位置づけられるようになったので、ある意味その部分は総代会から離れてしまうわけですね。それで、総代会から離れた部分についてきちんと管理運営されるようにチェックする役割はどこかというと、やっぱり監事になります。こうした意味で、監事がその理事会ないし代表理事が行うことについてチェックをする権限が強まったというのが、2番目の柱です。例えば、1つは総代会の提出議案書類の調査です。総代会に提出する議案のうち、決算書類はもちろん監査する必要があるわけですけれども、今までは、それ以外に総代会に提出する議案とか書類について調査しなさいと法律上は書いていなかったわけです。監事は理事会に出席していますし、総代会事項というのは理事会に付議されるので、その時に気がついたら言わなければいけませんよというようなことはあったのですが、法改正によってきっちりと調査をしなさいということが義務付けられました。そういう意味で言うと、総代会に提出する議案を確定する理事会がありますよね。その確定する理事会の前に、監事に調査の期間を保障しないといけないということになります。理事の不正の差止請求権、理事と言っていますが、業務執行関係でやっている理事が主に対象になるかと思います。あってはいけないケースなのですが、理事が法令定款に違反する行為をしようとしている。例えば本当は理事会の決裁を得てから契約しなければいけない位の規模の契約なんだけれども、理事会の決裁を得ないで独断でやろうとしていることが分かったとします。それによって、著しい損害が生協に生じるおそれがありますという場合は、監事が止めなさいと待ったをかけられますという権限です。これは、非常に強力な権限ですので、乱用は厳に謹んで頂かないと生協にとって悪い結果になってしまうということでもあります。
それで、監事の独立性保障というところがありますが、理事・監事の任期というところも変わっています。任期について、今までは3年以内で定款で定めましょうというふうになっていて、実際に皆さんの生協では2年と定めていると思います。改正法の下ではどうなったかと言いますと、理事は2年以内で定款に定める、ということなので今まで通りで大丈夫です。逆に監事のところは延びました。4年以内で定款で定めることになっていて選択の余地が増えたわけですね。4年以内で定款で定めるのですから、今まで通り2年と定めることも、法律上できなくはありません。ただ、監事の職責が重くなったということとの関係で、任期が2年だけで職責が十分果たせるのかということもあって、長く任期を設定できるようにしようということになったわけです。
次に、監事の選任議案に関する同意権云々というところですけれども、ここはまず、役員の選出方法を前提として知っておく必要があります。役員の選出方法は現行では選挙という方法しか認められていません。選挙と他の選出方法と何か違うのかということですけれども、その選出方法が選挙だと言えるためには、いくつか満たさなければいけない条件があります。1つは被選挙権がある人、生協の役員で言えば組合員ですが、自分の意思で候補者になる、つまり立候補する機会が保障されることが必要です。選挙公示をやって、受付期間を明示して、受付方法もちゃんと示して、そういう機会をきっちり保障するということがないと、これは選挙とは言えないわけです。もう1つ、候補者が定数以内の場合は、国政の選挙や地方自治体の選挙でも、無投票当選というのは実は結構ありますが、生協の役員選挙でも定数以内であれば規約に定めて、無投票当選にするというのは何の問題もありません。しかし、定数を1人でも越えてしまった場合は、個人別に投票して、得票数の多い者順に当選して行くということですね。これが選挙という仕組みで、今まではこれしか認められていなかったのですが、改正法の下では「選任」という方法が認められました。この選任という方法はどういう方法かと言いますと、総代会に対して理事会から,次期の理事の候補は誰だれ、監事の候補は誰だれと全員分をまとめた名簿を提案します。提案を受けた総代会では、その提案に対して賛成ですか反対ですかということを一括して決を採ります。それで、通常の議案と同じように過半数の賛成があったら、それは選任議案が可決されたことになって、したがって全員が選出されたことになる。一方過半数の賛成を得られなかった場合は、全員が選出されなかったことになるので、臨時総代会を開いて再提案をしなければいけない。こういう選び方が選任方式です。選任方式がなぜ今回の改正に伴って導入されたかということですが、実践的なところまで、今日は時間の関係で辿りつかなそうなので控えて申し上げておきますけれども、こういうように理事・監事の職責がそれぞれ重くなってきているということがありますので、1人の人間と言いますか、同じような属性の人たちだけでそれをカバーするというのはかなり大変なわけですよね。そうすると、理事会の中にいろんな人を入れていく必要があるということで、少なくとも常勤の方がいないとどうしようもないですし、組合員の理事もそうですけれども、有識者の理事も入れますよね。有識者の理事もいろんなタイプの人がいるわけです。学者・研究者というのは伝統的にありますが、専門実務家の人、弁護士さんだったり公認会計士だったり税理士だったり、そういう専門知識のある人が入っているケースもあります。他には経営経験があって経営のことがよく分かる人というのもあります。これは非常に柔軟な方でないとだめなんですが、株式会社などで監査役とかに携わった経験があって、監査実務について詳しい方というのも、監事というところでは考えられるということです。
そうしたいろいろな方に入ってもらって、理事会の体制や監事の体制をそれなりにバランスのとれた形で整備しないと、なかなかトータルとして役割を発揮していくことはできにくくなってくるわけです。そうなったときに、選挙という方式はチーム編成にはとっても向かない方式なんですね。結局投票になってしまうと、上から順番に取っていくわけですから、どういう属性の人だとかは関係ないわけです。とにかく投票数が多い人から順に取っていくということになるので、結果的に出来上がったチームはこれこれですというふうにしかならない。現在、推薦制度とかを通じてバランスを取りましょうという提案をしているとは思いますが、一たび投票になった途端にバランスが保障されにくくなる制度であるということです。選任制度というのは、役員体制をチームとしてトータルで見てもらって判断してもらうという選び方でありますので、チーム編成が大事な状況になってくる中で選任方式の導入が要請されてきたわけです。
今少し言いましたけれども、それぞれの生協のところで、理事会や監事の体制をどうして行くかというのが、非常に実践的に重要な課題になっています。これについては、今まで取り組んできた到達点がありますので、それを確認して、補強が必要か必要でないかということをそれぞれの生協毎に検討して頂くということが、求められて来るかと思っております。
監事の独立性保障というところに戻りますが、「選任議案に関する同意権……」というふうにあります。今の選任制度で言いますと、総代会に提案する権限を持っているのは理事会ですから、理事会が次期の役員候補者名簿を決めるということは、監事の候補者も決めるということになるわけですね。これは、放っておくと理事が監事の人事権を持ってしまうことになるわけですから、これはまずいわけです。そういうことで理事会から監事の選任議案を提出する場合は、事前に監事の過半数の同意を得ていないと提出できないというルールが定められています。それと、もし監事が意見を言いたいということであれば、総代会当日に、この選任議案についてはこういう意見がありますということを表明できるようになっています。それを受けて、最終的に判断するのは総代さんということになります。
それから、報酬のところですけれども、監事の報酬は理事の報酬と分けて総代会で決定するということです。今までは、役員報酬ということで役員全員分の総額を一括して決めていたと思いますが、理事分総額と監事分総額とは少なくとも分けなければいけないということです。
監事の体制の強化ということで、大規模生協を対象に員外監事、員外監事というのは組合員でもなく、生協の経営とか事業経営に業務執行側の者として5年間は携わったことはないという独立性の高い人で、そういう人を最低1人は監事にしなさいということです。それと、常勤する監事も1人置きなさいということになりました。これは監査業務の充実とか、第三者側の視点からのチェックということを、監事による監査の中で実現していこうという発想でありまして、大規模の生協のところにはこれが義務づけられるということになります。大規模というのは、ここに書いてありますが、負債総額200億円以上ということで、全国の会員生協の中でも単位生協としては4つしかありません。大阪の中にはたぶん無いと思いますが、対象でないからいいというのではなく、それぞれの生協のところでも第三者的な観点からチェックをしてくれるような監事や、監査業務をより充実して行うための常勤の監事の設置について、条件に合わせて必要性を判断して検討していただければというふうに思っています。
それで役員の責任のところですが、ここは絶対喋っておかないといけないので、ここまでは喋りたいと思います。役員の責任の明確化ということで、名簿とかが載っている薄い資料の1番最後を開けていただきたいと思います。今までも、生協の役員というのは法律上の責任というのはあったのです。ただ、生協法には書いてなかったので分かりにくかったということです。どういう責任があると解釈されていたかということですけれども、もともと生協という法人と役員という個人との間には、委任契約という内容の契約が結ばれているという解釈がされていて、役員は2番目の●ところにあります「善良なる管理者の注意」というのをもって、ちゃんと注意を払って委任されたことをやらなければいけないという義務があります。委任されたことというのは、上の方にあるとおり、理事については「業務を執行し財産を管理する」、監事については「業務の執行や財産管理の状況を監査する」。こういう内容が、生協という法人から、役員に対してある意味任せられているということです。任せられたのだから、ふさわしい注意をもって任せられたことをやりなさいということが基本的な職務の責任ということです。もし、その注意義務を払わなかったという場合になると、これは基本的に契約違反ということになるわけです。契約違反になりますので、契約違反によって損害を生じた場合は、賠償責任がありますよということになります。
もう1つは、第三者に対する責任で、契約当事者でないのですが、例えば粉飾決算をしたことで、その粉飾された決算を信じてお金を貸したとか、取引に入った後で代金を回収し損ねたというケースは、第三者に損害を与えたことになります。きちんと注意を払っていたなら仕方ないのですが、わざと認めた、或いはうっかり見過ごしたということであれば責任がありますので、その賠償責任を負うということす。これは、今までの理解であります。
それで今回改正生協法でどうなったかということですが、生協と役員の関係は委任に関する規定に従うという規定が設けられています。これは今までの解釈がそのまま明文化されたということです。それで、生協に対する責任のところの「役員は、その任務を怠ったときは、組合に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」ということで、この任務を怠ったというのが、善管注意義務違反とか忠実義務違反ということがあったということですので、これは従来と同じ解釈が明文化されたということです。
それから、第三者に対する責任のところ「役員がその職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったときは、当該役員はこれによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う」ということで、悪意又は重大な過失による場合責任を負うというこというふうになっておりますが、大枠として従来の解釈ということです。むしろ、軽くと言うのも変ですけれども、責任を問われるケースというのが厳密に言うと、少し軽減されているのです。故意又は過失だったのが、故意又は重大なる過失ですから、軽微な過失の場合は責任を問われないということになるのですが、どのくらい違うのかと言われますと、どのくらい違うのか良く分からないので、従来と同じくらいとここで言っています。
それで従来と変わっているのは責任軽減制度であります。カラーのパンフの方に戻っていただきたいのですが、代表理事・他の理事・監事と書いてありますね。そのちょっと上にあるのですが、もし仮に賠償責任があるというふうになった場合でも、総代会の特別議決によって損害賠償責任が軽減できますよという制度が入っています。軽減できるのですが、限度が決まっていて、役員報酬や退任慰労金の1年分の合計を基礎額として、ここに書いてあるように、代表理事でしたら6倍、他の理事でしたら4倍、監事でしたら2倍というところまでは軽減できますが、これより下には軽減できませんということですね。これはあくまでも賠償責任があるとされた場合の話でして、賠償責任有りとなるケースというのは限定されていますし、私が知る限り法的責任が裁判で問われたケースは1つしか事例はありません。
また、役員の資格のところで言うと、員外理事が5分の1という枠があったのですが、これが3分の1にまで拡大されたのと、監事のところは、組合員であるかどうかということは役員選出上は問われないという構造になっております。
「さらなるチェック!」ということで、4番目の柱のところにあるのですが、組合員の直接請求権とか、直接生協を訴える権利も今回位置付けられています。あくまで例外的なケースなんですけれども、生協の通常の機関運営というのは理事・監事というところで行うというのは本筋でありますので、そこが何らかの理由で上手く機能しないときにはどうするのかという問題があります。そうした場合の1つの方策として、この直接請求権とか組合員の訴権とかが位置づけられているということで、チェックの仕組みというのが、かなり充実しているということであります。
そういうことで、これで予定されていた時間は超過しているので、もうここで止めますけれども、実は11ページ以下も少しだけ喋ろうと思っていたのですが、13ページから視点1・2・3・4・5とあります。視点1・2というのは、さっき言った理事会の体制だとか監事の体制、監事の職務の遂行の仕方に関して、いろいろ変化が求められているということです。47ページ以下に、参考までにということで、株式会社において監査役がどんなことをやっているのか調査をした結果を載せていますので、それも少し参照していただいて、監事さんのところでイメージを膨らませていただき、それぞれの生協さんのところでは、監事の体制だとか、どういう職務遂行のスタイルか、或いは監事の下において監事に従って動くスタッフの配置というのも考えられるのですが、それらの事項をどうするか。監事任せで決めるということにはなりませんので、トップの方がこういう方向で行きたいということを問題意識をきちっと持って、監事のところとも調整しながら、最終的に判断していくということも必要になるかと思います。
視点3の役員の選出方法のところは、選挙という方法と選任という方法と2つできたと言いましたね。それをどっちにするかは定款で選ぶことになります。定款で決めるので、もし選任制度を導入するということであれば、定款の中に変更を盛り込まなければならないということです。
15・16ページで視点4、視点5とありますが、1つは今回大きく法律のルールが変わったので、それを盛り込んだ定款・規約の変更を来年の総代会にかけなければいけない。その準備はもう始まっていますが、おいおいその原案が理事会にかかってきます。理事会にかかってきた時に、今申し上げたような背景を十分ご理解いただいた上で、どういう判断をするかということを、皆さん参加のもとで、合意づくりをしていっていただければと思います。
視点5のところですが、定款とか規約とはあくまでルールを定めるものなので、定款・規約を作ったら終わりではありません。定款・規約を作ったら、決めたことはその通りにやることが必要なので、事務局のほうでは体制を作ってやらなければいけません。皆さんのところでは直接それにタッチするということではありませんが「実際には、どうなっていますか」ということを、理事会に報告があった時には、注意して見ておくということが必要になってくるかなというふうに思います。
すいません。時間配分が悪くて、最後すっ飛ばしてしまいましたが、これで終わりといたします。
ご静聴ありがとうございました。
Ⅰ 改正生協法の概要と対応課題の全体像  Ⅱ.組織・運営規定改正の基本的考え方とガバナンス見直しの視点
【講師】 日本生協連   法規対策室長(兼)改正生協法対策室長 宮 部 好 広 氏

Ⅱ.組織・運営規定改正の基本的考え方とガバナンス見直しの視点


1.改正の背景
それから、11ページのところから組織・運営部分ということですね。組織・運営部分の改正の背景として非常に大きいのは、この1番目に書いてあることなんですね。「生協の発展とともに事業規模が拡大していること」それから、「その事業の種類も多様化・複雑化していること」これがまず1つあるわけです。大きな事業体であればあるほど社会的責任が大きいわけで、例えば、一時期ダイエーが潰れそうということでえらく騒がれた時期がありました。あの時、もしダイエーが潰れて破産していたら、その社会的影響というのは物凄い甚大です。ダイエーに納入している業者さんが物凄くたくさんいるわけですし、ダイエーにお金を貸しているところもたくさんあります。そういうところに、お金が返らないということになってしまうので、そちらの方が連鎖的に倒産する可能性もあります。倒産するということになりますと、そこで働いていた人たちは職場を失います。場合によっては、地域の雇用状況への影響も生じかねないわけでありまして、ある程度以上大きい規模の事業体というのは、そういう影響力を持っているわけです。ということは、適切にハンドリングして行って上手く運営していかないと大変なことになる可能性を持っているわけでありまして、その責任が事業規模の拡大と共に大きくなっている。事業主体としての判断が、このご時世でありますので来年まで待ってやればいいやということは少なくて、迅速に判断して執行していかなければいけないことが多くなっているわけですね。ですから、迅速・適切に判断できる体制やそのための運営ルールの整備が必要だということです。
それから、事業の種類が多様化・複雑化しているということもあります。このことによって管理が大変になって来ている。例えば、購買事業のうち、無店舗事業だけをやっていて他の事業をやってないということであれば、その事業だけを見てればいいわけですから比較的単純ですけれども、これが店舗もやり無店舗もやり共済もあり福祉もありというようなことで事業の種類が広がっていきますと、いろんな事を全部見なければいけない。トータルとしてどういう状況なのかというのを見て行かなければいけない。ということですので、なかなか大変な状況になっているわけですよね。そういうことを受けて、そういう経営管理がきっちり出来るような運営体制というのを法律でもちゃんと定めましょうということが、まず1つあります。
もう1つが、2番目のところにありますけれども、生協の活動に対するさまざまな分野での社会的期待が高まっています。社会的期待が高まっているということは、逆に言うと、その運営主体であるところの生協の運営のスタイルの透明性とか、そういうものの問われやすい構造になっているということですよね。このところ日生協では、2010年ビジョンを何年か前に総会で確認して、その実践をしましょうということになっているわけですけれども、その中の1つの課題として「開かれた組織としての運営の強化」ということも掲げています。この点はずっと前から実践的には問題になって来たことなんですけれども、そういう観点が今回の法改正の中にも一応反映されています。
このようなことから、改正が行われているのですが、その改正の概要については、カラーのパンフレットの4-5ページを開けて下さい。組織・運営規定の改正、機関運営関係部分の法改正の基本の考え方を真ん中において、法律上のルールの主な変更点がまわりに散りばめられているのですが、これが全部ではありません。実はもっとたくさんありますが、主なものをピックアップして書いているということですので、そのようなものとしてご理解いただきたいのです。実は、凄くたくさん変わっているところがあるのですが、「要はどういうことなんだ」ということがなかなか見えにくいのですね。ですから、多少乱暴なんですが、真ん中のところでは4本の柱でそれを整理してみました。
1つは、理事会というものをしっかり位置づけたということです。今まで生協法では理事会という機関はありませんでした。総会・総代会という会議体があって、そこが役員を選出します。理事・監事を選挙で選びます。そうしますと、理事は1人1人全員が代表機関であり、監事は独立性の機関としてあるというシンプルな構造であったわけです。この構造は、生協法が出来た頃にはごく当り前の機関構成で、株式会社でも取締役会という制度が入って来たのは生協法が出来たあとなんですね。その前は、株式会社も同じように取締役はみんな1人1人が代表権を持っているというのが基本構造で、ただ代表権を持つ取締役を絞ることはできるようになっていました。その後、半世紀以上の間に物凄く大きな変化があったのに、今まで生協は全く変わらずに来たので、法律上は理事会がなかったわけです。それでは、とてももたないので、今までは「模範定款例」というものを通じて、それぞれの生協の定款の中で理事会を設けるというふうにして来たわけですね。それでは、やはり意味が違うのですね。法律上、やはり会議体としては総会・総代会しかありません。だから、法律上はそこが基本的な管理を全部やらなければいけない。それで、各理事に与えられた権限の部分を定款の中での運用により、理事会と理事長・専務とかのところと分担してやっていくという構造になるわけです。今回は、理事会というのを法律上の機関としてちゃんと定めるということになりました。ここが大きな違いであります。それにまつわって理事会の権限というのが今までより強まる部分があります。それは、ごく限定的ではありますけれども借入に係わる部分です。今までは総代会の議決事項の中に借入金額の最高限度というのがあったわけです。これが総代会の議決事項ではなくなりました。それはどういう意味かと言いますと、今までは総代会・総会しか会議体というのがありませんし、理事会は各自代表で分担執行ですから、理事が勝手に借入をすると困るので上限は総代会で決めて管理しましょうということになっていたわけです。けれども、今回理事会という会議体ができましたので、それは理事会が管理すればいいということになったわけです。理事会のところでは、少なくとも多額に借入をする時は、個別に提案をして理事会で確認をするという形でやって来ているはずですから、借入について全て理事会に付議されるのなら、あえて最高限度額と決めなくてもかまいません。少額の借入については理事会決裁ではなくて、例えば専務決裁とか理事長決裁とか出来ますよとなっている場合に、借入金の最高限度額というのを年度を通して理事会で決めて管理するとかということが、今後は考えられると思います。重要なことは、総代会の借入金の管理というところに関して、総代会の権限から外されて、それは理事会でやりなさいということになったということで、この点については理事会の権限の強化と言えるかと思います。
あとは、こういう事で理事会の位置づけが明確化されて、権限も強化されるということがあるわけで、それとの関係で理事会の運営ルールも整備が必要になります。今までは定款で定めてやってきたわけですけれども、今までの理事会というのは、それぞれの生協が自分の都合で置いている機関であって、あくまで法律上の機関ではありませんから、その運営ルールというのは、他の法律の水準から見ると緩い面が結構あったんですよね。それで、他の法律の水準並みにということで引き上げられるという構造になっております。

まず1つ、直接は理事会運営に関する問題ではないのですが、代表権の構造が変わってきます。先ほど申し上げたとおり、理事は現行法の下では全員に代表権がありますということですね。ですから、今日たくさんお見えになっております理事さんは、法律上は代表権を持っているわけです。生協を代表して他と契約を結ぶとか、そういう権限を全員が持っているわけですが、ただそれは、余りに現実的ではないですよね。生協の理事は、結構たくさんいまして、日生協ですと40人を超えるわけですけれども、そういう人たちが全員代表機関ですというのは、普通あり得ないです。それで、理事会を設けて、例えば代表権を有する者は理事長だとか、理事長と専務だとかを定款に書いて、それ以外の人は代表権を行使しないよという約束事にしているのが現状であります。つまり、法律上は理事全員に代表権がある一方、定款では理事長や専務だけに代表権がある、いうのが現在の仕組みです。今後は、理事会で代表理事を誰にするかを決めます。代表理事を決めたら、その人だけに代表権がある。言い換えれば、他の理事には代表権がないという構造になります。
次に、理事1名でも必要な場合は、理事会招集が出来ますということです。理事の中に、代表理事とそうでない理事がいることになるわけですけれども、代表理事は業務執行の統括責任者になるわけですが、他の理事も理事会運営上は同格だというのが基本の発想です。従って、理事会の招集は例えば定款で理事長がやりますと決めることはでき、そうすると通常は理事長名で招集状が出されるのですが、そういうふうに決めたとしても、他の理事が潜在的に持っている招集権を完全に奪いきることは出来ませんということです。だから、すぐに理事会を開いて検討しないとまずいということがもしあれば、他の理事も理事会の招集請求を1人でできるということです。
3番目の理事会議事録のところですが、ここもルールが変わりまして、今まではやや緩いルールだったわけです。議長と議事録署名人2人。議事録署名人2人という方式は、他の法律ではほとんどありません。他の法律の標準は出席した理事・監事全員の署名、または記名押印が必要ということになっております。なぜ全員必要なのかということですけれども、理事会が法律上の機関となって、そこでの判断・決定というのが制度上の重みを持つようになったということは、後ほど出てくる役員の責任とも関係する部分が出て来るということです。従って、理事会のところで議事録がきっちり作られているのかどうかということについて、参加したみんなが点検する機会というのが保障されないといけませんというのが基本の考え方です。その表現として、全員の署名または記名押印を義務付けることがスタンダードになっていて、生協法もスタンダードになったということであります。これは、実務的には極めて大変でありまして、日生協でもどうしょうかと検討しておりますが、その中で有力な方法として、いろいろ株式会社の状況とか調べました。法律上は、電子署名という方式があります。普通、紙で作りますよね。紙で作ると、そこに手で名前を書いてハンコを押すのでいいのですが、ワープロソフトで作ったものをPDFにしたら中身が変えられなくなる、それに電子証明をくっ付ける、という方式も一応あるのです。電子署名方式は、株式会社では結構採用されているのかなと思ったのですが、いろいろ聞いてみたのですが、採用しているケースは全く聞きません。この前、電子署名のソフトを売っている会社が来て、プレゼンをしてもらったのですが、そのときに「お宅の会社では、これを使っているのですか?」と聞くと「うちは、使ってませんよ」と言うのです。株式会社でも社外取締役とか社外監査役とかいますので、全員の署名・記名押印は大変ではないかと思うのですが、いろいろ聞いてみると、「印鑑預かり方式」というのがあるそうです。一瞬、「え?!」と思ったのですが、良く聞いてみると、ちゃんと運用のルールが決められているんですよね。保管のルールを決めてきっちり管理するのが前提ですが、理事会の議事録の案を作ったら出席者に送り、そこには同意書兼押印依頼書という用紙をくっ付けておいて、OKだったら名前を書いてハンコを押して、送り返してもらいます。その依頼書に基づき、事務局が代わりにハンコを押すということです。この方式ですと、一気に全員に送れますから、それが戻って来たところで、順繰りにハンコを押せば良く、1通の議事録を郵送で回覧するより時間がよほど短縮できます。日本監査役協会というのがあって、そこの理事さんにお話を聞いたのですが、この方式は弁護士もいいと言っているというお話でした。こんなお話も参考にしていただきながら、皆さんのところでも、それぞれに実現可能な方法を考えて頂けたらいいと思います。地域が限定されている場合は、例えば1週間事務所に置いておくので、この間に来てハンコを押しておいて下さいとかいうのも可能かもしれません。
それから、理事と生協との利害が対立する取引というのは理事会の議決事項になりました。今まで、このような取引は、監事が生協を代表するということになっていたんですね。生協と理事との利害が対立する取引のうち、理事個人との取引というのは、実はあまりないのです。利害が対立しようのないものはあります。例えば、組合員として生協共済に入るとします。生協共済に入るということは、共済契約を生協と結ぶということです。理事と生協が契約をする場合にあたりますが、生協共済の契約の中身というのは規約で決まっていて、動かしようがありません。ですから、理事と生協が契約をする時と言っても、理事が自分の地位を利用して不当に自分に有利な契約を結ぶことはできっこありませんので、こういう契約は対象になりません。結構あるのが関連会社や子会社の代表取締役を生協の理事が兼ねているというケースです。こういう場合、代表取締役が関連会社、子会社を代表して生協と契約を結ぶというのは、理事個人としての取引では無いのですが、利害が対立する可能性があるので、対象になります。今までは、監事が代表権を持つということでやっていたのですが、今後は監事の代表権という形では無く、理事会に事前承認を得たら、通常通り代表理事が代表して構いませんというルールに変わりました。
2番目の柱は、監事のところです。今まで総代会が直接管理するという発想で作られていたものが、理事会の管理権限というものがきっちり位置づけられるようになったので、ある意味その部分は総代会から離れてしまうわけですね。それで、総代会から離れた部分についてきちんと管理運営されるようにチェックする役割はどこかというと、やっぱり監事になります。こうした意味で、監事がその理事会ないし代表理事が行うことについてチェックをする権限が強まったというのが、2番目の柱です。例えば、1つは総代会の提出議案書類の調査です。総代会に提出する議案のうち、決算書類はもちろん監査する必要があるわけですけれども、今までは、それ以外に総代会に提出する議案とか書類について調査しなさいと法律上は書いていなかったわけです。監事は理事会に出席していますし、総代会事項というのは理事会に付議されるので、その時に気がついたら言わなければいけませんよというようなことはあったのですが、法改正によってきっちりと調査をしなさいということが義務付けられました。そういう意味で言うと、総代会に提出する議案を確定する理事会がありますよね。その確定する理事会の前に、監事に調査の期間を保障しないといけないということになります。理事の不正の差止請求権、理事と言っていますが、業務執行関係でやっている理事が主に対象になるかと思います。あってはいけないケースなのですが、理事が法令定款に違反する行為をしようとしている。例えば本当は理事会の決裁を得てから契約しなければいけない位の規模の契約なんだけれども、理事会の決裁を得ないで独断でやろうとしていることが分かったとします。それによって、著しい損害が生協に生じるおそれがありますという場合は、監事が止めなさいと待ったをかけられますという権限です。これは、非常に強力な権限ですので、乱用は厳に謹んで頂かないと生協にとって悪い結果になってしまうということでもあります。
それで、監事の独立性保障というところがありますが、理事・監事の任期というところも変わっています。任期について、今までは3年以内で定款で定めましょうというふうになっていて、実際に皆さんの生協では2年と定めていると思います。改正法の下ではどうなったかと言いますと、理事は2年以内で定款に定める、ということなので今まで通りで大丈夫です。逆に監事のところは延びました。4年以内で定款で定めることになっていて選択の余地が増えたわけですね。4年以内で定款で定めるのですから、今まで通り2年と定めることも、法律上できなくはありません。ただ、監事の職責が重くなったということとの関係で、任期が2年だけで職責が十分果たせるのかということもあって、長く任期を設定できるようにしようということになったわけです。
次に、監事の選任議案に関する同意権云々というところですけれども、ここはまず、役員の選出方法を前提として知っておく必要があります。役員の選出方法は現行では選挙という方法しか認められていません。選挙と他の選出方法と何か違うのかということですけれども、その選出方法が選挙だと言えるためには、いくつか満たさなければいけない条件があります。1つは被選挙権がある人、生協の役員で言えば組合員ですが、自分の意思で候補者になる、つまり立候補する機会が保障されることが必要です。選挙公示をやって、受付期間を明示して、受付方法もちゃんと示して、そういう機会をきっちり保障するということがないと、これは選挙とは言えないわけです。もう1つ、候補者が定数以内の場合は、国政の選挙や地方自治体の選挙でも、無投票当選というのは実は結構ありますが、生協の役員選挙でも定数以内であれば規約に定めて、無投票当選にするというのは何の問題もありません。しかし、定数を1人でも越えてしまった場合は、個人別に投票して、得票数の多い者順に当選して行くということですね。これが選挙という仕組みで、今まではこれしか認められていなかったのですが、改正法の下では「選任」という方法が認められました。この選任という方法はどういう方法かと言いますと、総代会に対して理事会から,次期の理事の候補は誰だれ、監事の候補は誰だれと全員分をまとめた名簿を提案します。提案を受けた総代会では、その提案に対して賛成ですか反対ですかということを一括して決を採ります。それで、通常の議案と同じように過半数の賛成があったら、それは選任議案が可決されたことになって、したがって全員が選出されたことになる。一方過半数の賛成を得られなかった場合は、全員が選出されなかったことになるので、臨時総代会を開いて再提案をしなければいけない。こういう選び方が選任方式です。選任方式がなぜ今回の改正に伴って導入されたかということですが、実践的なところまで、今日は時間の関係で辿りつかなそうなので控えて申し上げておきますけれども、こういうように理事・監事の職責がそれぞれ重くなってきているということがありますので、1人の人間と言いますか、同じような属性の人たちだけでそれをカバーするというのはかなり大変なわけですよね。そうすると、理事会の中にいろんな人を入れていく必要があるということで、少なくとも常勤の方がいないとどうしようもないですし、組合員の理事もそうですけれども、有識者の理事も入れますよね。有識者の理事もいろんなタイプの人がいるわけです。学者・研究者というのは伝統的にありますが、専門実務家の人、弁護士さんだったり公認会計士だったり税理士だったり、そういう専門知識のある人が入っているケースもあります。他には経営経験があって経営のことがよく分かる人というのもあります。これは非常に柔軟な方でないとだめなんですが、株式会社などで監査役とかに携わった経験があって、監査実務について詳しい方というのも、監事というところでは考えられるということです。
そうしたいろいろな方に入ってもらって、理事会の体制や監事の体制をそれなりにバランスのとれた形で整備しないと、なかなかトータルとして役割を発揮していくことはできにくくなってくるわけです。そうなったときに、選挙という方式はチーム編成にはとっても向かない方式なんですね。結局投票になってしまうと、上から順番に取っていくわけですから、どういう属性の人だとかは関係ないわけです。とにかく投票数が多い人から順に取っていくということになるので、結果的に出来上がったチームはこれこれですというふうにしかならない。現在、推薦制度とかを通じてバランスを取りましょうという提案をしているとは思いますが、一たび投票になった途端にバランスが保障されにくくなる制度であるということです。選任制度というのは、役員体制をチームとしてトータルで見てもらって判断してもらうという選び方でありますので、チーム編成が大事な状況になってくる中で選任方式の導入が要請されてきたわけです。
今少し言いましたけれども、それぞれの生協のところで、理事会や監事の体制をどうして行くかというのが、非常に実践的に重要な課題になっています。これについては、今まで取り組んできた到達点がありますので、それを確認して、補強が必要か必要でないかということをそれぞれの生協毎に検討して頂くということが、求められて来るかと思っております。
監事の独立性保障というところに戻りますが、「選任議案に関する同意権……」というふうにあります。今の選任制度で言いますと、総代会に提案する権限を持っているのは理事会ですから、理事会が次期の役員候補者名簿を決めるということは、監事の候補者も決めるということになるわけですね。これは、放っておくと理事が監事の人事権を持ってしまうことになるわけですから、これはまずいわけです。そういうことで理事会から監事の選任議案を提出する場合は、事前に監事の過半数の同意を得ていないと提出できないというルールが定められています。それと、もし監事が意見を言いたいということであれば、総代会当日に、この選任議案についてはこういう意見がありますということを表明できるようになっています。それを受けて、最終的に判断するのは総代さんということになります。
それから、報酬のところですけれども、監事の報酬は理事の報酬と分けて総代会で決定するということです。今までは、役員報酬ということで役員全員分の総額を一括して決めていたと思いますが、理事分総額と監事分総額とは少なくとも分けなければいけないということです。
監事の体制の強化ということで、大規模生協を対象に員外監事、員外監事というのは組合員でもなく、生協の経営とか事業経営に業務執行側の者として5年間は携わったことはないという独立性の高い人で、そういう人を最低1人は監事にしなさいということです。それと、常勤する監事も1人置きなさいということになりました。これは監査業務の充実とか、第三者側の視点からのチェックということを、監事による監査の中で実現していこうという発想でありまして、大規模の生協のところにはこれが義務づけられるということになります。大規模というのは、ここに書いてありますが、負債総額200億円以上ということで、全国の会員生協の中でも単位生協としては4つしかありません。大阪の中にはたぶん無いと思いますが、対象でないからいいというのではなく、それぞれの生協のところでも第三者的な観点からチェックをしてくれるような監事や、監査業務をより充実して行うための常勤の監事の設置について、条件に合わせて必要性を判断して検討していただければというふうに思っています。
それで役員の責任のところですが、ここは絶対喋っておかないといけないので、ここまでは喋りたいと思います。役員の責任の明確化ということで、名簿とかが載っている薄い資料の1番最後を開けていただきたいと思います。今までも、生協の役員というのは法律上の責任というのはあったのです。ただ、生協法には書いてなかったので分かりにくかったということです。どういう責任があると解釈されていたかということですけれども、もともと生協という法人と役員という個人との間には、委任契約という内容の契約が結ばれているという解釈がされていて、役員は2番目の●ところにあります「善良なる管理者の注意」というのをもって、ちゃんと注意を払って委任されたことをやらなければいけないという義務があります。委任されたことというのは、上の方にあるとおり、理事については「業務を執行し財産を管理する」、監事については「業務の執行や財産管理の状況を監査する」。こういう内容が、生協という法人から、役員に対してある意味任せられているということです。任せられたのだから、ふさわしい注意をもって任せられたことをやりなさいということが基本的な職務の責任ということです。もし、その注意義務を払わなかったという場合になると、これは基本的に契約違反ということになるわけです。契約違反になりますので、契約違反によって損害を生じた場合は、賠償責任がありますよということになります。
もう1つは、第三者に対する責任で、契約当事者でないのですが、例えば粉飾決算をしたことで、その粉飾された決算を信じてお金を貸したとか、取引に入った後で代金を回収し損ねたというケースは、第三者に損害を与えたことになります。きちんと注意を払っていたなら仕方ないのですが、わざと認めた、或いはうっかり見過ごしたということであれば責任がありますので、その賠償責任を負うということす。これは、今までの理解であります。
それで今回改正生協法でどうなったかということですが、生協と役員の関係は委任に関する規定に従うという規定が設けられています。これは今までの解釈がそのまま明文化されたということです。それで、生協に対する責任のところの「役員は、その任務を怠ったときは、組合に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」ということで、この任務を怠ったというのが、善管注意義務違反とか忠実義務違反ということがあったということですので、これは従来と同じ解釈が明文化されたということです。
それから、第三者に対する責任のところ「役員がその職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったときは、当該役員はこれによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う」ということで、悪意又は重大な過失による場合責任を負うというこというふうになっておりますが、大枠として従来の解釈ということです。むしろ、軽くと言うのも変ですけれども、責任を問われるケースというのが厳密に言うと、少し軽減されているのです。故意又は過失だったのが、故意又は重大なる過失ですから、軽微な過失の場合は責任を問われないということになるのですが、どのくらい違うのかと言われますと、どのくらい違うのか良く分からないので、従来と同じくらいとここで言っています。
それで従来と変わっているのは責任軽減制度であります。カラーのパンフの方に戻っていただきたいのですが、代表理事・他の理事・監事と書いてありますね。そのちょっと上にあるのですが、もし仮に賠償責任があるというふうになった場合でも、総代会の特別議決によって損害賠償責任が軽減できますよという制度が入っています。軽減できるのですが、限度が決まっていて、役員報酬や退任慰労金の1年分の合計を基礎額として、ここに書いてあるように、代表理事でしたら6倍、他の理事でしたら4倍、監事でしたら2倍というところまでは軽減できますが、これより下には軽減できませんということですね。これはあくまでも賠償責任があるとされた場合の話でして、賠償責任有りとなるケースというのは限定されていますし、私が知る限り法的責任が裁判で問われたケースは1つしか事例はありません。
また、役員の資格のところで言うと、員外理事が5分の1という枠があったのですが、これが3分の1にまで拡大されたのと、監事のところは、組合員であるかどうかということは役員選出上は問われないという構造になっております。
「さらなるチェック!」ということで、4番目の柱のところにあるのですが、組合員の直接請求権とか、直接生協を訴える権利も今回位置付けられています。あくまで例外的なケースなんですけれども、生協の通常の機関運営というのは理事・監事というところで行うというのは本筋でありますので、そこが何らかの理由で上手く機能しないときにはどうするのかという問題があります。そうした場合の1つの方策として、この直接請求権とか組合員の訴権とかが位置づけられているということで、チェックの仕組みというのが、かなり充実しているということであります。
そういうことで、これで予定されていた時間は超過しているので、もうここで止めますけれども、実は11ページ以下も少しだけ喋ろうと思っていたのですが、13ページから視点1・2・3・4・5とあります。視点1・2というのは、さっき言った理事会の体制だとか監事の体制、監事の職務の遂行の仕方に関して、いろいろ変化が求められているということです。47ページ以下に、参考までにということで、株式会社において監査役がどんなことをやっているのか調査をした結果を載せていますので、それも少し参照していただいて、監事さんのところでイメージを膨らませていただき、それぞれの生協さんのところでは、監事の体制だとか、どういう職務遂行のスタイルか、或いは監事の下において監事に従って動くスタッフの配置というのも考えられるのですが、それらの事項をどうするか。監事任せで決めるということにはなりませんので、トップの方がこういう方向で行きたいということを問題意識をきちっと持って、監事のところとも調整しながら、最終的に判断していくということも必要になるかと思います。
視点3の役員の選出方法のところは、選挙という方法と選任という方法と2つできたと言いましたね。それをどっちにするかは定款で選ぶことになります。定款で決めるので、もし選任制度を導入するということであれば、定款の中に変更を盛り込まなければならないということです。
15・16ページで視点4、視点5とありますが、1つは今回大きく法律のルールが変わったので、それを盛り込んだ定款・規約の変更を来年の総代会にかけなければいけない。その準備はもう始まっていますが、おいおいその原案が理事会にかかってきます。理事会にかかってきた時に、今申し上げたような背景を十分ご理解いただいた上で、どういう判断をするかということを、皆さん参加のもとで、合意づくりをしていっていただければと思います。
視点5のところですが、定款とか規約とはあくまでルールを定めるものなので、定款・規約を作ったら終わりではありません。定款・規約を作ったら、決めたことはその通りにやることが必要なので、事務局のほうでは体制を作ってやらなければいけません。皆さんのところでは直接それにタッチするということではありませんが「実際には、どうなっていますか」ということを、理事会に報告があった時には、注意して見ておくということが必要になってくるかなというふうに思います。
すいません。時間配分が悪くて、最後すっ飛ばしてしまいましたが、これで終わりといたします。
ご静聴ありがとうございました。