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2008年度大阪府生協連「社会福祉問題研修会」を開催『基礎年金・公費負担方式の提案―皆保障体制をめざして―』

Ⅰ.公的年金制度に期待される機能  Ⅱ 日本の公的年金制度の仕組みと現状
Ⅲ 日本の公的年金制度の問題点  Ⅳ 基礎年金・公費負担方式化が世論の動向
Ⅴ 公的年金制度のゆくえ


[講師] 佛教大学 社会福祉学部  教授 里見 賢治 氏
■日時:2008年7月30日(水)  ■場所:大阪府社会福祉会館5階第1会議室
『基礎年金・公費負担方式の提案―皆保障体制をめざして』

Ⅳ 基礎年金・公費負担方式化が世論の動向


1.基礎年金・公費負担方式化の動向
① 野党の動向
基礎年金・公費負担方式化が世論の動向と2ページの下の方に書いておきましたが、野党の動向・労働組合団体の動向・自民党内の造反の動き・財界の動向・マスメディアの動向というふうに整理をしておきました。これを少しご説明したいと思います。具体的には表を付けておきましたので、9~10ページをご覧いただきますと、少しお分かりいただけると思います。これは、諸政党・団体等の基礎年金公費負担方式化案の概要と比較ということで、要するに今基礎年金が社会保険方式ではだめだ、公費負担方式にせざるを得ないと主張している主な団体をここでリストアップしておきます。
まず野党を考えてみますと、民主党も共産党も社民党も国民新党も4党とも年金制度については社会保険方式ではだめだという点では一致しております。だから、ただ細かい点は、この表の上にずっと丸数字を作っていますが、名称はどうでもいいのですが、受給要件はどうするかとか、給付水準はどの程度にするかとか、居住期間比例制とは日本国内に何年住んでいたら満額で、それより短かったら減額するという制度ですが、それを取るかとか、所得制限をするかとか、財源はどうするかとか、新制度の実施時期をどうするかという点では、それぞれ温度差があるわけです。温度差はあるのですが、一応野党は全部公費負担方式(税方式)で共通しています。そして、その下の自民党は飛ばしまして、労働組合を考えてみますと、連合と全労連だけを挙げています。全労協は年金制度はそれほど正確には出てきませんでしたので、ここでは省略させていただきましたが、どちらも基礎年金はだめだという点では一致しております。(講演録末尾・図2)
自民党内の造反の動きというので言いますと、ここではまん中あたりに自民党で2つ挙げております。この自民党有志議員案というのは、野田毅さんを会長とする議員連盟が「年金制度を抜本的に考える会」という名称だったと思うのですが、去年の12月に中間報告を出しています。この「年金制度を抜本的に考える会」は、今年の3月に議員連盟に発展しまして、山崎拓さんだとか中川秀直さんらを含めまして120以上の衆参両議院が参加してるというのですが、そこが新たに出していまして、これが基礎年金は社会保険方式では無理だと言っているわけです。さらに、今年の2月に麻生太郎さんが基礎年金は税方式でしか仕方がないと、税方式でやろうというので中央公論という雑誌の今年の3月号に論文を書いています。それから、今年の3月には元議員でもう引退していますが、塩川正十郎さんも基礎年金は税方式でしか仕方がないという案を社会保障国民会議に出しています。ですから、自民党内でぼんぼん造反が起こってきているわけです。社会保険方式で維持するべきだというのが与党なのですが、その中で社会保険方式では持たんという声がどんどん出て来ている状況になります。
それから、マスメディアではどうかと言うと、これもご記憶の方がいらっしゃると思いますが、今年の1月7日の朝刊冒頭で日本経済新聞が同社の見解として、基礎年金税方式でというのを1面トップで打ち出しまして、ですから日経新聞と言うと保守系メディアの雄で、結構影響力があるのですが、そこが出してきたわけですね。もっとも、メディアで言いますと朝日新聞と読売新聞は税方式は無理だと言う立場ですね。朝日新聞は、今年の2月に社説で社会保険方式でやるしかないというのを打ち出しました。読売新聞は、今年の4月16日の朝刊の1面冒頭で、読売新聞社の見解として社会保険方式であると打ち出しています。ですから、マスメディアは日経新聞系と読売・朝日グループとに分裂しているのですが、ここでは日経案だけを挙げています。というように、だいたい世論の多数はもうやっぱり社会保険では無理だろうと、どう考えても維持できないというふうに傾いているというところに来ているわけです。
なお、この会議は大阪府生協連の会議ですので、日本生協連にも少し触れておきます。今日持って来るのを忘れたのですが、3ページの上から4つ目の⑥で「日本生協連の提案」というのを少し書いておきました。日本生協連はご承知のとおりに、去年の3月に「生活者主権の社会保障デザイン」というパンフレットを出していますね。あれで「誰でも、いつでも、どこでも、安心してくらせる社会へ」ということで、日本生協連といいますか、その社会保障給付と負担研究会の名称で出ているのです。これでどういう見解を示しているかと言いますと、所得比例年金制度へ一元化するというのと、それで不足する人に対して最低保障年金制度を創設するとこういう言い方をしているのです。従って、どちらかと言いますと民主党案に非常に近いわけですね。民主党案というのは、最大野党だというので、今かなり注目されています。民主党案をご紹介しておきますと、自営業者も含めて1本の所得比例年金に再構成するという案なんですね。ただし、所得比例年金が非常に低い人には最低保障として基礎年金を給付する。だけど一定の所得以上の人は、最近の民主党案では600万と言われているのですが、600万を超える人については最低保障年金を減額し、1200万円以上の人には支給しないという案です。だから民主党案は、所得比例年金を一元化する。それで年金額が不十分な人については税方式で最低保障年金を提供して一定のところから減額するという案なんです。日本生協連の案と言うのも、所得比例年金制度に一元化するというので非常にこれに似ています。

2.基礎年金・公費負担方式の論点
① 受給要件
今申し上げたように、かなり世論自体は公費負担方式の方向に動いて来ているわけです。従って、この時点を逃すと年金制度を動かすのは難しくなるので、ここ1、2年が絶好のチャンスだと私は思っているのですが、そのためには、やはり統一提案を作る必要があるのですね。現在のままですと、野党も民主党案、共産党案、社民党案と部分的に全部違いがあります。労働組合も連合案と全労連案で微妙に違います。従って統一提案を出せなければ、個別に採決していくと全部負けてしまって現行制度が残るということになりかねないわけです。ですから、統一提案を作る必要があるわけで、その為にどういう論点があるかというと、1つは受給要件ですね。
どういう条件で受給するかというのですが、公費負担方式は税方式ですから保険料を納めた納めてないというのは関係ないのです。日本への居住条件というのを付けるかどうかですね。例えば、最低10年なら10年、5年なら5年日本に住んでないとだめだとかいう条件を付けるかどうかという問題です。これは、私自身は本来なら付けなくて済んだら付けない方がいいのですが、付けざるを得ないだろうと思っています。これはどうしてかと言いますと、やはり年金受給開始年齢直前に日本に移住してくるという年金目的の移住、これは確実にあるわけです。日本は今、外国人に対して非常に閉鎖的な体制ですが、これはいつまでも通りませんので、徐々に開放的な体制に向かって行きます。そうすると開放的な体制に向かった段階で、年金目的の移住が確実に起こって来る。そうすると、やっぱり制度は持たなくなりますので、ここはチェックはせざるを得ないだろう。ですから、そんなに長くいる必要はありません。5年とか10年位でいいと思っていますが、それ位の居住条件を付けるというふうにならざるを得ないだろうと思っています。そこのところをどうするかという議論を各党、各労働組合団体の間できちんと詰める必要があるのです。

② 財源
それから一番大きいのは財源です。財源については、全額消費税を主張しているのは、簡単に分り易く言いますと、自民党内のグループは全部です。財界団体、日本経済新聞もそうです。というふうに考えてくると、全額消費税方式論は、財界よりのグループが主張しているということがわかります。しかし、実は多数派ではないのです。なんとなく多数派のように報道等でなってしまっています。これはどうしてかと言いますと、読売新聞は特に今後の社会保障の財源は全額消費税でと言っているんですね。朝日新聞までが、今後の社会保障の財源は消費税を主体にすると言っています。従って、日経も含めて主要メディアが消費税でとなってしまっているので、我々が目にする情報と言うのはそれしかないですよね。だから、あたかももう消費税しかしかたがないのかという雰囲気になってしまっているのですが、本当はそうではないのです。メディアがそっちの方に傾いてしまっているので、その報道しか出てこないということですが、消費税をどうするかというのが一番大きい問題なのです。
私自身は、消費税が主たる財源というのでは決定的にまずいと思っているのですが、理由として1つは逆進性があるということと、もう1つは企業が負担しない。従って、全額消費税にすると企業が現在負担している保険料の半額の負担まで免れてしまうのです。それを全部われわれに負いかぶせてくるということになるので決定的にまずいと考えています。
だけど、その点についてはそれらの弊害を緩和する手がないわけではないのです。企業が負担しないという点は連合も全労連も主張していますが、税方式になって社会保険料を取らなくなると企業の保険料はその分助かりますが、例えば、その代りに事業主拠出金というのを別に作るという案があります。連合案もそうですし、全労連案もそうです。それをやると確かに企業が負担しないという点をクリア出来ます。それから逆進性という点については、例えば生活必需品については非課税にするとか0税率にするとか、軽減税率にして取るとかという形をとれば、全部はクリア出来ませんが、かなりクリア出来ます。しかし、今のところそういう条件はありませんので、財源の問題についてもやはり議論をせざるを得ないだろうと思っています。ただ、現在ある消費税をどうするかということですが、私の見る限り、現在ある5%の消費税まで廃止するということを主張している政党・団体はないのです。ですから、どの政党も現在ある消費税をどうするかについては触れていません。従って、現在ある消費税については許容せざるを得ないだろうと各政党・団体とも考えていると判断せざるをえないので、現行消費税については、先の改善案を取り入れるという条件で、認めざるをえないのではないかなと考えています。
それについては、ちょっと時間が無くなってきましたが、1点だけ付け加えておきますが、今年の5月に社会保障国民会議の報告というのがあったのをご存知ですよね。社会保障国民会議が税方式になった場合にどの程度財源がいるかという試算をしたのです。それを新聞に発表しました。それによると大体、基礎年金を公費負担方式にするというのにいろんな案が出て、それによって違うのですが、来年度から基礎年金を税方式に転換した場合、1番税負担が少ない場合で、消費税に換算しますと3.5%の増税が必要で、1番負担の多いケースを考えると12%の増税が必要だということなのです。社会保険方式論者は、年金だけでこれだけの増税が必要なら税方式というのはもともと不可能のであるということが立証されたというふうに大喜びしていますし、自民党内の税方式論者たちは、これは税方式は無理だということを示すための政治的な試算だというので怒り狂ったわけですね。
この試算について一言だけ触れておかなければなりませんが、これは消費税に換算した場合という前提なんですが、基礎年金を公費負担方式に変えますと、忘れてはならないのは、現在の基礎年金分の保険料はゼロになるということです。その分を消費税で取ったとしたらという仮定ですよね。その場合は、現在9兆円ぐらいを基礎年金の社会保険料で取っていますので、その分を新たに消費税で取ると3.5%になるということです。だから、これは増税でも何でもないですよね。今まで保険料として取っていたものが、税という形になる。取り方が変わるだけでしょう。いらなくなる分を引きますと3.5~12%ではなくて、0~8.5%というのが試算なんです。
しかも8.5%というのは、非常に非現実的な案でして、つまり新たに基礎年金7万円を全員に支給し、その上に現在まですでに保険料を払って来た人たちの分はチャラに出来ないので全額上乗せするという案なのです。だから、もし40年間保険料を払って来た人は6万6千円上乗せするという案の場合が12%、8.5%になるわけです。これを主張している団体・政党はどこもないのです。私もそれは主張していません。そこまでは必要ないだろうと思います。これまで払って来た保険料はチャラには出来ませんが、満額保障する必要はないので、従ってその仮定というのは非現実的な仮定なので、どの団体も支持していません。これを除きますと、負担は0~5%となります。だから、確かに自民党造反派が政治的試算だと怒っているのも分からなくはないですね。明らかに保険料がいらなくなる分まで増税というふうに数えたり、非現実な案を持って来たりして非常に高く示しているということで、実際はこの程度です。ですから、財源問題は非常に微妙な問題ですが、きちっと議論する必要があります。

③ 支払い済み保険料の取扱
これは先ほど申し上げましたように、これまで保険料を払ってきた人の分をどうするかということで、チャラには出来ないということははっきりしています。ですから、これまで保険料を払ってきた人は損はしませんということは保証します。では、どういう形でやるかということですが、これもいろんなやり方があるのですが、1つは満額保証するというのは私は非現実的だと思っていますので減額して保証する。減額して保証するという場合、例えば3分の1だとか半分だとか、何を根拠にするのかは問題になりますよね。だから現在の基礎年金について言いますと、3分の2が保険料で3分の1が国庫負担分なんです。ですから国庫負担分は減額しますというのは明確な根拠があります。従って、払ってきた保険分については保証するという案です。
それとも、もう1つ、私は実はこれの方がいいなあと思っているのですが、これまでみなさんが払った保険料の分はお返しするという案です。これは40年払ってきたという人については現在価値に換算して返しますので何百万という額になりますよね。保険料返還という案ですが、この場合は一時期に結構巨額の財源がいります。正確な試算をまだやっていないので、ざっと簡単に試算したところで350兆ぐらい必要です。350兆というと、これまた非現実的なということになりますので、私は、もしその案を取るとしたら、その条件に限ってだけ長期国債を発行してやる以外ないだろうと思っているのですが、これが一番後腐れがないのです。私は財政学者でも金融学者でもないので、財政論・金融論の研究者とディスカッションしながら、その現実性があるかどうか、もし現実性があるとすれば、それが一番いいことだと思います。だけど、それが現実性がないとすれば、減額給付するという形になるのでしょう。

④ 移行過程―即時完全実施か、段階的実施か
移行過程について、即時完全実施するのか、段階的に実施するのか。つまり、2009年から基本年金額が例えば8万円なら8万円を65歳以上の人全員に支給するという制度を直ちに始めるのか、それとも段階的に始めるのか。つまり1年目はその40分の1だけで、後の40分の39は社会保険方式の年金から貰う。2年目は40分の2だけ、後の40分の38は社会保険方式から貰う。実は民主党の案というのは段階実施案なんですね。ついでに言いますと生協連の案というのは、そこの段階実施か即時実施かについては全く触れていませんのでわかりませんが、民主党案は40年かけて段階実施するという案です。ですから、直ちに無年金者をなくすことは出来ないのですが、40年先には確実になくなるということがはっきり制度的にあるのですから選択肢の一つではあると思います。もちろん即時実施案の方が財源がたくさんいるので、民主党はたぶん財源のことを心配して段階実施案なんでしょうが、とにかくその辺りが主要な問題でして、これについて統一的な提案を作っていく必要があると思います。私が呼びかけても、なかなか円卓会議というのは開かれませんので、少し影響力のある団体が呼び掛けてラウンドテーブルを組んで、各党・団体がすり合わせをするというのでなければ、私は展望は出てこないと思うのです。そうすると、個別に民主党案が採決否決、社民党案が採決否決、共産党案が採決否決ということになって、与党案だけが残るということになるのがおちなのですが、統一提案さえ出来れば、今やそちらの方が展望があるだろう。従ってこの1年くらいが重要なところに来ているなと思います。

Ⅰ.公的年金制度に期待される機能  Ⅱ 日本の公的年金制度の仕組みと現状
Ⅲ 日本の公的年金制度の問題点  Ⅳ 基礎年金・公費負担方式化が世論の動向
Ⅴ 公的年金制度のゆくえ


[講師] 佛教大学 社会福祉学部  教授 里見 賢治 氏
■日時:2008年7月30日(水)  ■場所:大阪府社会福祉会館5階第1会議室
『基礎年金・公費負担方式の提案―皆保障体制をめざして』

Ⅳ 基礎年金・公費負担方式化が世論の動向


1.基礎年金・公費負担方式化の動向
① 野党の動向
基礎年金・公費負担方式化が世論の動向と2ページの下の方に書いておきましたが、野党の動向・労働組合団体の動向・自民党内の造反の動き・財界の動向・マスメディアの動向というふうに整理をしておきました。これを少しご説明したいと思います。具体的には表を付けておきましたので、9~10ページをご覧いただきますと、少しお分かりいただけると思います。これは、諸政党・団体等の基礎年金公費負担方式化案の概要と比較ということで、要するに今基礎年金が社会保険方式ではだめだ、公費負担方式にせざるを得ないと主張している主な団体をここでリストアップしておきます。
まず野党を考えてみますと、民主党も共産党も社民党も国民新党も4党とも年金制度については社会保険方式ではだめだという点では一致しております。だから、ただ細かい点は、この表の上にずっと丸数字を作っていますが、名称はどうでもいいのですが、受給要件はどうするかとか、給付水準はどの程度にするかとか、居住期間比例制とは日本国内に何年住んでいたら満額で、それより短かったら減額するという制度ですが、それを取るかとか、所得制限をするかとか、財源はどうするかとか、新制度の実施時期をどうするかという点では、それぞれ温度差があるわけです。温度差はあるのですが、一応野党は全部公費負担方式(税方式)で共通しています。そして、その下の自民党は飛ばしまして、労働組合を考えてみますと、連合と全労連だけを挙げています。全労協は年金制度はそれほど正確には出てきませんでしたので、ここでは省略させていただきましたが、どちらも基礎年金はだめだという点では一致しております。(講演録末尾・図2)
自民党内の造反の動きというので言いますと、ここではまん中あたりに自民党で2つ挙げております。この自民党有志議員案というのは、野田毅さんを会長とする議員連盟が「年金制度を抜本的に考える会」という名称だったと思うのですが、去年の12月に中間報告を出しています。この「年金制度を抜本的に考える会」は、今年の3月に議員連盟に発展しまして、山崎拓さんだとか中川秀直さんらを含めまして120以上の衆参両議院が参加してるというのですが、そこが新たに出していまして、これが基礎年金は社会保険方式では無理だと言っているわけです。さらに、今年の2月に麻生太郎さんが基礎年金は税方式でしか仕方がないと、税方式でやろうというので中央公論という雑誌の今年の3月号に論文を書いています。それから、今年の3月には元議員でもう引退していますが、塩川正十郎さんも基礎年金は税方式でしか仕方がないという案を社会保障国民会議に出しています。ですから、自民党内でぼんぼん造反が起こってきているわけです。社会保険方式で維持するべきだというのが与党なのですが、その中で社会保険方式では持たんという声がどんどん出て来ている状況になります。
それから、マスメディアではどうかと言うと、これもご記憶の方がいらっしゃると思いますが、今年の1月7日の朝刊冒頭で日本経済新聞が同社の見解として、基礎年金税方式でというのを1面トップで打ち出しまして、ですから日経新聞と言うと保守系メディアの雄で、結構影響力があるのですが、そこが出してきたわけですね。もっとも、メディアで言いますと朝日新聞と読売新聞は税方式は無理だと言う立場ですね。朝日新聞は、今年の2月に社説で社会保険方式でやるしかないというのを打ち出しました。読売新聞は、今年の4月16日の朝刊の1面冒頭で、読売新聞社の見解として社会保険方式であると打ち出しています。ですから、マスメディアは日経新聞系と読売・朝日グループとに分裂しているのですが、ここでは日経案だけを挙げています。というように、だいたい世論の多数はもうやっぱり社会保険では無理だろうと、どう考えても維持できないというふうに傾いているというところに来ているわけです。
なお、この会議は大阪府生協連の会議ですので、日本生協連にも少し触れておきます。今日持って来るのを忘れたのですが、3ページの上から4つ目の⑥で「日本生協連の提案」というのを少し書いておきました。日本生協連はご承知のとおりに、去年の3月に「生活者主権の社会保障デザイン」というパンフレットを出していますね。あれで「誰でも、いつでも、どこでも、安心してくらせる社会へ」ということで、日本生協連といいますか、その社会保障給付と負担研究会の名称で出ているのです。これでどういう見解を示しているかと言いますと、所得比例年金制度へ一元化するというのと、それで不足する人に対して最低保障年金制度を創設するとこういう言い方をしているのです。従って、どちらかと言いますと民主党案に非常に近いわけですね。民主党案というのは、最大野党だというので、今かなり注目されています。民主党案をご紹介しておきますと、自営業者も含めて1本の所得比例年金に再構成するという案なんですね。ただし、所得比例年金が非常に低い人には最低保障として基礎年金を給付する。だけど一定の所得以上の人は、最近の民主党案では600万と言われているのですが、600万を超える人については最低保障年金を減額し、1200万円以上の人には支給しないという案です。だから民主党案は、所得比例年金を一元化する。それで年金額が不十分な人については税方式で最低保障年金を提供して一定のところから減額するという案なんです。日本生協連の案と言うのも、所得比例年金制度に一元化するというので非常にこれに似ています。

2.基礎年金・公費負担方式の論点
① 受給要件
今申し上げたように、かなり世論自体は公費負担方式の方向に動いて来ているわけです。従って、この時点を逃すと年金制度を動かすのは難しくなるので、ここ1、2年が絶好のチャンスだと私は思っているのですが、そのためには、やはり統一提案を作る必要があるのですね。現在のままですと、野党も民主党案、共産党案、社民党案と部分的に全部違いがあります。労働組合も連合案と全労連案で微妙に違います。従って統一提案を出せなければ、個別に採決していくと全部負けてしまって現行制度が残るということになりかねないわけです。ですから、統一提案を作る必要があるわけで、その為にどういう論点があるかというと、1つは受給要件ですね。
どういう条件で受給するかというのですが、公費負担方式は税方式ですから保険料を納めた納めてないというのは関係ないのです。日本への居住条件というのを付けるかどうかですね。例えば、最低10年なら10年、5年なら5年日本に住んでないとだめだとかいう条件を付けるかどうかという問題です。これは、私自身は本来なら付けなくて済んだら付けない方がいいのですが、付けざるを得ないだろうと思っています。これはどうしてかと言いますと、やはり年金受給開始年齢直前に日本に移住してくるという年金目的の移住、これは確実にあるわけです。日本は今、外国人に対して非常に閉鎖的な体制ですが、これはいつまでも通りませんので、徐々に開放的な体制に向かって行きます。そうすると開放的な体制に向かった段階で、年金目的の移住が確実に起こって来る。そうすると、やっぱり制度は持たなくなりますので、ここはチェックはせざるを得ないだろう。ですから、そんなに長くいる必要はありません。5年とか10年位でいいと思っていますが、それ位の居住条件を付けるというふうにならざるを得ないだろうと思っています。そこのところをどうするかという議論を各党、各労働組合団体の間できちんと詰める必要があるのです。

② 財源
それから一番大きいのは財源です。財源については、全額消費税を主張しているのは、簡単に分り易く言いますと、自民党内のグループは全部です。財界団体、日本経済新聞もそうです。というふうに考えてくると、全額消費税方式論は、財界よりのグループが主張しているということがわかります。しかし、実は多数派ではないのです。なんとなく多数派のように報道等でなってしまっています。これはどうしてかと言いますと、読売新聞は特に今後の社会保障の財源は全額消費税でと言っているんですね。朝日新聞までが、今後の社会保障の財源は消費税を主体にすると言っています。従って、日経も含めて主要メディアが消費税でとなってしまっているので、我々が目にする情報と言うのはそれしかないですよね。だから、あたかももう消費税しかしかたがないのかという雰囲気になってしまっているのですが、本当はそうではないのです。メディアがそっちの方に傾いてしまっているので、その報道しか出てこないということですが、消費税をどうするかというのが一番大きい問題なのです。
私自身は、消費税が主たる財源というのでは決定的にまずいと思っているのですが、理由として1つは逆進性があるということと、もう1つは企業が負担しない。従って、全額消費税にすると企業が現在負担している保険料の半額の負担まで免れてしまうのです。それを全部われわれに負いかぶせてくるということになるので決定的にまずいと考えています。
だけど、その点についてはそれらの弊害を緩和する手がないわけではないのです。企業が負担しないという点は連合も全労連も主張していますが、税方式になって社会保険料を取らなくなると企業の保険料はその分助かりますが、例えば、その代りに事業主拠出金というのを別に作るという案があります。連合案もそうですし、全労連案もそうです。それをやると確かに企業が負担しないという点をクリア出来ます。それから逆進性という点については、例えば生活必需品については非課税にするとか0税率にするとか、軽減税率にして取るとかという形をとれば、全部はクリア出来ませんが、かなりクリア出来ます。しかし、今のところそういう条件はありませんので、財源の問題についてもやはり議論をせざるを得ないだろうと思っています。ただ、現在ある消費税をどうするかということですが、私の見る限り、現在ある5%の消費税まで廃止するということを主張している政党・団体はないのです。ですから、どの政党も現在ある消費税をどうするかについては触れていません。従って、現在ある消費税については許容せざるを得ないだろうと各政党・団体とも考えていると判断せざるをえないので、現行消費税については、先の改善案を取り入れるという条件で、認めざるをえないのではないかなと考えています。
それについては、ちょっと時間が無くなってきましたが、1点だけ付け加えておきますが、今年の5月に社会保障国民会議の報告というのがあったのをご存知ですよね。社会保障国民会議が税方式になった場合にどの程度財源がいるかという試算をしたのです。それを新聞に発表しました。それによると大体、基礎年金を公費負担方式にするというのにいろんな案が出て、それによって違うのですが、来年度から基礎年金を税方式に転換した場合、1番税負担が少ない場合で、消費税に換算しますと3.5%の増税が必要で、1番負担の多いケースを考えると12%の増税が必要だということなのです。社会保険方式論者は、年金だけでこれだけの増税が必要なら税方式というのはもともと不可能のであるということが立証されたというふうに大喜びしていますし、自民党内の税方式論者たちは、これは税方式は無理だということを示すための政治的な試算だというので怒り狂ったわけですね。
この試算について一言だけ触れておかなければなりませんが、これは消費税に換算した場合という前提なんですが、基礎年金を公費負担方式に変えますと、忘れてはならないのは、現在の基礎年金分の保険料はゼロになるということです。その分を消費税で取ったとしたらという仮定ですよね。その場合は、現在9兆円ぐらいを基礎年金の社会保険料で取っていますので、その分を新たに消費税で取ると3.5%になるということです。だから、これは増税でも何でもないですよね。今まで保険料として取っていたものが、税という形になる。取り方が変わるだけでしょう。いらなくなる分を引きますと3.5~12%ではなくて、0~8.5%というのが試算なんです。
しかも8.5%というのは、非常に非現実的な案でして、つまり新たに基礎年金7万円を全員に支給し、その上に現在まですでに保険料を払って来た人たちの分はチャラに出来ないので全額上乗せするという案なのです。だから、もし40年間保険料を払って来た人は6万6千円上乗せするという案の場合が12%、8.5%になるわけです。これを主張している団体・政党はどこもないのです。私もそれは主張していません。そこまでは必要ないだろうと思います。これまで払って来た保険料はチャラには出来ませんが、満額保障する必要はないので、従ってその仮定というのは非現実的な仮定なので、どの団体も支持していません。これを除きますと、負担は0~5%となります。だから、確かに自民党造反派が政治的試算だと怒っているのも分からなくはないですね。明らかに保険料がいらなくなる分まで増税というふうに数えたり、非現実な案を持って来たりして非常に高く示しているということで、実際はこの程度です。ですから、財源問題は非常に微妙な問題ですが、きちっと議論する必要があります。

③ 支払い済み保険料の取扱
これは先ほど申し上げましたように、これまで保険料を払ってきた人の分をどうするかということで、チャラには出来ないということははっきりしています。ですから、これまで保険料を払ってきた人は損はしませんということは保証します。では、どういう形でやるかということですが、これもいろんなやり方があるのですが、1つは満額保証するというのは私は非現実的だと思っていますので減額して保証する。減額して保証するという場合、例えば3分の1だとか半分だとか、何を根拠にするのかは問題になりますよね。だから現在の基礎年金について言いますと、3分の2が保険料で3分の1が国庫負担分なんです。ですから国庫負担分は減額しますというのは明確な根拠があります。従って、払ってきた保険分については保証するという案です。
それとも、もう1つ、私は実はこれの方がいいなあと思っているのですが、これまでみなさんが払った保険料の分はお返しするという案です。これは40年払ってきたという人については現在価値に換算して返しますので何百万という額になりますよね。保険料返還という案ですが、この場合は一時期に結構巨額の財源がいります。正確な試算をまだやっていないので、ざっと簡単に試算したところで350兆ぐらい必要です。350兆というと、これまた非現実的なということになりますので、私は、もしその案を取るとしたら、その条件に限ってだけ長期国債を発行してやる以外ないだろうと思っているのですが、これが一番後腐れがないのです。私は財政学者でも金融学者でもないので、財政論・金融論の研究者とディスカッションしながら、その現実性があるかどうか、もし現実性があるとすれば、それが一番いいことだと思います。だけど、それが現実性がないとすれば、減額給付するという形になるのでしょう。

④ 移行過程―即時完全実施か、段階的実施か
移行過程について、即時完全実施するのか、段階的に実施するのか。つまり、2009年から基本年金額が例えば8万円なら8万円を65歳以上の人全員に支給するという制度を直ちに始めるのか、それとも段階的に始めるのか。つまり1年目はその40分の1だけで、後の40分の39は社会保険方式の年金から貰う。2年目は40分の2だけ、後の40分の38は社会保険方式から貰う。実は民主党の案というのは段階実施案なんですね。ついでに言いますと生協連の案というのは、そこの段階実施か即時実施かについては全く触れていませんのでわかりませんが、民主党案は40年かけて段階実施するという案です。ですから、直ちに無年金者をなくすことは出来ないのですが、40年先には確実になくなるということがはっきり制度的にあるのですから選択肢の一つではあると思います。もちろん即時実施案の方が財源がたくさんいるので、民主党はたぶん財源のことを心配して段階実施案なんでしょうが、とにかくその辺りが主要な問題でして、これについて統一的な提案を作っていく必要があると思います。私が呼びかけても、なかなか円卓会議というのは開かれませんので、少し影響力のある団体が呼び掛けてラウンドテーブルを組んで、各党・団体がすり合わせをするというのでなければ、私は展望は出てこないと思うのです。そうすると、個別に民主党案が採決否決、社民党案が採決否決、共産党案が採決否決ということになって、与党案だけが残るということになるのがおちなのですが、統一提案さえ出来れば、今やそちらの方が展望があるだろう。従ってこの1年くらいが重要なところに来ているなと思います。